猫の黄疸を獣医師が解説 見分け方や症状・原因、治療法まで
黄疸は猫においてよくみられる症状です。猫が黄疸になっている場合は必ず重大な病気が存在します。黄疸は知らないと気付きにくく、対応が遅れてしまうことが多いです。今回紹介する内容を参考にしていただき、早めの対応をしていただければ幸いです。今回は猫の黄疸の見分け方や症状・原因、治療法等について、平井動物病院院長の米山が解説します。
猫の黄疸とは
黄疸は、ビリルビンという黄色い色素が増加して全身の組織に沈着した状態です。さまざまな病気によって生じますが、例外なく緊急性が高く、危険な状態であると言えます。早く気付いて対処することが重要です。
黄疸の見分け方
猫が黄疸になると、歯茎・皮膚・尿などが黄色くなります。人の黄疸は白目を見るとわかりやすいようですが、猫の黄疸は白目を見てもわかりにくいです。尿の色が最もわかりやすいでしょう。尿は、「脱水による濃縮(黄土色)」「血尿(こげ茶色~赤色)」「黄疸(黄色~オレンジ色)」などによって色が変化します。黄疸においては、尿の色が濃くなるというよりは黄色味が強くなります。尿が普段と比べて黄色いと感じたら、皮膚(目と耳の間、耳の内側などの毛が薄い部分)の色も観察してみてください。黄疸が軽度の場合は判別できませんが、重度の場合は皮膚も黄色味を帯びてきます。
黄疸に併発する症状
黄疸の猫の大半は、食欲不振や嘔吐などを併発します。まれに、黄疸以外の症状がみられない場合もあります。いずれにしても、黄疸になっている時点で重大な病気が存在することは間違いありませんので、様子を見てはいけません。黄疸への対応
猫の黄疸は早急に治療を行う必要があります。そのためには、「家で黄疸に気付けるかどうか」「黄疸の危険性を認識してすぐに動物病院に連れていけるかどうか」という点が重要となります。黄疸を主訴として動物病院に来院される飼い主さんはほとんどいらっしゃいません。大半の方は他の症状を主訴に来院されます。ただ、話を聞いてみると、尿の色の変化に気付いている方もいらっしゃるようです。「黄疸かもしれない」とは思いつつも、よくわからないためスルーしてしまうのでしょう。
「普段から尿の色に注意を払う」「状態が悪い時は尿や皮膚の色を観察してみる」などのことを行って早めに黄疸に気付けるようにしてください。また、黄疸は危険な状態であるということを認識し、気付いた時には早めに動物病院を受診するようにしてください。
猫の黄疸の原因
黄疸の直接的な原因となるビリルビンは、赤血球内に含まれるヘモグロビンが分解されたものです。老化赤血球が破壊されてビリルビンが作られ、肝臓で処理されて、胆汁中に排泄されます。
この経路のどこかに異常があると血液中のビリルビンが増加します。原因として以下の4点が挙げられます。
- 赤血球の大量破壊(溶血性黄疸)
- 肝臓病(肝性黄疸)
- 胆管閉塞(閉塞性黄疸)
- その他
赤血球の大量破壊(溶血性黄疸)
赤血球が異常に破壊されることによってビリルビンの量が増え、黄疸になります。タマネギ中毒、感染症(ヘモプラズマなど)、免疫疾患(自己免疫性溶血性貧血)などが挙げられます。肝臓病(肝性黄疸)
肝臓の障害によってビリルビンの処理や排泄ができなくなり、黄疸になります。胆管炎、肝リピドーシス、薬物や毒物による肝障害、肝腫瘍、猫伝染性腹膜炎などが挙げられます。胆管閉塞(閉塞性黄疸)
胆管の物理的な閉塞によって胆汁が流れなくなり、黄疸になります。胆嚢炎、胆石、膵炎、腸炎、腫瘍などが挙げられます。その他
全身の炎症や感染症、栄養不良などによって黄疸になる場合があります。猫の黄疸は、「肝性黄疸が多い」「その他の原因でも黄疸になる」といった特徴があります。
猫は肝性黄疸が多い
犬は胆嚢疾患による閉塞性黄疸が多く、肝性黄疸は少ないです。猫は胆管炎や肝リピドーシスによる肝性黄疸が多く、閉塞性黄疸は少ないです。猫はその他の原因でも黄疸になる
黄疸の原因は「溶血」「肝臓病」「胆管閉塞」の3通りだけかと思いきや、猫においてはそれらに当てはまらない軽度の黄疸がよくみられます。何らかの病気によって猫の状態が非常に悪くなると、黄疸が生じる場合があります。これは、炎症性物質や細菌毒素などの影響によって肝臓におけるビリルビンの取り込みや排泄が低下するためであると考えられています。肝臓自体の障害というわけではありません。このような場合は、黄疸はあまり気にせず原疾患に対する治療を行います。原疾患が改善すれば黄疸も消失します。
猫の黄疸の診断
猫の黄疸は、主に血液検査と超音波検査によって診断します。
血液検査
黄疸があるかどうかは、血液検査でビリルビンの数値を測定することによって確定できます。さらに原因を調べるために他の項目も測定します。超音波検査
肝臓、胆嚢、胆管、膵臓、その他の臓器を確認します。診断手順
まず、貧血がないかどうかを血液検査で確認します。重度の貧血があれば溶血性黄疸の可能性が高いです。貧血がなければ、肝性または閉塞性のいずれかを考えます。いずれの場合も肝酵素(ALT、ALP、GGTなど)の数値が高くなりますが、数値の比較からある程度の推測ができます。鑑別に最も有用なのは超音波検査です。胆管の拡張があれば閉塞性黄疸の可能性が高く、拡張がなければ肝性黄疸の可能性が高いです。
また、軽度の黄疸があり、肝性でも閉塞性でもなさそうな場合には、その他の疾患を考えて必要に応じた検査(ウイルス検査など)を行います。
上記のような手順で「溶血性、肝性、閉塞性、その他」の分類を行い、そこからさらに詳細な検査あるいは試験的治療に進んでいきます。
猫の黄疸の治療
黄疸の治療法は原因によって異なります。大きく分けると、胆管閉塞がある場合は手術、胆管閉塞がない場合(溶血、肝臓病)は内科治療、ということになります。
猫の黄疸は、いずれの原因にしろ命が危ない状態です。様子を見てから考えたいと言って連れて帰る方もいらっしゃいますが、様子を見ると手遅れになる可能性が高いです。助けられるかどうかは病気次第ですが、完治する例も多いので、最初から諦めないようにしてください。ただし、基本的に入院または毎日通院するぐらいの治療は必要となります。
代表的な病気の診断と治療
「溶血性貧血」「胆管炎」「肝リピドーシス」「胆管閉塞」の診断と治療について簡単に記述します。
溶血性貧血
猫の状況(飼育環境、異物摂取の有無など)および血液検査結果から診断します。ヘモプラズマ感染が疑われる場合は抗菌剤(+ステロイド)治療、免疫疾患が疑われる場合はステロイド治療、タマネギ中毒が疑われる場合は対症療法を行います。胆管炎
猫の状況(年齢、異物摂取の有無、急性か慢性か、黄疸以外の症状、食欲の有無など)および検査結果(血液検査、超音波検査、細胞診など)から、胆管炎の仮診断を行います。 胆管炎の原因を大きく分けると、「細菌感染」「細菌感染以外」の2通りです。前者は主に急性(慢性の場合もあり)の胆管炎、後者は慢性の胆管炎となります。また、前者は抗菌剤治療、後者はステロイド治療、といったように治療法も異なります。これらを鑑別するには組織生検が必要ですが、開腹または腹腔鏡による手術という大がかりなものとなるため、最初から行うケースは少ないです。一般的には、仮診断を基にまず抗菌剤(+輸液、強肝剤、制吐剤)治療を行い、効果がなければ組織生検やステロイド治療を検討する、というケースが多いでしょう。
急性の胆管炎は突然発症しますので、予防は難しいです。発症した場合は、集中的に治療することによって完治も可能です。
慢性の胆管炎は徐々に進行します。できれば黄疸などの症状が出る前に治療を開始するのが望ましいでしょう。ただ、初期は無症状であるため発見が難しく、また、偶然発見できても治療に同意していただけない場合がよくあります。「定期的に健康診断を行い、異常があったら無症状のうちから治療を開始する」という意識があると、良い結果につながるかもしれません。
肝リピドーシス
肥満気味の猫において、何らかの原因(病気やストレスなど)によって食欲が低下した状態が続くと、体内の脂肪が急速に分解されて肝臓に蓄積します。これが肝リピドーシス(脂肪肝)です。大したことなさそうな印象を持たれるかもしれませんが、非常に重篤な状態になり、治療しなければ亡くなってしまいます。肝リピドーシスを治すためには、栄養補給をして脂肪の分解を止めなければいけません。つまり、充分量の食事を食べさせることが治療となります。これも簡単そうですが、実際には困難です。状態が悪いため、強制的に食べさせようとしてもよだれとともに出してしまいます。
ではどうするかというと、食道にチューブを入れ、首の横から流動食を投与できるようにします。チューブを入れるには全身麻酔が必要ですが、口から食べさせられない状況の場合には早めに決断しなければいけません。
治療を開始すると、体内で急激な代謝の変動が生じて状態が悪化する場合があります。血液検査を頻繁に行い、点滴を調整しながら対処していきます。状態が安定したら退院し、家でも流動食の投与を続けます。自力で食べられるようになるまで数週間~1カ月以上かかる場合もあります。
肥満気味の猫が2日以上食べなくなると肝リピドーシスを発症するおそれがあります。食欲がなく、吐いていたり黄疸になっていたりする場合は、早急に動物病院を受診してください。また、普段から猫を太らせないようにお気を付けください。
胆管閉塞
胆管閉塞は、画像検査(超音波、X線)によって診断します。胆石や胆泥の有無、胆嚢や胆管の拡張の有無などを確認します。猫は胆嚢奇形が多く、判断がやや難しい時もあります。 治療としては、基本的に手術が必要です。胆石の摘出、胆嚢と十二指腸の吻合、などを行います。手術のリスクは高いですが、それ以外に治療法はありません。状態が悪いほどリスクは高くなりますので、早めの決断が重要となります。猫の黄疸は早めの対応を
黄疸は危険な症状であるということをご理解いただけましたでしょうか。黄疸に気付いたら早急に動物病院を受診し、獣医師の話をしっかり聞いた上で治療をお考えいただければと思います。