猫のお腹が膨れるときは重大な病気の可能性も!原因や治療法を獣医師が解説
猫のお腹が膨れる原因はさまざまです。内臓腫大や重大な病気による腹水貯留の可能性もありますので、早めに対応していきましょう。今回は猫のお腹の中が膨れる原因や治療法について、平井動物病院院長の米山が解説します。
猫のお腹が膨れている場合の対応
「猫のお腹が膨れているかな?」と感じた時には、以下の点を確認してみてください。
猫のお腹のどの部分が膨れているか
お腹を軽く触ってみると、どの部分が膨れているかがわかると思います。具体的には「皮膚」「皮下」「お腹の中」のいずれかです。皮膚・皮下の膨れ
皮膚または皮下が膨れている場合は、「皮下脂肪」「皮下浮腫」「臍ヘルニア」「皮膚・皮下の嚢胞・膿瘍・腫瘍」「乳腺の腫脹・腫瘍」などが考えられます。お腹の皮膚がたるんで余っているのは「ルーズスキン」と呼ばれるものです。猫においてよくみられますが、異常ではありません。お腹の中の膨れ
皮膚の内側に腹筋があります。腹筋が上下または左右に張り出している場合は、お腹の中が膨れているということになります。原因については後述します。猫のお腹の膨れに変化があるかどうか
お腹が急に膨れてきていたら病気の可能性が高いです。昔から変わらないのであれば太っているだけかもしれません。他の症状があるかどうか
他の症状(元気、食欲、飲水量、排泄、呼吸状態などの異常)があれば病気の可能性が高いです。特に、食欲が低下しているにも関わらずお腹が膨れてきたような場合には、病気が存在すると考えて間違いありません。一方で、無症状でも病気がないと言えるわけではありません。初期には無症状ということはよくあります。お腹が急に膨れてきたり他の症状があったりする場合は、緊急治療が必要となる可能性がありますので、早急に動物病院を受診してください。それ以外の場合においても、一度は動物病院を受診してください。重大な病気かもしれませんし、ただの肥満かもしれませんが、診察してみないと判断できません。
猫のお腹の中が膨れる原因
以下は、「お腹の中の膨れ」を中心に話を進めていきます。猫のお腹の中が膨れる原因としては、次のようなものが挙げられます。
肥満
肥満は病気ではありませんが、健康上良いわけでもありません。肥満にならないように気を付けましょう。妊娠
妊娠も病気ではありませんが、気付かないうちに妊娠するような飼い方には問題があります。多頭飼いまたは外飼いの場合は必ず避妊手術をしてください。胃腸の拡張
胃腸内に大量の内容物(食塊、液体、空気など)がたまっている状態です。「胃腸の閉塞」「重度の便秘」「呼吸困難に伴う空気の飲み込み」などによって生じます。子猫や痩せている猫においては、「大量の食事後」「軽度の便秘」などでもお腹が膨れることがあります。この場合は異常ではありません。子宮の拡張
子宮内に水、粘液、膿などがたまっている状態です。未避妊の雌猫において生じる場合があります。内臓腫大
腹部臓器が腫瘍や嚢胞などによって腫大している状態です。肝臓腫大(腫瘍、嚢胞、代謝性疾患など)、腎臓腫大(腫瘍、水腎症、多発性嚢胞腎、腎周囲偽嚢胞など)、小腸腫瘤(腺癌、リンパ腫など)が比較的よくみられます。気腹症
お腹の中に空気が溜まっている状態です。胃腸の内側ではなく外側に空気が存在するのは重大な異常です。気腹症は胃腸に穴が開くことによって生じます。原因として、事故や外傷、胃腸内異物、腫瘍、胃潰瘍などが挙げられます。腹水貯留
お腹の中に水がたまっている状態です。以下のような原因が挙げられます。心臓病
心臓病(主に心筋症)によって腹水が貯留します。どちらかといえば胸水が貯留する場合のほうが多いですが、腹水のみ、あるいは腹水と胸水両方が貯留する場合もあります。腹膜炎
感染症(猫伝染性腹膜炎など)や内臓破裂(胃腸、膀胱、胆嚢など)による腹膜炎によって腹水が貯留します。腫瘍
お腹の中の腫瘍(リンパ腫、肥満細胞腫、腺癌、中皮腫など)によって腹水が貯留します。内臓からの出血
肝臓や脾臓などの損傷によって血様の腹水が貯留します。低タンパク血症
血液中のタンパクの減少によって腹水が貯留します。過剰輸液
腎臓病などの治療で輸液を行う際に、輸液量が多かったり、心臓病の併発が隠れていたりすると、肺水腫、胸水・腹水の貯留、皮下浮腫などが生じます。犬と猫では、お腹の中が膨れる原因はだいぶ異なります。犬では「クッシング症候群」「子宮蓄膿症」「巨大な脾臓腫瘍」「低タンパク血症による腹水貯留」などがよくみられますが、猫ではあまりみられません。猫における特徴的な病態としては、「猫伝染性腹膜炎による腹水貯留」が挙げられます。
猫のお腹が膨れている場合の診断法
猫のお腹が膨れている場合には、触診、超音波検査、X線検査などによって診断していきます。
触診
まずは触診を行います。猫では腹部臓器の触知が可能であり、どの臓器が腫大しているかは触診でだいたいわかります。触診は経験が必要です。お腹を強引に圧迫すると内臓破裂を引き起こす可能性もありますので、飼い主さんは無理に触診を行わないようにしてください。
超音波検査
お腹の中の膨れを調べる検査としては、超音波検査が最も有用です。「内臓腫大」「腹水貯留」など、大半の異常は超音波検査によって検出できます。また、心臓病の診断にも有用です。X線検査
X線検査は、超音波検査で見えづらい「異物」「胃腸の異常」「空気の貯留」などの検出に有用です。上記の画像検査で異常が検出された場合には、必要に応じて血液検査、腹水検査、細胞診などを行って診断を進めていきます。異常が検出されなかった場合には、「肥満」と判断して経過観察をするか、それでも病気が疑わしければ血液検査などを行うか、状況次第となります。
猫のお腹が膨れている場合の治療法
主な原因に対する治療法について簡単に触れておきます。
肥満
食事の種類や量を見直して徐々に減量を行います。急激な減量は肝リピドーシスを発症させるおそれがあります。絶食させたり食事量を半分に減らしたりして一気に痩せさせようと考える方がいらっしゃいますが、危険ですので絶対にやらないようにしてください。腹水貯留
腹水貯留の原因となっている病気の治療を行います。腹水を抜去しても病気が治るわけではなく、すぐに再貯留します。また、水だけでなく栄養成分も失ってしまいます。たまりすぎて苦しい時以外は極力抜去しないほうがいいでしょう。腫瘍
手術や抗がん剤などによる治療が可能な状況であれば行います。不可能であれば緩和療法を行います。内臓破裂
緊急手術(破裂した臓器の縫合、摘出など)を行います。心臓病
投薬治療(心臓薬、利尿薬など)を行います。猫伝染性腹膜炎
投薬治療(免疫抑制剤など)を行います。猫のお腹が膨れていたら早めに動物病院へ
猫のお腹の膨れについて解説させていただきました。病気によってお腹が膨れている場合はかなり深刻な状態であるということをご理解いただければと思います。お腹の膨れに気付いたら早めに動物病院を受診してください。