猫の胸水|症状・原因・治療法・予防法などを循環器認定医獣医師が解説

猫の胸水|症状・原因・治療法・予防法などを循環器認定医獣医師が解説

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猫の胸水は、胸腔内に多量の液体がたまり、呼吸困難などの症状を引き起こす病態です。緊急性が高く、死に至る可能性があります。猫の胸水の症状や原因、治療法について、ライオン動物病院、苅谷動物病院(循環器科)で勤務医をしている循環器認定医の深井が説明していきます。

猫の胸水とは

胸腔は、大部分を肺が占め、そのほか心臓、気管、食道といった臓器が存在します。胸水貯留は、この胸腔に必要以上に多量の液体が貯まってしまう病態ですが、その結果、肺は圧迫され正常な機能が行えなくなり、呼吸困難になってしまいます。胸水は、透明な液体の場合や、膿、血様、乳ビ(乳白色のリンパ液)などの液体の場合があります。胸水の性状により、膿胸、血胸、乳ビ胸と呼ばれることもあります。

胸水は正常時も存在するもの

胸水は、正常な時も胸膜腔内(胸腔内で胸壁内面と肺表面の覆っている膜の間にある空間)に少量存在し、呼吸によって生じる肺と胸壁の摩擦を最小限に抑える潤滑剤のような役割を担っています。

しかし、胸水の産生が多すぎたり胸水の吸収が上手くできないと必要以上の胸水が貯留してしまいます。すなわち胸水貯留は、胸水の産生吸収のバランスが破綻した結果、胸膜腔内に異常な量の液体貯留が起こってしまう病態と言えます。

胸水貯留の原因はさまざま

胸水貯留はいろいろな原因で起きますので、胸水の性状を調べて大きく鑑別していきます。そしてそこから、さらに詳しい原因、病気を特定していきます。

胸水の性状は、漏出液、変性漏出液、滲出液、といった性状に分類されます。この性状は、低アルブミン血症、うっ血性心不全(左心系/右心系)、腫瘍、感染症(猫伝染性腹膜炎など)、外傷性、特発性といった胸水貯留を引き起こす基礎疾患によって異なります。

緊急性

胸水貯留の場合、呼吸困難が起こり死に至る可能性が否定できませんので、緊急性があります。

胸水になりやすい猫腫・年代

胸水になりやすい特定の猫腫や特定の年代はありません。

猫の胸水の症状

  • 呼吸状態が悪くなる(呼吸促迫・呼吸困難)
胸水が貯留すると、上記のような呼吸器症状がみられます。そのほか基礎疾患によってそれぞれ呼吸器以外の症状も認められます。

猫の胸水の性状と考えられる原因

胸水の性状により原因の鑑別を行います。胸水の性状は、胸水の比重やタンパク濃度、そして細胞の数を調べて分類し、また細胞の構成成分なども調べていきます。(※1)

漏出液

血管から液体成分が漏れ出てしまう時に見られるもので、タンパク成分はあまり含んでいません。低アルブミン血症(猫では少ない)やうっ血性心不全(左心系/右心系)などで見られます。

変性漏出液

血管から液体成分が漏れ出てしまう時に見られるもので、タンパク成分を中程度に含みます。うっ血性心不全(左心系/右心系)、横隔膜ヘルニア、腫瘍、肺葉捻転(猫ではまれ)など、さまざまな疾患で見られます。

滲出液

炎症反応が起き、その結果液体が産生された時に見られるものです。タンパク成分や細胞成分を豊富に含みます。膿胸や猫伝染性腹膜炎などで見られます。

そのほか、以下のようなものもみられます。

乳び

リンパ管からリンパ液が漏れ出てしまう時に見られ、乳び胸と言われます。性状は、漏出液もしくは変性漏出液に分類されます。特発性のもののほか、横隔膜ヘルニア、腫瘍、肺葉捻転(猫ではまれ)などで見られます。

出血性

出血が胸腔内で起きている時に見られ、血胸と言われます。胸部外傷、腫瘍、肺葉捻転(猫ではまれ)、凝固異常などで見られます。

猫の胸水の検査・診断方法

  • 胸部レントゲン検査
  • 超音波検査
抜去した胸水性状の検査を行い、基礎疾患を推定し、さらに必要であれば血液検査などを実施します。

猫の胸水の治療・予後

  • 胸水抜去
  • 基礎疾患の治療
胸水が貯留していることで呼吸状態が悪い場合は、胸水を抜くことが第一選択になります。しかし、胸水を抜いて完治するわけではありません。胸水が貯留する基礎疾患を見つけ、それにあった治療をしていきます。胸水を抜くのは対症療法であり、基礎疾患の治療なしに胸水の貯留量を減らすもしくは胸水の貯留をなくすことは困難と考えられます。

予後は、基礎疾患の状態や治療反応に依存します。

猫の胸水の治療法

治療法は、対症療法としては前述したように胸水抜去になりますが、根本的な治療は基礎疾患によって異なります。(※2)

うっ血性心不全

内科療法が適応になります。うっ血を解除するために、利尿剤が用いられます。そのほか詳細は、「猫の心筋症」の解説記事を参考にしてください。

横隔膜ヘルニア

外科療法が適応になります。外傷性のものでは、動物の状態が安定してない受傷後24時間以内や1年以上経過しているものはリスクが高いとされています。

腫瘍

外科療法にて摘出、もしくは化学療法が適応になる腫瘍の場合には、化学療法剤(抗がん剤)が用いられます。

膿胸

基本的には内科療法が適応になり、ドレーンの設置の上、胸腔内洗浄を行います。細菌に対して抗生物質が用いられます。内科療法に反応せず原因が特定している場合は、外科療法も考慮されます。そのほか詳細は、「猫の膿胸」の解説記事を参考にしてください。

猫伝染性腹膜炎(滲出型:wet-type)

※滲出型猫伝染性腹膜炎の62%は腹水のみ、17%は胸水のみ、21%は胸水腹水両方が認められています(※3)。
内科療法が適応になりますが、特異的治療はありません。緩和治療になります。ステロイド剤、トロンボキサンA2合成酵素阻害薬、インターフェロンが用いられます。また近年では、免疫抑制剤も用いられることがあります。

特発性乳び

内科療法、外科療法ともに適応になります。内科療法では、食事管理(低脂肪食)、中鎖脂肪酸トリグリセリド、そしてオクトレオチドが用いられます。しかし、これらの有効性は明確ではないとされています。また、ルチンの使用で効果があったという症例報告があります。こちらも有効性および副作用は不明な点が多いです。外科療法は、内科療法の反応が乏しい時に実施されますが、胸膜の状態が重度になる前に実施します。

胸部外傷

外傷の状態により、決定されます。

凝固異常

内科療法が適応になりますが、凝固異常を起こす基礎疾患により決定されます。

猫の胸水の治療・手術費用、治療・入院期間の目安

治療・手術費用は各病院の規定によります。治療期間・入院期間は基礎疾患の状態、治療反応によります。

猫の胸水の予防法

特記事項はありません。

猫の胸水に良いフード・サプリメント

特記事項はありません。

猫の胸水は緊急性が高い病態

猫の胸水は緊急性が高く、死に至る可能性がある病態です。胸水になりやすい特定の猫腫や特定の年代はなく、原因はさまざまです。呼吸状態が悪かったり、いつもと違う咳をしている場合は、必ず動物病院で診てもらうようにしてください。

引用文献

  • 1) Richard W. Nelson, C.Guillermo Couto. Small Animal Internal Medicine, 4th ed, 2008 ; Mosby
  • 2) Theresa Welch Fossum. Small Animal Surgery, 3rd ed, 2008 ; インターズー
  • 3) Hartmann K., Feline infectious peritonitis , Vet Clin North Am Small Anim Pract, 2005 35(1). 39-79