猫の口臭は病気が原因?放置せず早期治療を【獣医師が解説】
猫の口臭は軽く考えられがちですが、歯周病や腫瘍など口腔内の病気から腎臓病、糖尿病など内臓疾患を原因とするものまであり、実は口の中および全身の健康において重要な意味を持っています。今回は猫の口臭について、原因として考えられる病気やその治療法を平井動物病院院長の米山が解説します。
猫に口臭があるのは当たり前?
「猫に口臭があるのは普通のことだ」と考えている方は多いと思います。しかしながら、口臭がある状態は正常ではありません。何らかの病気があると考えて差し支えないでしょう。
猫の口臭は治療せずに放置されている例も多いです。「飼い主さんが気付いていない」「気付いているけど気にしていない」「気付いていて気になるけど治療したくない」など、状況はさまざまです。
口臭は猫の健康上良くありませんし、飼い主さんも一緒にいて不快な思いをすることもあるでしょうから、治療は猫と飼い主さん双方にメリットがあります。
猫の口臭の原因
猫の口臭の原因として、口腔内疾患および内臓疾患が挙げられます。
口腔内疾患
歯周病、歯肉口内炎、腫瘍など、口腔内の病気によって口臭が生じます。内臓疾患
腎臓病、肝臓病、糖尿病などで状態がかなり悪くなると口臭が生じる場合があります。割合としては、大半は口腔内疾患です。3歳以上の猫の80%に歯周病があるとされているため、多くの猫に歯周病由来の口臭があるものと考えられます。
口臭がひどいほど歯周病も重度である可能性が高いです。
「水をよく飲む」「元気や食欲がない」「ボーッとして覇気がない」などの症状と併せて急に口の臭いが変わったような場合には、内臓疾患(大半は腎臓病)も考えられます。
口臭の表現としては、「ドブのような臭い」「酸っぱい臭い」「アンモニアの臭い」などいろいろとありますが、飼い主さんが臭いから病気を判断するのは難しいと思います。
あまり考えすぎず、早めに動物病院を受診してください。
以下は、口臭の原因の大半を占める口腔内疾患(特に歯周病)について話を進めていきます。
口腔内疾患による猫の口臭
口臭の直接的な原因となるのは、「歯周病菌によって産生される揮発性硫化物」「腫瘍や骨壊死などに伴う腐敗臭」などです。大半は前者ということになります。
歯垢と歯石
歯垢が唾液と混ざって石灰化すると歯石になります。歯石は目立ちますので、口臭や歯周病の元凶と思われがちですが、実はそうではありません。歯周病菌は歯石ではなく、歯石になる前の歯垢の中に存在します。
口臭の原因は歯石ではなく歯垢であり、歯周病を進行させるのも歯石ではなく歯垢です。
歯石の表面は歯垢が増えやすいという問題があるため、歯石も除去したほうがいいことは間違いありません。ただし、歯と歯肉の隙間(歯周ポケット)にある歯垢を除去することがさらに重要です。
無麻酔で歯石を取る行為が流行っていますが、歯周ポケット内の歯垢は除去できないため治療効果としては不完全なものとなります。
また、事故のリスクや猫へのストレスといったデメリットが大きいです。麻酔をかけてしっかりと歯垢や歯石を除去してもらうようにしてください。
口臭以外の症状
口腔内疾患における口臭以外の症状としては「よだれが多い」「食べる時に痛そう」「食べたそうだけど食べられない」などが挙げられます。このような症状があって食欲が低下している場合は、治療の必要性に異論はないかと思います。
問題は、口臭があるけど食欲は低下していないという場合です。食欲があるなら治療したくないと考える方も多いですが、口臭があるということは口の中に病気が存在しているわけですから、放置するのは良くありません。
歯周病を放置するとどうなる?
歯周病が進行すると「歯を抜かなければいけなくなる」「歯根の周囲に膿がたまる」「顎の骨が壊死する」などの問題が生じてきます。また、歯周病菌が血管内に入って全身に回ることにより、内臓にも悪影響を及ぼします。特に、心臓病や腎臓病の発生率が高くなることが知られています。
歯周病はすぐに命に関わらなさそうなため様子を見られがちですが、それによって上記のような病気を発症してしまうかもしれません。
猫の寿命は長いですから、後悔のないように先々のことまで考えて治療をご検討いただければと思います。
口腔内疾患の治療
猫の口腔内疾患としては「歯周病」の他に「歯肉口内炎」「歯の吸収病巣」といった猫特有の病気もみられます。
それぞれの病気に対する治療法は以下のようになります。
歯周病
- 全身麻酔下での処置(歯石・歯垢の除去、抜歯など)
歯肉口内炎
- 全身麻酔下での処置(歯石・歯垢の除去、抜歯など)
- 内科療法(ステロイド、消炎鎮痛剤、インターフェロンなど)
歯の吸収病巣
- 全身麻酔下での処置(抜歯)
上記のように、基本的に全身麻酔下での処置が必要となります。処置をせずに口臭だけ改善させるのは難しく、また、良い方法でもありません。
例えば、抗生物質で歯周病菌を減らそうとしてもあまり効果は期待できないですし、サプリメントで口臭が軽減したように感じられても歯周病自体が治っているわけではありません。
補助的に使用するのは良いのですが、それだけではなく根本的な治療も必要であるということをご理解ください。
処置に際しては麻酔が問題となります。飼い主さんが麻酔を嫌うのはよくわかっておりますが、麻酔は無駄に行うわけではありません。
麻酔のデメリットよりも治療のメリットのほうが大きいと判断した上で治療を勧めています。ただし、他の病気(心臓病、腎臓病、呼吸器病など)があるなど麻酔のリスクが高い場合には、治療を行うかどうかを慎重に判断しなければいけません。
治療したくてもできないという状況にならないためには、高齢になる前に、あるいは腎臓が悪くなる前に、早い段階で治療を行うようにしてください。
口腔内疾患の予防
歯周病と歯肉口内炎に関しては、歯垢や歯石を増やさないためのケアが重要となります。
歯ブラシによる歯磨きが最も有効ですので、可能であればぜひ行ってください。ただし、言うのは簡単でやるのは難しいです。
猫の性格次第では難しく、口が痛い場合も難しいでしょう。歯ブラシ以外では「水分を含ませた綿棒で歯垢を落とす」「歯垢予防のサプリメント、ガム、特殊なドライフードを与える」などの方法もある程度の効果が期待できます。
フードに関しては、ドライフードのほうがウェットフードよりも歯垢・歯石が付きにくいと一般的に言われていますが、実はあまり関係ないというデータもあります。
歯垢予防目的で作られた特殊なドライフードは別として、ふつうのドライフードでは予防にはならないと考えていただいたほうがいいでしょう。
歯垢予防のフードを与えるか、またはフードは気にせずそれ以外の方法で予防を行うか、どちらでもいいと思います。
注意点としては、これらの方法はあくまで予防であるということです。
すでに歯周病や歯肉口内炎になっている場合には、動物病院での処置や投薬が必要です。家で歯磨きをして治そうと考える方がいらっしゃいますが、歯磨きで治すことは不可能ですし、痛くてかわいそうなのでやらないようにしてください。
まずは動物病院を受診して治療を行い、その後再発しないように予防を行っていきましょう。
猫の口臭は様子を見ずに治療しましょう
猫の口臭は軽く考えずに治療したほうがいいということをご理解いただけましたでしょうか。
「口臭だけ改善させる」というよりは、「口臭の原因となっている病気の治療を行う」という考え方をしていただければと思います。
ちょっと治療してみようかという気になられた方がいらっしゃいましたら、動物病院までご相談ください。
第2稿:2018年9月12日 公開
初稿:2016年7月4日 公開
初稿:2016年7月4日 公開