犬もインフルエンザになる?人からうつる可能性や症状、予防法を獣医師が解説

犬もインフルエンザになる?人からうつる可能性や症状、予防法を獣医師が解説

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犬もインフルエンザにかかり、流行することもあります。しかし、この病気の流行のニュースを聞くことがありません。人間のインフルエンザは犬にうつるのでしょうか? 野坂獣医科院長の野坂が犬のインフルエンザの型(種類)や歴史、鳥インフルエンザとの関係、感染経路、治療法、予防法などについて解説します。

犬だけでなく動物もインフルエンザにかかる

産業動物への感染

インフルエンザはヒトだけでなく、馬や豚、鳥などの動物にもみられる感染症です。

鳥や豚などの多頭飼育されている産業動物に感染すると経済的被害が生じ、ときどきニュースで報じられることがあるかと思います。

飼育動物への感染

犬のインフルエンザの流行の話をあまり聞くことはありませんが、実際に犬のインフルエンザの流行は起きており、多くの犬が集まるドッグレース場での集団感染例も報告されています。

犬や猫といった飼育動物でのインフルエンザの流行は、環境によって左右されます。

犬のインフルエンザ感染に耳馴染みがない理由

現在、犬は家庭で個別に飼養されていることが多く、集団で生活していることは多くはありません。そのため犬から犬へ次々と伝播する機会が少なく、この病気の流行の話をあまり聞かないのでしょう。

しかし、条件がそろえば、国内でもこの病気が流行する可能性が十分あります。

万が一、国内で流行した場合、現在は予防のための犬用ワクチンがありません。このような状況下では多くの犬が発症する恐れがあり、最悪の場合、死亡することもあります。

犬のインフルエンザの型(種類)

インフルエンザウイルスには「A型」「B型」「C型」「D型」があります。

A型

犬のインフルエンザウイルスはA型に含まれ、犬だけでなく、ヒトや鳥、豚などの動物も感染します。A型のインフルエンザウイルスは変化しやすく、流行を何度も繰り返してきています。

ヒトのインフルエンザは、毎年世界中で流行がみられますが、犬の場合はアジア地域を含む一部の地域でときどき、発生していることが確認されています。

B型・C型

B型とC型は一般的にヒトだけが感染します。

D型

D型は家畜の牛で呼吸器症状を示すといわれています。

犬のインフルエンザの歴史

H3N8ウイルスが始まり

初めて犬のインフルエンザの発生が報告されたのは米国(2004年1月)のドッグレース場での集団発生例でした。

このときのウイルスは、馬インフルエンザに最も類似した「H3N8ウイルス」と呼ばれるものです。22匹のグレーハウンドが呼吸器症状を示し、14匹が回復しましたが、残りの8匹が死亡しました。

その後、H3N8ウイルスは米国においてグレーハウンドではない家庭犬でも数十例の発生が報告されています。

H3N2ウイルスの流行

ドッグランの柴犬たち

アジア地域でも犬のインフルエンザの発生や流行がありました。隣国の韓国では、2007年に犬の間でのH3N2ウイルスの流行が報告がされています。

遺伝子解析の結果、このウイルスはヒトではなく、鳥由来のウイルスであることが判明しています。

このウイルスは中国とタイでも報告されており、2015年には米国で1000匹以上が呼吸器症状を示し、2018年の初めにはカナダでの発生が確認されています。

H3N2ウイルス以外にも、アジアでは犬からいくつかのインフルエンザウイルスが確認されていますが、一般的に犬のインフルエンザは流行がみられた「H3N8ウイルス」と「H3N2ウイルス」の2種類であると考えられています。

人間のインフルエンザは犬にうつる

国内では発生がないものの、飼い主から愛犬へインフルエンザが感染する可能性があると考えられています。

そのため、飼い主がインフルエンザにかかったときには、飼い犬へ伝染しないように注意する必要があります。

インフルエンザにかかっていないとしても、飼い主さんが普段から帰宅時に十分に手を洗い、うがいをしてから管理をすることも大事なことです。もちろん、愛犬が呼吸器症状を示したときは、早めに動物病院へ連れて行きましょう。

犬のインフルエンザの感染経路

犬インフルエンザ(H3N8ウイルスとH3N2ウイルス)の潜伏期間は2~4日で、潜伏期間後に発症します。

臨床症状が見られてから7日間はウイルスを排泄することがあり、さらに、潜伏期間中にもウイルスは排泄されることがあります。

排泄されたウイルスが飛沫することや、ウイルスの付着した唾液や鼻汁に非感染犬が接触することで、ウイルスに感染します。その他、食器や犬が遊んだおもちゃを介してウイルスが運ばれることも考えられます。

犬のインフルエンザの症状

犬種、年齢に関わらず、すべての犬がこのウイルスに感受性があり、感染した犬の80%が臨床症状を示します。

この80%という数字は高い数値であり、この病気に対する抗体を持たない犬が多いことから、このような高い数値が導き出されています。

症状は軽症型と重症型に分類され、幸い発症犬のほとんどが軽症型の症状を示します。

軽症型

軽症型では「咳」や「鼻汁」「くしゃみ」「発熱」「食欲不振」が認められます。

これらの症状はケンネルコフとよく似ており、インフルエンザとケンネルコフの区別は難しいとされています。軽症型に細菌感染を伴った場合には、膿性鼻汁を排泄することがあります。


重症型

重症型では「高熱」および「肺炎」の兆候が認められます。

この肺炎にはインフルエンザウイルスに起因するものではなく、二次的に細菌感染したものも含まれます。

犬のインフルエンザ発症犬が肺炎を患った場合、適切な治療をしなければ死亡率が50%であるとされ報告されています。

犬のインフルエンザの治療法

抗インフルエンザ薬などの犬用のインフルエンザ専門の治療薬が無いので、治療法は対症療法や栄養補給、補液などを行うことになります。

動物病院で獣医師に行ってもらいましょう。また、細菌感染を伴う場合には、抗生物質なども必要になります。

犬のインフルエンザの予防法

犬のインフルエンザは、日本での発生が認められておらず、この病気のワクチンは国内にはありません。

そのため、不用な犬同士の接触を避けることが予防に繋がります。発症国では犬のインフルエンザの流行時にドッグランやドッグショーなどの犬の多く集まる場所を避けるように呼びかけています。

犬のインフルエンザ感染症を理解し予防の徹底を

インフルエンザウイルスは多くの種類の動物に感染するだけでなく、変異することにより、さまざまな国で病気を引き起こしています。

幸いにも国内では犬のインフルエンザが発症したという報告は無いのですが、このウイルスがどのように変異し、国内に侵入してくるのかどうかは誰にもわかりません。

飼い主さんは、愛犬が病気にならないよう予防できる病気は予防していきましょう。


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