犬の脂肪腫|しこりなどの症状・原因・治療法・予防法などを腫瘍科認定医獣医師が解説

犬の脂肪腫|しこりなどの症状・原因・治療法・予防法などを腫瘍科認定医獣医師が解説

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動物の皮膚腫瘍にはいろいろな形のものがありますが、多くは良性の腫瘍です。そのなかでも代表的な腫瘍が「脂肪腫」です。本稿では犬の脂肪腫の種類や治療法などについて、浜松家畜病院院長の武信が解説します。

犬の脂肪腫とは

パグ

脂肪腫は、成熟した脂肪細胞が増殖した腫瘍で、通常は良性腫瘍に分類されます。腫瘍のできる場所や広がり方によって、以下の3つに分類されます。

  1. 皮下脂肪腫
  2. 筋間脂肪腫
  3. 浸潤性脂肪腫

1. 皮下脂肪種

皮下脂肪種

皮膚の下〜筋肉の上に存在するタイプです。ほとんどの脂肪腫はこのタイプですが、触診で腫瘍が動かない場合は底部が筋肉の間に入り込んでいることもあります。

2. 筋間脂肪腫

皮下脂肪種

筋肉の間に入り込んでいるタイプです。触ると張りのある感触があります。手術では筋肉の間を切り開いて、奥まで取り除く必要があります。

3. 浸潤性脂肪腫

皮下脂肪種

筋肉の繊維の間に染み込むように増殖するタイプです。発生率は高くありませんが、正常組織との境界がないので、初回の手術でしっかり取り除かないとすぐに再発します。

浸潤性脂肪腫は良性腫瘍ですが、局所浸潤性が高く、肥大した腫瘍が周辺部位に悪影響を与えることで、臨床的悪性腫瘍とされています。

例えば、脚の筋肉に広範囲に浸潤している場合には、脚ごと切除(断脚手術)を検討しなければならない場合もあり得ます。

脂肪肉腫

脂肪腫とは異なり、脂肪細胞の悪性腫瘍です。

脂肪腫と比べて、やや硬い触り心地で、急速な増大を見ることがあります。細胞診で見分けることが可能ですが、誤診を避けるために病理検査で確認する必要があります。

非常に局所浸潤性が高く、転移することもあります。治療のためにはできるだけ早期に拡大切除手術が必要です。

犬の脂肪腫の症状

ソファの上で座るダックス

初期症状

初期では飼い主さんが「愛犬の体表に柔らかいしこりができた」と気付きます。

皮膚の柔らかい犬種や痩せた犬であれば、比較的わかりやすいのですが、肥満の動物では、皮下脂肪との区別が難しいことがあります。

脂肪腫は周囲を圧迫しながらゆっくりと大きくなるため、そのほとんどは無症状です。筋肉内や「体の深部」にできた脂肪腫では、圧迫によって不快感や痛みを生じる可能性があります。

末期症状

発症部位によっては、大型(5cmを超える)になって初めて気付くこともあります。

脂肪腫は良性腫瘍のため、経過を見ることもありますが、良性であっても徐々に大きくなります。

皮下脂肪種でも巨大化すると、大きさと重さによって生活上の大きな問題となることがあります。例えば、「脇の下に発生すると前足が閉じなくなる」「胸にできた脂肪腫が床と擦れて出血する」「背骨に沿って巨大化して側弯姿勢になる」などです。

また、脂肪腫が体腔内に発生した場合にはその周辺の内臓などを圧迫するため、痛みや不快感、機能障害が起きる可能性があります。

犬の脂肪腫の原因

草むらに座るパグ

犬の脂肪腫の原因は明らかになっていませんが、肥満や体質(犬種・遺伝)によって発生しやすくなると考えられています。

若齢でも発生しますが、年齢を経るにつれて発生が多くなります。

犬の脂肪腫の検査・診断方法

大型犬のアップ

まず愛犬の全身状態を診るために身体一般検査が必要です。それには血液検査やレントゲン検査や針生検(炎症か腫瘍かを調べる検査)が含まれます。

ほとんどの脂肪腫は触診と細胞診によって診断がつくものです。細い針を用いて腫瘤から細胞を吸引し、顕微鏡で観察して成熟脂肪細胞がみられた場合には、ほぼ間違いなく脂肪腫です。

ただし、細胞診のみでは「浸潤性脂肪腫」との区別はできません。

明らかに良性で小型の場合は「機能障害」「自潰・出血」「急速増大」がなければ経過を見ることも多いです。

細胞診で診断がつかない場合は、腫瘍の一部・または全部を切除して病理学検査に提出します。

犬の脂肪腫の治療法

顔を出すキャバリア

脂肪腫は手術によって取り除かない限り、自然になくなることありません。そのほとんどは良性腫瘍のため、すべてが手術適応とも言い切れません。

動物の年齢・体力を考慮しながら、以下の良性腫瘍の手術適応基準に基づいて手術実施を行います。

手術適応基準

  • 機能障害の有無:体の機能に障害が出る場合
  • 自壊出血の有無:表面の自壊が起きて、出血している場合
  • 急速増大:腫瘍が急速に大きくなる場合
  • 飼い主さんの希望:飼い主さんが早期の治療を希望する場合

犬の脂肪腫の予防法

撫でられる犬

最も確実な予防法は、犬の体を良く触ることです。

脂肪腫は早期に発見すれば、根治が見込める病気です。また、悪性腫瘍であっても早期治療によって直せる確率が上がります。

腫瘍が増大する速度は診断上、とても重要です。しこりを見つけたら早期に獣医さんを受診し、その後も定期観察を続けましょう

犬の脂肪腫はほとんどが良性腫瘍

犬を抱きしめる女性

脂肪腫のほとんどが良性腫瘍です
脂肪腫は肥満や体質によって発生しやすいと考えられています
愛犬の体にしこりを見つけたら動物病院で検査しましょう

脂肪腫にはさまざまなタイプがあります。まずは、早期に発見することが重要のため、日頃から愛犬の体を触る習慣をつけましょう。

もし、しこりを見つけたら動物病院で検査することをおすすめします。