猫が子どものアレルギーに悪影響って本当なの? 科学的な答えを海外研究から紹介

猫が子どものアレルギーに悪影響って本当なの? 科学的な答えを海外研究から紹介

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猫を飼いたいけど、アレルギーが心配だから子どもが大きくなるまで我慢……という話をよく聞きます。イギリス・マンチェスター大学の幼い頃の猫への接触がアレルギー発症にどのような影響を及ぼすのか調査した結果について、獣医師の福地が紹介します。

8歳以降は統計学的な差が無いという結果に

猫と子ども

今回の調査では生後1年の間に猫を飼育していた家庭の子どもたちと、飼育していなかった家庭の子どもたちの合計1004人が対象となり、子どもたちが1歳、3歳、5歳、8歳、11歳、16歳の時に検査が実施されました。検査は皮膚アレルギーテストであるスキンプリックテスト(※1)と血液検査で猫のアレルゲンに対する抗体測定の2つが行われました。

※1:スキンプリックテスト(Skin Prick Test):腕に少量のアレルゲンを刺し、拭き取った後に針などで皮膚に小さな傷をつけます。所定の時間が経過した時に傷をつけた所にできる皮膚の赤い腫れの部分の直径を計測して、そのアレルゲンに対するアレルギーの有無を調べる検査です。

その結果、5歳頃までは猫の飼育歴があるグループのほうがスキンプリックテストと猫アレルゲンに対する抗体検査が高い値になり、猫アレルギーのリスクがある可能性が示唆されました。しかし、それ以降の8歳、11歳、16歳の年齢では猫を飼っていない家庭の子どもたちの結果と統計学的な差は出ないという結果になったのです(※2)

※2:「Table E3」参照

猫と暮らしていた子のほうが発症の増加率が緩やか

最終的に16歳時のスキンプリックテストと猫アレルゲンに対する抗体の値の結果に差は出なかったのですが、結果の数値の増加率は2つのグループで大きく差が出ました。スキンプリックテストの増加率は猫を飼っていない家庭の子どもの方が6%も高く、猫アレルゲンに対する抗体値の増加率は飼っていない家庭の子どもの方が8%も高かったのです。

猫を飼っている家庭の子どもでは生後1年までにスキンプリックテストと猫アレルゲンに対する反応はほぼ上昇し終わり、以降は変わらないか、緩やかな上昇で済んでいました。対象的に猫を飼っていない家庭の子どもでは幼稚園までの上昇は緩やかですが、その後は年齢を重ねるにしたがって急な軌道を描いて上昇していきました。そして今回の調査では、16歳の時点でスキンプリックテストならびに猫アレルゲン抗体値は両者ともほぼ変わらない値になりました。

Predicted mean Skin Prick Test sensitization(%)
Predicted mean SPT sensitization(%)

抗体の上昇はアレルゲンの種類によって異なる

今回の調査では、「Fel d1」「Fel d2」「Fel d4」という3種類の猫アレルゲンについて検査が行われました。「Fel d1」は猫アレルギーの主要アレルゲンであり、猫アレルギーの患者の80%以上が陽性になるといわれるアレルゲンです。

調査の結果、猫を飼っている家庭では飼っていない家庭よりも時間経過とともに猫アレルゲン「Fel d1」と「Feld 4」の抗体値が統計学的な差を持って増加していました。「Feld 2」では上昇は見られず、猫を飼っていない家庭とほぼ変わらない値でした。939家庭で行った「Feld 1」の測定によって、幼児期の「Feld 1」との接触が幼稚園期までの「Feld 1」に対する抗体値の上昇と関連があることを突き止めましたが、それ以降の年齢では飼っていない家庭と差がありませんでした。

さらに、統計学的な差はでなかったものの16歳の時点では「Fel d1」の値は猫を飼っていない家庭の子どもの方が高い値を示したのです。研究チームは飼っていた子どもの方がアレルゲンへの反応が低いことに着目し、より歳を重ねた後ではさらにこの差が広がることを予想しているようです。

Predicted mean Skin Prick Test sensitization(%)
Predicted mean CRD sensitization(%)

猫の飼育とアトピー・喘息の発症に関係ナシ

アトピーを持つ親の子どもはハイリスクのグループとして分類され、スキンプリックテストや猫アレルゲン抗体値は高かったのですが、猫の飼育やアレルゲンへの暴露による時間的な変化率はハイリスクのグループと、(親がアトピーではない)ローリスクのグループで違いはありませんでした。

猫以外のアレルゲンに対する反応にも猫の飼育は関係なく、喘息の発症に対する統計学的な差もありませんでした。幼児期の「Fel d1」に対する暴露による喘息の発症への関与は示されなかったのです。猫への接触と喘息の発症に関係が見出せないことは数多くの報告からも示されています。

猫が子どもたちに与えてくれるもの

猫と子ども

研究チームは、猫への接触がアレルギーのリスクになるかどうかは年齢や評価方法、研究デザインによって結果が変わってくると指摘しています。そういった意味では、これまでの「猫を飼うことがアレルギー発症のリスクになる」という報告も間違いとはいえないとしていますが、今回の調査のように長い時間軸で評価することが重要だとしています。

今回は16歳までの結果だったものの、成人まで調査対象にすれば猫を飼うことによるアレルギーへの保護効果を示せるのはないかと言及しており、今後の進展が待たれます。また、研究チームは今回の調査の間に妊娠した18%の猫の飼い主さんが、妊娠と子どもの最初の誕生日との間に猫を手放していたことを明らかにしました。しかし、妊娠後も猫を飼い続けた家庭と結果はほとんど変わらなかったとのことです。

猫と暮らすことは、子どもたちにとって思いやりなど豊かな心を育むだけでなく、長い目で見るとアレルギーから身を守る可能性も秘めています。筆者も勤務していた動物病院で、子どもの猫アレルギーが心配で猫を手放す飼い主さんを複数見たことがあります。科学という手法を使って共生の可能性を探る研究チームの姿勢に、感銘を受けました。

調査概要

引用文献