犬のアンダーショット・オーバーショットを獣医師が解説
犬にも人間と同じように「噛み合わせ」があり、遺伝や成長の変化で不正咬合が見られる場合があります。中でもアンダーショットはトイプードルやポメラニアン、オーバーショットはチワワやダックスに多い傾向があります。舌がはみ出て可愛い!と思われることもあるかもしれませんが、デメリットもあります。今回はアンダーショット・オーバーショットの原因や手術など治療、矯正の考え方について獣医師の佐藤が解説します。
犬のアンダーショット・オーバーショットとは
犬の歯は乳歯で28本、永久歯で42本です。乳歯は遅い子で1歳くらいまで残りますが、多くは生後3〜7カ月前後で生え変わります。犬の噛み合わせは主に4種類あり、正しい状態を「シザーズバイト」と呼びます。それ以外は噛み合わせが正しくない状態で「不正咬合」(ふせいこうごう)と呼ばれます。
不正咬合の原因は遺伝と環境にわかれ、生まれつき上下の顎の長さに問題がある場合や生え変わりのタイミングで噛み合わせに問題が起こる場合、怪我で上下・左右がアンバランスに成長してしまった場合などがあります。不正咬合とは呼びますが、日常生活に問題がなければ直ちに治療が必要というわけではありません。
例えばアンダーショットが犬種標準になっている犬種もあります。4種類について以下で詳しく解説しますが、他にも一部の歯の位置に問題がある「クロスバイト」や左右の歯がアンバランスな「ライバイト」などもあります。シェットランドシープドッグ(シェルティー)は遺伝的にクロスバイトが起こりやすいと言われています。
シザーズバイト(鋏状咬合)
多くの犬にとって正しい噛み合わせです。上の前歯が下の前歯より少し前に出ている状態を言います。レベルバイト(水平咬合、切端咬合)
上の前歯と下の前歯がずれることなく噛み合っている状態のことです。アンダーショット(アンダーバイト、下顎突出咬合)
上顎より下顎が長く下の前歯が出っ張っている状態のことで、上下の前歯に隙間ができて噛み合っていない、いわゆる「しゃくれ」の状態です。飼育頭数が多いこともありトイプードルやポメラニアンでアンダーショットの傾向が見られやすい印象です。ブルドッグ、ペキニーズ、パグ、ボストンテリア、フレンチブルドッグなどの犬種はアンダーショットがJKC(ジャパンケネルクラブ)など血統書発行団体のスタンダード(犬種標準)になっています。
オーバーショット(オーバーバイト、上顎前出咬合)
下顎より上顎が長く上の前歯が出っ張っていて、上下の前歯に隙間ができて噛み合っていない状態で、いわゆる「出っ歯」です。飼育頭数が多いこともあり、ダックスフンドやチワワでオーバーショットの傾向が見られやすい印象です。アンダーショット・オーバーショットの原因
アンダーショット・オーバーショットの原因として、「遺伝」や「乳歯遺残」「怪我」などの可能性が挙げられます。
「遺伝」によるアンダーショット
ブルドッグ、ペキニーズ、パグ、ボストンテリア、フレンチブルドッグなどの特定の犬種はアンダーショットが犬種標準として繁殖が行われています。「乳歯遺残」によるアンダーショット・オーバーショット
乳歯が抜けずに永久歯への生え変わりを邪魔する「乳歯遺残」で歯並びが悪くなり、アンダーショット・オーバーショットの傾向が出ることがあります。「怪我」によるアンダーショット・オーバーショット
顎がアンバランスに成長してしまったり、怪我などによって顎がずれてしまった場合にアンダーショット・オーバーショットの傾向が出ることがあります。アンダーショット・オーバーショットの治療
治療は問題が「見た目」なのか「犬にとって苦痛」なのかで必要性が変わります。犬自身の生活に問題がないのであれば積極的に治療を行う必要はありません。治療では抜歯手術をする場合があり、全身麻酔で行うリスクなどもあります。見た目を良くする審美歯科治療は犬に余計な苦痛を与えるため推奨できません。
抜歯手術
アンダーショット・オーバーショットは顎の長さが原因となるため抜歯では根本的な治療にはなりませんが、乳歯遺残の場合に乳歯を抜く処置をします。歯が口の中で刺さっている、もしくは歯と歯がぶつかり変な音がする、歯肉への悪影響がある場合は抜歯をする必要があります。刺さらない長さに歯を切る選択肢もありますが、露出した歯髄の処置を適切に行う必要があるため歯科治療に力を入れている病院でなければ抜歯が選択されます。歯を抜くことに抵抗を感じる飼い主さんも多いとは思いますが、犬は人と違ってごはんを丸飲みするためデメリットは大きくありません。
矯正
犬の場合、ほとんどの問題は抜歯や切断で解決できるため矯正は審美治療になります。インクラインプレインなどの矯正器具はありますが、人と同様に長期間の装着が必要になるため犬の負担を考えて通常は行いません。アンダーショット・オーバーショットでよくある質問
不正咬合は、その名称や見た目のわかりやすさから飼い主さんが気にしやすい問題です。よく頂く質問とその回答を紹介します。
アンダーショット・オーバーショットは治る?
顎の長さは変えられないため根本的に治ることはありません。根本的に治すには顎の切断手術が必要になりますが、犬の負担やリスクが大きすぎるため通常は行われません。歯が口の中で刺さっている場合は抜歯や歯を切断することで問題を解決することができます。歯石がつきやすくなる?
歯並びが良くないことで歯垢・歯石がつきやすくなる可能性はあります。アンダーショット・オーバーショットに限ったことではありませんが、毎日の歯磨きをすることで健康的な口内環境を維持することができます。まとめ
原因は遺伝と環境の可能性がある
歯肉に悪影響を与える場合に治療する
生活に支障がなければ治療の必要はない
歯周病を防ぐため毎日の歯磨きが大切
アンダーショット・オーバーショットの原因として歯が口の中に刺さってしまっているなど犬にとって苦痛がある場合は抜歯などの治療を行うことがありますが、そうでない限り積極的な治療を行う必要はありません。歯並びによって歯石が溜まりやすくなりますので、日常の歯磨きなどお口のケアをしっかり行ってあげるようにしましょう。