犬も脳トレで認知症改善!? ウィーン大学の先端研究を紹介

犬にも認知症があることをご存じでしょうか? 飼い主と犬の関係にも影響を及ぼすこの認知症ですが、認知機能改善にコンピュータプログラムを使用した画期的な実験が行われています。今回はウィーン大学(オーストリア)の研究報告を獣医師の福地が解説します。

犬にも認知症があります

認知症は日本の65歳以上の高齢者の8〜10%にみられる一般的な病気です。犬にも認知症があり、正確な疫学情報はありませんが
  • 意味も無く鳴く
  • 夜中にウロウロして鳴く
  • 同じところをぐるぐる回る
  • トイレに失敗する
などの症状がみられます。人においても犬においても有効な治療法はいまだありませんが、多くの研究がなされています。
人により近い猿などの霊長類を対研究ができる施設は限定されていますが、飼育されている犬を対象とした認知関連の実験は実験犬の飼育も必要なく実施しやすいため、近年では論文も多く報告されています。

認知機能の衰えは加齢によるドーパミンの減少

人や動物は、加齢によってドーパミンニューロンを失っていきます。これはエピソード記憶の減退につながるとされています。エピソード記憶とは、個人が経験した出来事に関する記憶のことです。これが減退してくることでやる気や好奇心による行動も減退し、結果的に運動機能障害のような状態になることが報告されています。
認知機能研究者やプロのゲーム開発者によって開発された視覚と聴覚に刺激的なiPadのゲームを1時間プレイすることが、高齢者の認知機能改善に有効であったという報告もあります。

ウィーン大学(オーストリア)は、「クレバードッグラボ(Clever Dog Lab)」という犬の認知機能に関する研究を行う研究室を有しており、一般の飼い主さん協力のもと、飼育犬に関する研究を進めています。同大では「ウルフサイエンスセンター(Wolf science center)」も有しており、先祖である狼と犬の比較研究も行なっています。そして2017年、クレバードッグラボのLJ Wallisらは、コンピュータシステムを使った犬の認知機能改善についての論文を発表しました。


犬の認知症改善トレーニング

LJ Wallisらは、コンピュータシステムを使った犬の認知機能改善についての実験を行いました。ラップトップのモニターに二つの画像を提示し、正しい方の画像を鼻でつつくとおやつが出てくるというのが一連のプログラムです。
犬の目線に合わせてスクリーンは上下できるように設計され、押されたことを感知する際に鼻の湿気とよだれがついてしまうことにも耐えられる赤外線センサー付きディスプレイが採用されました。
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265匹の犬と20匹の狼がタッチスクリーンに関する訓練を受けたのち実験が実施されました。いきなり画面の前で正しい方の画面にタッチするのは難しいので、本格的な実験に入る前に訓練が4段階に分けて実施されました。
  1. 犬にタッチスクリーンと、タッチすることでおやつが出てくるということに慣れさせる
  2. 表示される写真に接触することでおやつが出てくることを覚えさせる
  3. 接触すべき写真がスクリーンの決まった場所ではなく、ランダムに出てきてもタッチできるようになる
  4. 複数の正しい写真を選択するとおやつが出てくる
というものです。
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この実験は1回だけでなく、飼い主さんの協力によって複数回、研究室に通ってもらう中で実施されました。

回数を重ねるごとに成功するという意見も

実験の評価を行うため、犬と飼い主さんには定期的に実験室に通ってもらっていました。最初は多くの飼い主さんが「こんな実験で効果があるのか」と懐疑的でしたが、数回終了した時点で犬たちの毎回の進歩状況(明記されていませんが実験で正解の画像を押す回数が増えることだと予想されます)と、犬自身が積極的に実験を行う様子に驚いていたとのことです。
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また、途中で実験からドロップアウトしてしまう率も少なく(全頭中6匹のみ)、ストレスの少ない訓練であることも示されました。数匹の犬については3〜7歳の間にタッチスクリーンの訓練を受け、その後、数年間が開いた後もタッチスクリーンの手順を覚えていただけでなく、正しい写真とそうでない写真の区別でおやつが出てくることを覚えているようなそぶりもあったそうです。
認知機能改善について飼い主に対して行ったアンケート結果は現在分析中とのことですが、飼い主の反応を見ていると、このプログラムが犬の認知機能を改善する新しい方法になるかもしれません。今回の論文では265匹の犬と20匹の狼の実験による認知機能改善度合いの結果までは報告されていませんでしたが、一部の飼い主の意見をとっても、人で使用されるいわゆる「脳トレ」が犬にも応用できることを示しています。

一般家庭で利用できるようになるには?

研究報告では、タッチスクリーンによる実験をしている際にMRI検査を行い、どの部分が活性化しているかの詳しい評価が必要となると述べられています。そして実際に一般家庭で実施できるようになるには、よだれや爪による傷に耐えられる機械が必要になることから、さらなる研究が必要だとまとめています。
今回は、人と犬の絆をさらに強くする一つの方法としてコンピュータプログラムが今後どんどん発展して行くかもしれない、という先端研究の紹介でした。将来はiPadなどのタブレットを利用して、手軽にできる犬の脳トレアプリが出るかもしれませんね。

実験の詳細