【獣医師執筆】犬のジステンパーウイルス感染症の原因は?症状・治療法・予防法などを解説
犬ジステンパーは原因ウイルスの伝染力が強く、幼若犬での症状は重く、致死率が高いので恐れられています。呼吸器症状や消化器症状、神経症状などの多種多様な症状を示すことから診断が難しく、治療の開始が遅れることがあります。古くからある病気ですが、いまだに根絶していません。この病気には犬用の予防ワクチンがありますので、病気を理解し、予防できる病気は予防していきましょう。今回は犬ジステンパーについて解説します。
犬ジステンパーとは
犬ジステンパーは、18世紀から知られている古くからある病気で、国内も含めて、世界各国で発生しています。発病率は25〜75%で、死亡率は50%から90%と高い数値です。原因となるイヌジステンパーウイルスは、ヒトの麻疹(はしか)ウイルスと性状、臨床症状、発病機構が似ていることから、医学領域でも研究モデルウイルスとして使用されています。古くから多くの知見があり、国内では生ワクチンが普及されておりますが、根絶はしていません。犬ジステンパーの原因発生状況
犬の他には、サル、オオカミ、キツネ、タヌキ、イタチ、フェレットやアライグマなどが感染し、種によって症状や致死率は異なります。中国ではジャイアントパンダ22頭のうち、6頭がイヌジステンパーウイルスに感染し、予防注射を接種していた1頭が生き残り、残りの5頭は死亡しました。
国内の野生動物では、アライグマやイノシシ、シカ、テン、タヌキ、ハクビシン、イタチ、アナグマなどでの感染が知られています。2017年の国内の報告では7%のアライグマが抗体を保有していました。2008年には国内の検疫所で輸入ザル432匹でイヌジステンパーウイルスの感染が起きたことが報告されました。霊長類のサルに感染したことから、ヒトでの発症が心配になりますが、今のところ発症はありません。しかし、注意は必要です。
犬ジステンパーの症状
犬ジステンパーの臨床症状は、沈うつ、白血球の減少、二峰性の発熱、消化器症状、呼吸器症状、皮膚症状や神経症状などが認められます。これに細菌や他のウイルスなどの二次感染が伴うので、多種多様な症状がみられます。さらに、重篤の場合は死に至るものから、ほとんど症状を示さないものもありますので臨床症状は多岐にわたります。ウイルスは上皮系組織やリンパ系組織、神経細胞に感染し、リンパ系組織で増殖します。その後、ウイルスは血流に乗って全身へ移動し、最後に中枢神経系へ移動します。免疫応答が弱い場合、上皮系組織障害により死に至ることもありますが、上皮系組織障害から回復した場合はウイルスが脳内に侵入し、中枢神経系組織障害を発症するものと考えられています。ただ、侵入の機序について多くは明らかにされていません。
神経細胞に感染した場合は脱髄性脳炎を起こし、神経症状(神経障害)がみられる場合と、慢性脳炎を起こす場合があります。生き残った犬には、ハードパッド(硬い肉球)病やチックなどの後遺症が残ることがあります。
犬ジステンパーの検査・診断法
イヌジステンパーウイルスは感染動物の鼻汁や唾液、眼分泌物、血液、尿などから排泄され、感染動物との直接接触、分泌物や排泄物との接触、飛沫した呼吸器からの分泌物の吸入などから感染します。潜伏期間は1週間以内から4週間で、症状を表さないまま、長期間経過した後に神経症状を示すこともあります。診断方法には、病原学的診断と血清学的診断があり、病原学的診断は、犬の生殖器や肛門、鼻粘膜、結膜のスワブ、目脂、唾液、鼻汁、血液、便からのウイルス抗原の検出、遺伝子の検出を行ないます。血清学的診断は、採血した犬の血液から得られた血清を使い、中和抗体の検出などを行ないます。
犬ジステンパーの治療法
犬の感受性は年齢、性別、品種間に差がなく、ワクチン歴の無い若い犬における致死率は高いとされています。感染を疑う時は、まず、他の動物への感染を避けるために、隔離します。動物病院では、院内で別の動物への感染を避けるため、時間指定をお願いされるかもしれません。
環境中のウイルスは消毒液、洗剤等によって、簡単に死亡しますが、体内に入ったウイルスの有効な治療法は現在のところ無いため、対症療法を行ないながら、回復のチャンスを待ちます。対症療法は、脱水を起こしていれば輸液や栄養補給を行ない、熱があれば解熱剤を投与します。細菌感染を伴えば、抗菌剤を投与するなどの方法も有用です。
犬ジステンパーの予防法
犬ジステンパーは致死率の高い感染症ですが、弱毒生ワクチンを接種する予防が最も有用です。弱毒生ワクチンの普及により、国内における犬ジステンパーの発症数は減少してきましたが、現在もウイルスは分離されています。まず、ワクチンの接種は母犬からの移行抗体を考慮し、子犬を感染から守ることが必要です。残念ながら、1回の注射だけで生涯の免疫を獲得するジステンパーワクチンの開発はされていないため、成犬になってからもワクチンを接種することで、防御抗体を維持する必要があります。ワクチンの選択や接種時期は、動物病院の獣医師と相談しましょう。
犬ジステンパーは致命率が高いものの予防接種が有効
1761年にスペインで初めて発見された犬ジステンパーは、現在までたくさんの知見があります。弱毒生ワクチンも開発されており、発症率は減ってきています。しかし、残念ながら根絶されておらず、野生動物を含めてウイルスが分離されています。この病気は、感染犬が臨床症状を示さないこともありますが、発病率や致死率が高いことから、予防をする必要があります。予防のための犬用のワクチンが数種類販売されていますので、接種しましょう。どのワクチンを注射したらよいかの判断をする際には、動物病院の獣医師に相談することをお勧めいたします。この病気だけでなく、犬の感染症をよく理解し、飼い犬が病気にならないように予防できる病気は予防していきましょう。
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