猫の涙やけ|症状や原因、治療法を獣医師が解説

猫の涙やけ|症状や原因、治療法を獣医師が解説

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猫の涙やけは涙があふれ出る「流涙症(りゅうるいしょう)」が原因となり、目頭から鼻の横にかけた被毛が着色・変色する状態のことを指します。流涙症は目の病気やフードのアレルギーなどさまざまな原因が考えられるため、薬や手術による治療、食事の見直しが必要となります。涙やけの原因や治療法について、獣医師の佐藤が解説します。

病態 涙やけ
症状 目の周りが赤や茶色っぽい色に変色、重度の場合は皮膚の炎症を引き起こす。
原因 流涙症。涙の産生や排出に問題。ウィルスの感染、病気やまつ毛の異常、アレルギー、キャットフードの添加物など。
危険度 低。命にかかわる病気ではありません。

猫の涙やけとは

猫

猫の涙やけとは、涙があふれ出る状態が長期間にわたって続き、目の周りの被毛の色が赤褐色に変わる状態を指します。涙やけ自体は病気ではありませんが、原因として目の感染症や涙管の問題、アレルギーなどが考えられます。

涙やけの多くは見た目の問題で、重症化することはまれです。しかし、不衛生な状態であることに違いはなく、皮膚炎を引き起こす可能性もあります。涙やけが見られる場合は根本的な原因を特定し、適切に対処することが重要です。

猫の涙とは

涙は目の乾燥を防ぎ、異物を洗い流し、感染症から守るために分泌される液体です。その成分には、水分に加えて免疫系の働きを助けるリゾチームや、涙を眼球表面に広げるためのムチンなどが含まれます。通常、猫は必要に応じて適量の涙を生成し、涙道を通じて鼻に排出します。

なぜ被毛が赤褐色になるのか

涙やけで被毛が赤褐色に変わる主な理由は、涙に「ポルフィリン」という鉄を含む物質が含まれているからです。それが酸化することで赤錆となり、被毛が赤褐色に染まります。特に被毛が白系の猫では涙やけが顕著に見られます。

涙やけになりやすい猫種

ペルシャ猫

涙やけは赤褐色の変化が顕著な白猫でよく見られますが、被毛の色に関係なく黒猫も涙やけになります。涙を一時的に貯める涙嚢(るいのう)が浅いペルシャ猫やエキゾチックショートヘア、ヒマラヤンなどの短頭種は涙やけが起こりやすい猫種です。

涙やけの症状

猫の涙やけの症状は多岐にわたり、特に被毛が赤褐色に変色することや皮膚の炎症が特徴的です。湿った被毛や猫が頻繁に目を舐めたり掻いたりする行動も、涙やけの典型的な症状と言えます。

  • 常に湿っている
  • 被毛が赤褐色に変わる
  • 頻繁に舐める、掻く
  • 脱毛
  • 皮膚の炎症・発疹

これらの症状はさまざまな原因でも起こるため、必ずしも涙やけとは限りません。病気の早期発見・早期治療につなげるためにも、気になる症状がある場合は獣医師に相談することをお勧めします。

黒猫も涙やけになる?

猫

黒猫は涙やけによる被毛の変化がわかりにくいため、涙やけを見逃してしまうこともあります。目の周囲が常に湿っていたり、猫が目を掻いたり、目の赤みや腫れなどの異変がある場合は涙やけの可能性も考えられます。

猫の涙やけの原因

ドライフードを食べる猫

涙やけは、涙があふれる状態が続く「流涙症」によって起こります。流涙症の原因は大きく二つ、涙腺から分泌される涙の量が多すぎる「分泌性流涙」 と、涙道が詰まる「​​導涙性(どうるいせい)流涙」に分けられ、同時に起こる場合もあります。

分泌性流涙 まつ毛の問題 睫毛乱生:生える場所は正常だが生える向きに問題があり眼球を刺激して涙が出る
睫毛重生:本来の場所より内側に生えているため眼球を刺激して涙が出る
異所性睫毛:まぶたの内側に生えるため眼球を刺激して涙が出る
まぶたの問題 眼瞼内反症:まぶたが内側にひっくり返ってしまうことでまつ毛が眼球を刺激して涙が出る
眼の問題 結膜や角膜、ぶどう膜の炎症による刺激や緑内障の眼圧上昇によって涙が出る
食事の問題 アレルギーやキャットフードに含まれる添加物、油の酸化によって涙が出る
導涙性流涙 涙小管の問題 涙小管炎:感染症などの炎症が原因で涙小管が詰まる
涙嚢の問題 涙嚢炎:鼻涙管が詰まることで涙嚢に炎症が起きて涙嚢が詰まる
鼻涙管の問題 先天性:生まれつき鼻涙管が開通していない
後天性:涙嚢炎や感染症などの炎症が原因で鼻涙管が詰まる

猫の涙やけの治療(薬や手術)

猫

涙やけの治療は原因ごとに異なります。感染症が原因であれば抗生剤の使用など、アレルギーが原因であれば食事の見直しなど、まつ毛や涙管の閉塞が原因であれば外科手術などが選択されます。ただ、涙やけは原因がわからない場合も多く、以下の診断プロセスを進めながら可能性を排除していくのが一般的です。

1. 視診や触診、問診

目の周りの被毛の色の変化や皮膚の状態などを視診、触診します。問診では目とは別の問題がないか飼い主さんに普段の生活の様子を伺っていきます。

2. まつ毛やまぶたの問題の診断

涙の異常な分泌や涙やけの一般的な原因として、まつ毛やまぶたの異常が考えられます。その場合、外科的な処置が必要となることがあります。軽度であればまつ毛を抜くだけで済む場合もありますが、毛根を破壊したり、まぶたの形を修正したりする手術が必要になる場合もあります。

3. 導涙性流涙の問題の診断

涙道の閉塞や涙道の形状異常などは、フルオレセイン染色試験やシルマーティアテストといった検査で診断します。異常が原因である場合、涙道を拡張する手術や涙道を新たに作成する手術を行います。

4. 目の感染症の診断と治療

目の感染症は涙の過剰分泌を引き起こすことがあります。抗生物質や抗真菌薬を含む目薬で感染を治療し、涙の過剰分泌を抑制していきます。

5. 食事の問題の診断

アレルギーやキャットフードの添加物、ドライフードの油の酸化が原因となることがあります。食事が原因の可能性がある場合は、「ペトコトフーズ」など余計な添加物が入っていないフレッシュフードに変えてみるのもいいでしょう。

オメガ3脂肪酸などの抗炎症作用を持つ栄養素を摂ることも改善に寄与する可能性があります。

猫の涙やけのケア

猫

涙やけは放置すると濡れた毛の下の皮膚の状態が悪くなり、炎症や細菌感染を起こしやすくなります。まずは動物病院で診ていただければと思いますが、飼い主さんのケアによって清潔な状態を保つことができます。拭き取る部位に怪我や傷がないことを確認し、悪化しないよう優しくケアしましょう。

以下の表にケアの方法をまとめましたので、参考にしてください。

メリット デメリット・注意点
シャンプーで洗う 被毛を清潔にすることで予防効果が期待できる 少し汚れが落ちる程度で根本的な解決にはならない。猫はストレスになってしまう場合も。
涙やけ用のローション、クリーナーを使用する 効果が期待できる成分もある ポリエチレングリコールは誤飲すると中毒になるため猫にはNG
マッサージをする 血行が良くなることで若干の改善が見られる場合も 強くやりすぎないように注意
ホウ酸水を作り目元をふく 洗浄、殺菌効果が期待できる 作る手間がかかる。目に入った場合はよく洗い流す。ホウ酸は食べてしまうと中毒につながる
目薬を使う 原因が目の病気の場合に改善が見られる場合も 人間用はNG。病院で処方された目薬を使う

ホウ酸を利用したクリーナーの作り方

  • 目の周りに傷がある場合は使用しない
  • 誤った方法で作ったり、使用したりすると逆効果
  • 獣医師にクリーナーの使用可否を確認してから利用する

用意するもの

ホウ酸 3g
精製水 150ml
ボトル 容量150ml以上のもの1本

手順

  1. 精製水を150mlをレンジで60℃に温める
  2. 煮沸消毒したボトルに精製水を入れて、ホウ酸3g(1包)を溶かす
  3. 液体を冷ます
One Point ホウ酸の濃度は2%以下にしないといけないため、水150mlにホウ酸3gが適量です。作った「ホウ酸水」は冷蔵庫に保管し、2週間以内に使いましょう。

ホウ酸水ができたら、コットンに湿らせて、涙やけの部分や目の周りを優しく拭き取ってあげてください。その際に目の中にホウ酸水が入らないよう注意しましょう。

猫の涙やけの予防法

詰まりが問題となる導涙性流涙で予防は難しいです。分泌性流涙では目を清潔に保つことで感染症を予防したり、添加物の少ない新鮮なごはんを選んだりすることで涙やけのリスクを減らすことができます。

まとめ

猫
涙があふれて目の周りが変色する状態
流涙症が原因。涙の産生や排出に問題がある
根本の原因はさまざま。食事が原因の場合も
猫の涙やけは、涙があふれて目の周りの被毛が赤褐色に変色する状態です。原因として、まつ毛やまぶたの異常、涙道の問題、感染症、食事の問題などがあります。涙やけには何かしらの原因がありますので、見た目だけの問題と考えず、かかりつけの先生と相談しながら治療を進めてください。