家族を知らない保護犬“むにこ”の苦しみ、恐怖、絶望、幸せ。

家族を知らない保護犬“むにこ”の苦しみ、恐怖、絶望、幸せ。

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家族を迎える。それは幸せで、同時に命に対しての責任が生まれる瞬間です。それぞれの家族に存在する出会いの物語。この記事では保護犬・保護猫を迎えた家族のインタビューを通し、物語として紹介します。


“むにこ”の朝は早い。
なぜなら、大切なミッションがあるからだ。

ママの髪の毛を噛んで起こしてあげたり、仕事へ行くパパのお見送りをしたりもするが、もっと大切なことがある。


それは、思いきりママと遊ぶこと。

そんなこと?と思うかもしれないが、“むにこ”にとって何より嬉しく大切な時間なのだ。


“むにこ”はもうすぐ2歳になるブリュッセル・グリフォンの女の子だ。
誕生日は分からず、“むにこ”から6月25日と決められた。

“むにこ”と名付けたのはパパ。
唯一無二(ゆいいつむに)からきている。

“むにこ”と呼ぶと、こぼれそうな大きな瞳をキラキラさせて応えている。



“むにこ”との出会いは2021年6月。

運命のような偶然だった。



保護犬に関心があったが知識がなく、また、生活スタイルや収入面でも新たな犬を迎えるべきではないと思っていたママ。

それでも何か自分にできることはないかと、毎日のようにネットで里親募集サイトを見て回った。

そんな日々を過ごしている中で、少しずつ状況も変わっていった。
ママは仕事を変えてリモートワークになった。収入も安定して余裕が出てきた。

そして考えた。
「自分にできること“とは”何なのか」

それまでは物資の支援などをしてきたが、もう一歩、踏み出したい。
今はお金に余裕もできた。ずっと家にも居られる。

それなら、医療費のかかりそうな、ケアが必要な子を迎えよう。

それが、「自分だからできること」だと思ったからだ。


そして、そんな時に保護犬猫のマッチングサイト「OMUSUBI」で目に留まったのが“むにこ”だった。

歴代、ボストンテリアとしか暮らしたことがなかったママにとって、初めて見る生き物だった。

細い体にモサモサの毛と、まんまるな大きな瞳でジッと見つめる一枚の写真に、なんとも言えない感覚が走った。


「OMUSUBI」募集時の写真。当時の名前は“グリコ”


詳細を見ると、体が弱く、ケアが必要な子だとわかった。
長期スパンで費用も算出して家族とも相談を重ねた。

当時を振り返りながら、ママはハッキリと「もう、この子の一択だった」と言った。


初めて“むにこ”に会い、抱っこした日



“むにこ”にとって、ここは何度目の家だったのか。

この家に来てからというものの、常に何かに怯えて、小さくなって隅っこにいる。

「きっとここもすぐ追い出される。」そう思っていたのかもしれない。


大きな男の人もいる。知らない犬もいる。

怖い。怖い。次はどこへ連れていかれるのか。私の居場所はどこなのか。


そんな日々が約4ヶ月続いた。

そして、ついにその日がきてしまった。


また、知らない場所へ連れてこられた。でも、家ではなさそうだ。

知らない人が体を触り、いつの間にか眠らされていた。


そして目が覚めた。そこにママの姿はない。


その時 “むにこ”がどう思っていたのかは“むにこ”にしか分からないが、また捨てられたと絶望していたのかもしれない。


実は“むにこ”には先天的な腸の奇形があり、その手術のために動物病院へ入院していたのだ。

そんなことを知る由もない“むにこ”は、どんな気持ちだったのか。


入院は一泊だった。
たかが一泊といえど、犬にとっての一日は人間にとっての約三日だ。



お迎えに行った日、1日ぶりにママを見た“むにこ”はその瞬間、感情が溢れたようにクゥーンクゥーンと泣いた。
初めての泣き方だった。


きっと、“むにこ”にとって、「家族」ができた瞬間だったのだろう。


それからの“むにこ”は、どんどん変わっていった。


誰かが起きる前に起きなくてもいい。

家の真ん中に居てもいい。

夜、ママとパパのそばで一緒に眠っていい。


大きな安心感とたっぷりの愛情を感じて“むにこ”はあっという間にお姫様になった。

「もう〜大変。」と話すママの顔は、とても嬉しそうだ。



今の家には、いわゆる先住犬がいた。ボストンテリアの“うり”だ。

“うり”はブリーダーから迎えられ、大切に大切に育てられてきた。
今では心優しい、“むにこ”のお兄ちゃんだ。

ママは言う。“むにこ”と“うり”には決定的な違いがあると。


いつも一緒な“むにこ”と“うり”


例えばドッグランへ行ったとき。

ブリーダーから迎えられた“うり”は、置き去りにされることを知らない。だから、お出かけは嬉しいし、ドッグランで思いきり遊べる。

一方で、保護犬だった“むにこ”にとっては、お出かけ=捨てられる。ドッグラン=捨てられた。となり、遊ぶことができない。怯えてしまう。


初めてのドッグラン。怖くてパパに抱きつく“むにこ”


でも、ママにとっては、それも“むにこ”。

できるとかできないとかじゃなく、焦らず、少しずつ、“むにこ”にとって「怖い」が「楽しい」に変わるように、じっくり向き合っていきたいと思っている。



“むにこ”との出会いをきっかけに、保護団体のスタッフとなったママ。

週末は片道2時間、車を走らせて保護犬のケアをしに行く。

元トリマーの技術を活かしてシャンプー・カットをしたり、お散歩やドッグランで遊ばせたり。
犬舎やドッグランの掃除から、里親候補の方とのお見合いにも立ち会う。

そして家には“むにこ”とお兄ちゃんの“うり”、さらに常時3頭ほどの預かり犬がいる。


みんなと過ごす時間も楽しいが、ママを独り占めできる朝の時間が何より嬉しい“むにこ”。


だから、多少嫌がられていたとしても、ママを起こすことはやめられないのである。



“むにこ”の朝は、今日も早い。