犬の変性性脊髄症(DM)|症状や原因、治療法を獣医師が解説

犬の変性性脊髄症(DM)|症状や原因、治療法を獣医師が解説

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変性性脊髄症(DM)はシニアのコーギーに多い病気で、後ろ足の麻痺から始まり、最終的に呼吸ができなくなってしまいます。進行はゆるやかで生存期間も3〜4年と比較的長く、ご自宅でのケアが重要になる病気です。症状や原因、治療法について獣医師の佐藤が解説します。

犬の変性性脊髄症(DM)とは

コーギー

変性性脊髄症はコーギーに多い脊髄の病気で、英語で「DM(Degenerative Myelopathy)」とも呼ばれます。10歳を過ぎる頃に後ろ足の麻痺から始まり、前足へと移ってゆっくりと進行していきます。

3〜4年ほどで脊髄全体に麻痺が広がり、最終的に呼吸ができなくなります。残念ながら治療法は確立されていませんが、痛みを伴わずゆるやかに進行していきますので、飼い主さんの工夫次第で穏やかな最期を迎えることができます。

変性性脊髄症(DM)になりやすい犬種

変性性脊髄症の好発犬種としてジャーマンシェパード、ボクサー、バーニーズマウンテンドッグなどが知られていますが、日本では飼育頭数の多いコーギー(ウェルシュ・コーギー・ペンブローク)が代表的です。非常にまれな例ですが、シェルティ(シェットランド・シープドッグ)でも報告されています。


犬の変性性脊髄症(DM)の症状

コーギー

変性性脊髄症の症状は初期、中期、後期の3つのステージにわけることができます。

初期の変性性脊髄症(DM)

後ろ足の麻痺が最初に現れ、片足から始まるため大股歩きになったような印象を受けます。足が外側に向いてスイングしたり、内側に向いてクロスしたりすることもあります。痛みを伴わないため、犬の反応に変化は見られません。

立ち止まった時に足の甲が地面に着く「ナックリング」という症状が出ることもあり、その状態で歩くことで爪が擦れたり、爪が地面に当たる音が聞こえたりします。

片足から始まった麻痺がもう片方にも起こり始めると、ふらふらと歩き方がおかしくなったり、開脚するように足が開いてしまったり、腰が横に倒れてしまったりします。まれにこの段階で前足の麻痺が見られる場合もあります。

中期の変性性脊髄症(DM)

後ろ足が完全に麻痺し、自分の意志で立つことができなくなります。しかし、犬は痛みを感じていないため引きずって移動するようになります。そして麻痺は後ろ足と同様に前足でも見られるようになります。

前足も完全に麻痺すると立つことが困難になります。この段階でいつもの吠え声が出せなくなる発声障害や、おしっこやうんちを失敗してしまう排尿・排便障害が見られる場合もあります。

後期の変性性脊髄症(DM)

呼吸障害が見られるようになります。犬は通常、胸式と腹式の両方で呼吸を行いますが、この段階で胸式呼吸ができなくなり、補うために腹式呼吸が強く見られるよになります。次第に声が出なくなり、最終的に呼吸ができなくなります。

※参照:「変性性脊髄症」(獣医麻酔外科学雑誌)

犬の変性性脊髄症(DM)の原因

コーギー

変性性脊髄症は原因不明の病気ですが、2008年に米国・ミズーリ大学の研究チームが「スーパーオキシドジスムターゼ1」(SOD1)という遺伝子の変異が関連していると発表しています。

実際にSOD1遺伝子の変異が発症リスクを高めることは間違いないようですが、SOD1の変異があっても必ず発症するとは限らず、他にも原因があるとして研究が続けられています。


犬の変性性脊髄症(DM)の治療法

コーギー

変性性脊髄症は病理組織学的検査によって確定診断となりますが、生存中は行えません。麻痺を起こす病気は他にも椎間板ヘルニアや腫瘍、炎症性疾患(髄膜炎や脊髄炎など)などがあり、それらの可能性を除外して診断します。SOD1遺伝子の検査も参考になります。

治療方法は確立されていないため、ご自宅でのケアが重要になります。初期では積極的に運動させることが進行を遅らせるとされているため、専用のカート(車椅子)の使用が推奨されます。ただし、椎間板ヘルニアなど運動することが推奨されない病気もあるため、変性性脊髄症であるか慎重な診断が求められます。

海外では大型犬の発症が多く進行が早いこと、また文化的な違いから安楽死が選択されることもあるようです。日本ではコーギー(中型犬)が発症し、痛みを伴うことなく3〜4年ほど生きられるため、飼い主さんのケアのもと穏やかな最期を迎えることがほとんどです。

まとめ

コーギー
変性性脊髄症はコーギーに多い病気
治療法はないがゆるやかに進行する
痛みもないため自宅でのケアが重要
変性性脊髄症はコーギーに多い病気で、「DM」という名前でも知られています。原因も治療法も明らかになっていませんが、10歳を過ぎてから発症してゆるやかに進行します。生存期間は3〜4年と比較的長い病気ですので、愛犬のQOL(生活の質)を高められるようケアしてあげてください。