「“かわいそう”だけでは次へ進めない」 殺処分数ワースト5位の沖縄県が取り組む動物愛護とは
譲渡数を見れば全国でも上位なのに、引き取り数が多いために殺処分せざるを得ない――全国で保護動物の「殺処分ゼロ」が叫ばれる中、動物愛護の現場では簡単に「殺処分ゼロ」とは言えない厳しい現実と戦っている人たちがいます。今回、全国で5番目に殺処分数が多かった沖縄県にある沖縄県動物愛護管理センターの取り組みを取材しました。
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環境省が公表した最新のデータ(※1)によると、2014年度に犬・猫の殺処分数が最も多かった都道府県は長崎県で、山口県、大阪府、愛媛県、沖縄県と続きます(※2)。本記事では、沖縄県で犬・猫の引き取り数を多くしている地域特性やその課題、譲渡数を増やすための取り組みについて紹介します。 沖縄県動物愛護管理センターは、那覇から車で30分弱の小高い丘の上にあります。同センターは2015年度に3427匹の犬・猫を収容し、そのうち2655匹が殺処分されました(※)。その数字だけを見ると、沖縄県は全国と比較して動物愛護に消極的であり、安易に殺処分が行われているように見えてしまいます。しかし、問題はそう単純ではありません。
「蛇口を締める活動(引き取り)と、漏れないように受け止める活動(譲渡)の両立が大事なんです」と語るのは、同センターで主任技師を務める獣医師の宮城 国太郎先生です。沖縄県の殺処分数が全国でも多いのは事実ですが、一方で、譲渡数が多いという事実もあります。
「ボランティアの皆さんの活動もあって譲渡数は多いのですが、引き取り数がそれを上回り、漏れてしまう子たちは殺処分せざるを得ないという現状があります」(宮城先生)
では、なぜ沖縄県はそれほどまでに引き取り数が多いのでしょう。その背景には、経済や文化といった問題が存在しています。 皆さんは子どもの虫歯が最も多い県がどこだかご存じでしょうか。実は、沖縄県です(平成26年度の1歳6カ月児を対象とした調査より)。これが沖縄県の殺処分数ワースト1の背景にあると宮城先生は話します。
一見すると関係が無さそうな「子どもの虫歯」と「動物の殺処分」ですが、この二つには共通する問題があります。それは、所得水準の低さです。内閣府が発表した都道府県別の平均所得(2013年度)によると、東京都が約450万円だったのに対し、沖縄県は約210万円と、その差は倍以上。子どもにかけるお金の余裕が無いのですから、動物にかけるお金はさらに後回しになってしまいます。
また経済的な面だけでなく沖縄特有の地域特性として、「飼っているのか飼っていないのか。あいまいな飼い方が多い」と宮城先生は指摘します。その結果、野良犬や野良猫として引き取られる数も多くなるのです。 引き取り数を少なくするためには何をすべきなのでしょうか。宮城先生は、「犬に関しては、まず動物病院に連れて行くことです」と話します。連れて行くことで、「外で飼っているため汚れるから車に乗せられない」「しつけができていないので、病院で大人しくできない」といった問題が明らかになるとともに、ちゃんとしつけられた他の犬を見て、飼うことについて学ぶことも多いはずだと言います。動物病院に行くことは、飼い主としての自覚と責任を持つきっかけづくりにもなるのです。
猫に関しては、「室内飼い」と「迷子札の付いた首輪」が重要だと話します。そういった正しい飼い方がされていなければ、たとえ譲渡されてもまた野良猫として引き取られてしまったり、交通事故で死んでしまったりしてしまいます。「飼い主として、最後まで看取る責任があります。猫がいなくなったとき、どこか死ぬ場所を選んでいなくなったんじゃないかと考える方もいますが、だいたい交通事故で死んでます」と語る宮城先生の口調が少し強く感じられました。
最初に紹介した2655という殺処分の数には、引き取られてから病死した数や、事故によって瀕死の状態で運び込まれ、安楽死した数も含まれています。安楽死を行うのも、宮城先生の仕事なのです。
「片方では殺処分のボタンを押し、もう片方では譲渡のために手を動かしています。聴診器も、片方では治すために使い、もう片方では安楽死したかを確認するために使います。もちろん不幸な動物を少なくしたいという気持ちはありますが、現実を受け止め、どう伝えていくかを考えなければいけません。ただ『かわいそう』ということでは次へ進めないのです。どうやってアニマル・ウェルフェアの輪を広げていけるかが課題です」(宮城先生)
同センターには殺処分と聞いて「かわいそう」「ひどい」といった抗議の電話をする方もいるそうですが、殺処分は最後の手段です。なぜセンターに引き取られたのか。なぜ飼い主のもとに戻ることができなかったのか。最後だけを見るのではなく、そこに至ってしまった理由を考えなければ次には進めません。
昨年11月のリニューアルでは、特に「情報量」と「更新性」が改善されました。センターに動物が収容されると、収容場所や毛色、体格などの情報とともに、見た目がすぐに分かる写真が当日中に掲載されます。センターからだけでなく、一般の方も行方不明になったペットや保護した動物の情報を投稿することができます。 以前はもっと簡素な作りだった上に、保護動物の数が多すぎて手が回らず、写真を掲載できないこともありました。しかしリニューアル後は、写真を見た飼い主が行方不明の動物を見つけることができたり、保護された動物を見て「昔飼っていた子に似ているから引き取りたい」と保護につながったりする事例が出ているそうです。 引き取られたばかりの動物が収容されるフロアに、クラシック音楽が流れているのも印象的でした。もっとも、殺処分が行われるのも同じフロアで、殺処分される動物たちへの配慮でもあります。 収容された動物たちに名前を付ける工夫をしています。これは、「○○ちゃん体調悪いみたい」と職員同士が愛情を持って接するきっかけづくりにもしているそうです。宮城先生は、「ちょっとした工夫が、とても重要なんです」と話します。 おびえていたり元気がなかったりするより、人に慣れていて元気にしているほうが譲渡されやすくなるのです。犬たちは建物の外にあるドッグランで遊び、猫たちはケージから出て広いスペースで動き回ることができます。引き取りを考えて訪れた人たちが一緒に暮らしているイメージをしやすくなるような工夫が随所に見られました。
足を悪くした猫も以前なら殺処分の対象になっていたところですが、人に慣れ、骨折しているわけでもなくリハビリすれば治る可能性があるということで収容が続けられていました。目が悪い犬(瞳が緑色っぽいので「みどり」と名付けられていました)もいましたが、性格が良いから譲渡される可能性があると収容が続けられていました。 宮城先生は最後に、建物の外にある殺処分された動物たちの慰霊碑「獣魂碑」を案内してくれました。センターには学生など見学に訪れる人たちもおり、一人ひとりに慰霊碑の近くに咲いている花を摘み、碑に添えることで、自ら考える機会にしてもらっているそうです。 殺処分を減らすためには譲渡を増やすだけではなく、収容される数を減らさなければいけません。見学に訪れた人たちもそれを知り、いますぐできることとして、動物病院に連れて行く機会を増やすことや首輪(迷子札)を付けることを実践したり、それを身近な人に教えたりすると話してくれるそうです。
「保護だけではありません。一人ひとりにできることがあるんです」(宮城先生)
※2:都道府県、指定都市、中核都市の合計数
譲渡が多くても殺処分せざるを得ない
「蛇口を締める活動(引き取り)と、漏れないように受け止める活動(譲渡)の両立が大事なんです」と語るのは、同センターで主任技師を務める獣医師の宮城 国太郎先生です。沖縄県の殺処分数が全国でも多いのは事実ですが、一方で、譲渡数が多いという事実もあります。
「ボランティアの皆さんの活動もあって譲渡数は多いのですが、引き取り数がそれを上回り、漏れてしまう子たちは殺処分せざるを得ないという現状があります」(宮城先生)
では、なぜ沖縄県はそれほどまでに引き取り数が多いのでしょう。その背景には、経済や文化といった問題が存在しています。
殺処分数と虫歯有病者率の意外な関係
引き取られてきたばかりの犬たち
一見すると関係が無さそうな「子どもの虫歯」と「動物の殺処分」ですが、この二つには共通する問題があります。それは、所得水準の低さです。内閣府が発表した都道府県別の平均所得(2013年度)によると、東京都が約450万円だったのに対し、沖縄県は約210万円と、その差は倍以上。子どもにかけるお金の余裕が無いのですから、動物にかけるお金はさらに後回しになってしまいます。
また経済的な面だけでなく沖縄特有の地域特性として、「飼っているのか飼っていないのか。あいまいな飼い方が多い」と宮城先生は指摘します。その結果、野良犬や野良猫として引き取られる数も多くなるのです。
飼い主には最後まで看取る責任がある
新しい飼い主を待つ猫たち
猫に関しては、「室内飼い」と「迷子札の付いた首輪」が重要だと話します。そういった正しい飼い方がされていなければ、たとえ譲渡されてもまた野良猫として引き取られてしまったり、交通事故で死んでしまったりしてしまいます。「飼い主として、最後まで看取る責任があります。猫がいなくなったとき、どこか死ぬ場所を選んでいなくなったんじゃないかと考える方もいますが、だいたい交通事故で死んでます」と語る宮城先生の口調が少し強く感じられました。
最初に紹介した2655という殺処分の数には、引き取られてから病死した数や、事故によって瀕死の状態で運び込まれ、安楽死した数も含まれています。安楽死を行うのも、宮城先生の仕事なのです。
「片方では殺処分のボタンを押し、もう片方では譲渡のために手を動かしています。聴診器も、片方では治すために使い、もう片方では安楽死したかを確認するために使います。もちろん不幸な動物を少なくしたいという気持ちはありますが、現実を受け止め、どう伝えていくかを考えなければいけません。ただ『かわいそう』ということでは次へ進めないのです。どうやってアニマル・ウェルフェアの輪を広げていけるかが課題です」(宮城先生)
同センターには殺処分と聞いて「かわいそう」「ひどい」といった抗議の電話をする方もいるそうですが、殺処分は最後の手段です。なぜセンターに引き取られたのか。なぜ飼い主のもとに戻ることができなかったのか。最後だけを見るのではなく、そこに至ってしまった理由を考えなければ次には進めません。
サイトリニューアルで情報発信を強化
譲渡数を増やす取り組みの一つとして宮城先生が力を入れていたことの一つが、沖縄県動物愛護管理センターのサイトリニューアルです。沖縄県動物愛護管理センター( http://www.aniwel-pref.okinawa/ )
大事なのは、一緒に暮らすイメージができるか
施設として特徴的だったのは、いかに保護された動物たちがリラックスできるかという「アニマル・ウェルフェア」の観点が重視されている点です。檻やケージに入れる際は、動物同士でケンカが起きないよう1匹ずつ収容したり、妊娠した猫がいれば子どもが生まれた時のことを考え、床に金属など冷たい素材が使われていないケージに入れるようにしています。負傷しているところを保護された猫。以前はもっと狭いケージに収容されていました
動物たちをリラックスさせるためにクラシック音楽を流しています
あだ名の欄があり、この子の場合は「かーさ」と名付けられています
敷地内に広いドッグランが設置されています
動物福祉の観点で、一人ひとり何ができるか
取材をする中で意外に思ったのは、想像より収容数が多くなかったということ。以前に比べれば収容数は減っており、余裕ができたことで譲渡のチャンスも増えています。例えば、以前はサイトでの掲載期限を過ぎて5日がたつと殺処分となっていましたが、今はできる限り掲載期限を延ばして掲載しているそうです(※掲載期限が来たからといってすぐに殺処分されるわけではありません)。足を悪くした猫も以前なら殺処分の対象になっていたところですが、人に慣れ、骨折しているわけでもなくリハビリすれば治る可能性があるということで収容が続けられていました。目が悪い犬(瞳が緑色っぽいので「みどり」と名付けられていました)もいましたが、性格が良いから譲渡される可能性があると収容が続けられていました。
リハビリをしながら飼い主が見つかるのを待つ子猫
センターではボランティア団体への譲渡も含め、犬・猫の避妊・去勢手術を行ってから譲渡しています
殺処分された動物たちの慰霊碑「獣魂碑」
「保護だけではありません。一人ひとりにできることがあるんです」(宮城先生)
動物愛護管理センターの宮城 国太郎先生