犬の緑内障|症状や原因、治療法を獣医師が解説

犬の緑内障|症状や原因、治療法を獣医師が解説

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犬の緑内障は突然発症し、放置すると短期間で視力が失われる病気です。完全に治ることはありませんが、初期治療が行えれば視力を温存することができます。白内障との違いや原因や症状、点眼薬や手術など治療法について、獣医師の佐藤が解説します。

犬の緑内障とは



緑内障は、眼の眼圧(眼球内の圧力)が高まることで視神経が損傷し、やがて失明してしまう病気です。視力があるうちに眼圧を下げることができれば回復の可能性がありますが、一度失われた視力を元に戻すことはできません。

眼圧が上がってから失明までの時間は数時間から数十時間ほどで、異変に気づいたらご自宅で様子見をする時間はありません。しかし、飼い主さんが「目が大きくなった」と気づく、いわゆる「牛眼」と呼ばれる状態ではすでに視力が失われています。

視力が失われても眼圧は高い状態が続くため、犬は痛みを感じ続けます。そうなると選択肢は点眼薬、外科的処置として「シリコン義眼を挿入する」もしくは「眼球摘出」しかありません。早期発見・早期治療が非常に重要な病気と言えます。

眼圧が上がる理由

緑内障の説明イラスト

眼圧は眼の中の水(房水)が増えることで高まります。房水は本来、毛様体で作られて水晶体の前を通り、隅角(ぐうかく)から排出されます。

隅角が詰まったり流れが滞ったりして房水が排出できなくなると水晶体の前方(前眼房)に房水が溜まり、それによって水晶体が押されて眼圧が上がります。眼球の後ろには光を感じる網膜と、それを脳に伝える視神経があります。視神経は非常にデリケートな組織で、眼圧によって簡単に損傷してしまいます。そして損傷した視神経を治すことはできません。

緑内障と白内障の違い

緑内障と名前が似た白内障という病気がありますが、こちらは水晶体が濁ることで見えなくなってしまう病気です。緑内障では失った視力を取り戻せないのに対し、白内障は水晶体を人工レンズに変えることで回復する可能性があります。

緑内障は白内障が原因となって起こることもあります。白内障について、詳しくは以下の関連記事をご覧ください。


緑内障になりやすい犬種

犬種や年齢、性別に関係なくどの犬も緑内障になる可能性がありますが、人と同様にシニアになるほど発症しやすくなります。よく見られる犬種としては柴犬やシーズー、アメリカンコッカースパニエル、チワワ、ビーグルなどが挙げられます。

犬の緑内障の症状

柴犬

緑内障は痛みを伴うため、目そのものだけでなく行動も変化します。症状の進行はとても早く、あっという間に視力が失われてしまいます。異変を感じどれか一つの症状でも見られた場合はすぐに動物病院へ行ってください。

目の変化

  • 白目が充血する
  • 瞳が白く濁る
  • 瞳の奥が緑色に見える
  • 瞳が大きくなる
  • まぶたが痙攣する
  • 過剰な涙や目やに
  • 目を閉じる
  • 目が大きくなる(牛眼)

行動の変化

  • まぶしそうにする
  • 目を掻く
  • モノにぶつかる
  • 元気がない
  • 食欲不振
  • 嘔吐
  • 頭や目の周りを触られるのを嫌がる

緑内障は別の病気が原因になっている場合もあり(続発性)、その病気に特有の症状が見られる場合もあります。

犬の緑内障の原因

ビーグル

緑内障の原因は、大きく「先天性」「原発性」「続発性」の3つに分かれます。

先天性緑内障

犬ではまれですが、生まれつき房水の排出路である隅角に異常(奇形)があることで生後半年ほどの間に発症します。片目だけ発症した場合、もう片方も高い確率で発症します。

原発性緑内障

病気を伴わず、房水の排出路に異常が起こって眼圧が上がります。前述した好発犬種をはじめとして遺伝性が疑われます。片目だけ発症した場合、もう片方も高い確率で発症します。

続発性緑内障

眼圧が上がる目の病気に伴って二次的に緑内障を起こします。多いのは「白内障」「ぶどう膜炎」「水晶体前方脱臼」「眼内腫瘍」「網膜剥離」「眼内出血」などです。


犬の緑内障の治療法

犬

緑内障は発症してしまうと完治することはありません。治療方針は視力が回復する可能性のある「急性期」と、可能性のない「慢性期」で大きく異なります。

緑内障の診断は眼圧検査が基本になります。そのほか眼に細い光を当てて眼の内部を検査するスリットランプ検査、視神経乳頭の陥没の有無で視力の有無を確認する眼底検査、隅角検査、超音波検査などを行います。

急性緑内障の治療法

視力を温存するため、眼圧を下げることが最優先になります。まずは点滴や点眼薬で、眼圧の状況を見ながら「作られる房水の量を減らす」か「排出される房水の量を増やす」か行います。期待する効果が見込めない場合は外科的治療を行います。

外科的治療では、目の中に医療用チューブを挿入して強制的に房水を排出させるシャント手術や、医療用レーザーによって毛様体を壊死させて房水の産生を抑える手術が行われます。根本的な治療にはならないため、点眼と並行して視力を温存するための治療を続けます。

慢性緑内障の治療法

すでに視力が失われている場合は、痛みを取る治療が最優先になります。放置すると犬は痛みを感じ続けますし、目が大きくなる「牛眼」や逆に小さくなる「眼球癆(ろう)」に進行してしまいます。

視力回復の見込みがない状態を点眼薬で維持し続ける意義は低いため、慢性緑内障では「ゲンタマイシン注入」「義眼挿入」「眼球摘出」のいずれかが行われます。

ゲンタマイシンは抗生物質で、眼球内の硝子体(しょうしたい)に注射することで毛様体を壊死させて房水の産生を抑えます。ゲンタマイシンが有効ではない場合は「義眼挿入」か「眼球摘出」を検討します。

眼球摘出は摘出した目を閉じるため見た目の変化が大きいのですが、義眼挿入ではパッと見ではわからないほど変化が少ないのがメリットです。以前は眼球摘出が一般的でしたが、シリコン義眼が普及したことで義眼挿入が一般的になりました。


まとめ

ペキニーズ"
緑内障は眼圧が高まり失明に至る病気
放置すると視力が失われ回復できない
どの犬でも発症するが好発犬種がある
早期発見・早期治療が非常に重要
緑内障は発症すると短期間で視力が失われ、回復が見込めなくなる病気です。飼い主さんが気づきにくい病気ではありますが、早期に発見することができれば視力を温存する治療を行うことができます。異変を感じたら迷わず病院へ行くようにしてください。