【獣医師執筆】腎臓病の犬猫におやつはNG? 療法食の注意点や食べない場合の対策を紹介

【獣医師執筆】腎臓病の犬猫におやつはNG? 療法食の注意点や食べない場合の対策を紹介

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慢性腎臓病は1回患うと治ることがない病気で、特に猫では死因の1、2位になります。病気を予防することができれば一番良いのですが、残念ながら確実に予防する方法は今のところありません。そのためこの病気を患ったときの治療目標は、病気が悪化するスピードを遅くし、寿命を延ばすことになります。今回は腎臓の病気のうち、「慢性腎臓病」に罹患した犬猫への食事療法について日本獣医生命科学大学 臨床獣医学部門 治療学分野I・講師で獣医師の宮川が解説します。

食事療法で悪化を抑えられる

テーブルに顎を乗せる犬

慢性腎臓病の悪化を抑える治療法として、食事療法の有効性が科学的に証明されています。

診断を受けると獣医師から「腎臓病用療法食」が処方されることになりますが、それは大まかに言えば「リン」や「タンパク質」「ナトリウム(塩分)」を減らしたご飯です。

慢性腎臓病になると、通常なら腎臓から捨てられるはずの老廃物が捨てられなくなり、体内に蓄積されていきます。この蓄積した老廃物(尿毒素といいます)が体のさまざまな臓器に影響をおよぼし、腎臓自体にもダメージを与えます。

その老廃物の元となったり、腎臓に負担をかけるのが「リン」や「タンパク質」「ナトリウム(塩分)」のため、食事療法ではこれらを減らすことが推奨されています。


リン

リンはカルシウムとくっついて骨になる大切な栄養素なのですが、食品添加物に含まれるため過剰摂取になりがちです。

通常は余分なリンを腎臓が尿として排出してくれるので問題にはならないのですが、慢性腎臓病になると排出機能が働かず、余分なリンが血液に漂い始めます。この状態を「高リン血症」といいます。

血液中のリンが増えると体はバランスを保つため、逆に骨からカルシウムを取り出し、骨をもろくさせます。さらに、血液中でくっついたリンとカルシウムは骨でない軟らかい組織(血管や腎臓など)に沈着し、組織の構造を壊す恐れがあります。

そのため、慢性腎臓病に罹患した犬猫は体内のリンを減らす必要があり、ご飯をリンが少ないものにしなければいけません。

タンパク質

タンパク質は炭水化物、脂質と並ぶ三大栄養素ですが、実は炭水化物と脂質と違って、タンパク質は体内で分解された後に尿毒素を発生させます。

通常は腎臓が排出するので問題ないのですが、慢性腎臓病の場合は注意すべき栄養素です。タンパク質は、肉(乳製品も)や魚に多く含まれているので注意しましょう。

ナトリウム(塩分)

塩分の取り過ぎは慢性腎臓病を悪化させる可能性があります。特に人が食べる物は高塩分ですので、慢性腎臓病の犬や猫には絶対にあげてはいけません。

慢性腎臓病になると塩分を排出する能力も低下し、腎臓に大きな負担をかけるので、制限が必要です。

「おやつはNG」ではない

テーブルの上の猫

リンの摂取を抑えるため特に気をつけたいのは「おやつ」です。

どんな飼い主でも愛犬、愛猫にドッグフードやキャットフード以外のおいしそうな食べ物をあげたいと思うのは当然のことでしょう。「慢性腎臓病だからおやつをあげるのは絶対ダメ!」とは言いません。

しかし、与えるおやつや食べ物を選ぶ必要はあります。特に犬猫が好みそうなチーズや魚、ささみにはリンが多く含まれているため避けてください。

白米、芋類、野菜や果物は問題ありませんが、ほうれん草やブドウ、レーズンは与えてはいけません。

療法食を食べない理由と対策

いぬとおやつ

食べない理由

「腎臓病用療法食」は、タンパク質が少なく、塩分も少ないご飯です。想像してもらうとわかると思いますが、美味しくなさそうです。

各フードメーカーがかなり努力していますが、実際に腎臓病用療法食の嗜好性は高くありません

慢性腎臓病の犬や猫は、尿毒素の蓄積のせいで食欲が落ちています。そもそも食欲はないし、ご飯は美味しくないし……ということで腎臓病用療法食を食べないことが多く、療法食の継続を諦めてしまう傾向にあります。

しかし、そこで簡単に諦めてしまうと慢性腎臓病はどんどん悪化していきます。

美味しいご飯はタンパク質を多く含みます。タンパク質は尿毒素となって症状をさらに悪化させ、ますます食べなくなるという悪循環に陥ってしまいます。

食べない場合の対策

「療法食のメーカーを変えてみる」「味を変えてみる(味の選択が可能なメーカーもあります)」「缶とドライを変えてみる」ということを試してください。

「それでも食べてくれない!」という場合は、タンパク質がやや少ない高齢用の一般的なフードを加えます(一部の高齢用フードはタンパク質を増やしている場合もありますので注意してください)。

腎臓病用療法食と高齢用の一般的なご飯の割合を変化させ、少しでも食べてくれるようにしてください。

最終的にどうしようもない場合は食べてくれるものを選択する他はないのですが、諦める前に少しでもタンパク質・リンが少なくなるように努力することが重要です。

療法食を与える際の注意点

ドッグフード

腎臓病用療法食に関する大前提ですが「療法食は薬ではない」ということです。「腎臓病用療法食を食べていれば腎臓に良いから、そのほかの食べ物を食べてもよい」というわけではありません。

どんな療法食もそうですが、療法食は多くは栄養素のバランスを変えることによって、病気の治療または予防に役立てています。

よくあることですが、慢性腎臓病に罹患している猫で尿石症も見つかった場合、適応となるご飯は、「腎臓病用療法食(低タンパク質、低塩分)」と「尿石症用療法食(高タンパク質、高塩分)」です。

しかし、これを半々で食べたとしたら、それぞれのバランスが崩れ「中タンパク質」「中塩分」となり、両方とも意味をなさなくなるため、獣医師の指示の下、与えるようにしてください。

まとめ

いぬとねこ

慢性腎臓病は完治できない
治療目標は、病気が悪化するスピードを遅くすること
食事療法の有効性が科学的に証明されている
リン、タンパク質、ナトリウム(塩分)の摂取に要注意
おやつは絶対ダメ!というわけではありませんが注意も必要

食事療法で病気が悪化するスピードを遅くすることは、愛犬・愛猫の寿命を延ばすのみならず、健康な状態と変わらぬ時間を多く過ごせることにもつながります。

獣医師の指示のもと、療法食を与えていただき、何かあったらかかりつけ獣医師に相談しましょう。






第2稿:2020年5月20日 公開
初稿:2016年10月13日 公開