
犬の停留睾丸(ていりゅうこうがん)とは?症状や手術、繁殖可否などを獣医師が解説
男の子の犬の場合、まれに陰のうに精巣がない「停留睾丸」が見られる場合があります。別名「停留精巣」「陰睾」と呼ばれることもあります。停留睾丸だからといって、犬に痛みはありませんが、今後腫瘍化するリスクがあるため、早めに処置しましょう。今回は犬の停留睾丸の症状やリスク、治療方法などを、獣医師の佐藤が解説します。
犬の停留睾丸とは

精巣が下りていない陰のう(停留睾丸)
犬の停留睾丸は、男の子のみに起こり、精巣が陰のうまで下りていない状態のことをいいます。
犬は生まれたとき、精巣は腹腔内にあります。それが成長に伴い、腹腔内から陰のう内に下りて収まっていきます。
一方、停留睾丸の場合は、精巣が腹腔内に残ったままだったり、鼠径部まで下りているものの、陰のうまで下りていない状態を指します。
犬の停留睾丸のリスク

腹腔内に精巣があるからといって、それ自体が病気なわけではありません。
しかし将来、精巣が腫瘍化するリスクが大幅に増えるため、腫瘍化する前に処置することが望ましいでしょう。
犬の停留睾丸の症状

症状は特にありません。
鼠径部まで精巣が下りていれば、小さなしこりのように触ることができます。
犬の停留睾丸の原因・予防方法

主な原因は「遺伝」です。
そのため、予防方法は特にありません。
犬の停留睾丸の診断・治療方法

診断方法
触診や超音波検査により診断されます。腹腔内に精巣がある場合は超音波検査が行われます。まれにCT造影検査で腹腔内の精巣を確認することもあります。
治療方法
超音波検査により、精巣の大きさや位置などを把握します。鼠径部に精巣があれば、皮膚表面の切開での摘出になりますが、腹腔内に停留している場合は開腹手術になる可能性が高いでしょう。
また、腹腔内の深い位置にある場合は手術が困難な場合があります。
他の疾患などにより「手術が困難」と判断された場合は、無理に摘出せず、精巣が腫瘍化しないか定期的に検査し、経過観察がとられる場合もあります。
いずれにせよ、かかりつけの獣医師さんの判断によるところが大きいため、十分に相談した上で対処していきましょう。
犬の停留睾丸に効くマッサージ
マッサージすることで精巣が下りてくることもあるようですが、医学的根拠はありません。
上記の動画では、お腹の上のほうから下に流すようにマッサージすることを紹介していますので、参考程度にご覧ください。
犬の停留睾丸でよくある質問

放置していれば精巣が陰のう内に下りてくることはある?
停留睾丸の場合、自然に下りてくることはありません。生後間もない場合は、基本腹腔内に精巣はありますが、遅くとも生後8カ月までに降りていることが理想です。
動物病院によっては1歳齢まで経過を観察する病院もあります。
生後9カ月経っても陰のう内に精巣が下りてきていなければ、今後のリスクを考えてかかりつけ獣医師と相談の上、治療を開始することをオススメします。
犬の停留睾丸はペット保険の補償対象?
加入しているペット保険会社にて確認することをおすすめします。ただし停留睾丸自体は病気ではないため、多くのペット保険会社で「補償対象外」であることが多いと思われます。
停留睾丸の手術後に気をつけることは?
多くの場合、予後は良好です。開腹手術を行った場合は傷が開かないよう、術後服やエリザベスカラーを脱がせないようにしましょう。また、安静にする必要があるため、必要以上の運動はおすすめできません。
停留睾丸でも繁殖はできる?
両側の精巣が停留している場合は、繁殖能力はありません。片側のみの停留の場合は繁殖能力はあるものの、停留睾丸は遺伝するため、繁殖に適さないでしょう。
まとめ

停留睾丸は精巣が陰のうまで下りていない状態をいいます
停留睾丸を放置すると、将来腫瘍化する恐れがあります
精巣の大きさや位置によって開腹手術が必要になります
停留睾丸の原因は主に遺伝です
陰のうを触り、コリコリとした精巣が2個なければ停留睾丸を疑いましょう。
停留睾丸だとしても、犬に痛みはなく、早急に手術が必要なわけではありません。ただ、中年齢を過ぎたあたりから腫瘍化する恐れがあるため、早めの処置を行うことで、負担が少なくて済みます。