犬の火傷(やけど)の症状や応急処置を獣医師が解説
人間同様、犬にとっても身近なところに火傷(やけど)になり得る危険が潜んでいます。日のよく出た日中のアスファルトや家の中のコンセント、コタツ、ストーブにお風呂やシャワーなど、人間にとっては1年を通して当たり前のものも、犬にとっては危険なものになり得ます。今回は犬の火傷(やけど)について、新庄動物病院副院長で獣医皮膚科認定医の今本三香子が実際にあった症例を交えながら、症状、原因などを解説します。
犬の火傷(やけど)とは
犬の火傷(やけど)の定義
以前は「火傷」といわれていましたが、現在は「熱傷」といい、熱によるもの全般による皮膚へのダメージと定義されています。犬の低温やけどとは
熱傷の一つである低温やけど。短時間であれば問題ない程度の熱が、長時間の持続した皮膚への接触によって引き起こされます。一般的には「低温やけど」と呼んでいる方もいますが、火傷同様、「熱」による皮膚へのダメージとして「低温熱傷」と表記するほうが正しいでしょう。
低温熱傷は犬自身はもちろん、飼い主さんも気づかないうちになっていることが多いです。
犬の火傷(やけど)で気をつけたい年齢
熱傷はどの年齢でも起こり得ますが、子犬、老犬は特に注意が必要です。
子犬の場合、コンセントをかじって感電と同時に、口の中に熱傷を負ったり、老犬の場合だと、感覚が鈍感なため長時間、熱にあたって低温熱傷になったりする可能性があります。
犬の火傷(やけど)の原因
犬の火傷(やけど)は以下のように、身近なところに潜んでいます。
- 真夏のアスファルトの熱
- 熱いものを誤飲
- コンセントをかじる
- お風呂やシャワーの温度
- 日光を浴びすぎる
どれも飼い主さんの心がけ一つで予防できるものです。
犬の火傷(やけど)の実例紹介
皮膚の低温熱傷
<原因>
コタツが原因で、低温熱傷になりかけた犬がいました。最初の主訴は「背中の毛が抜けて剥げてきた」でしたが、飼い主さんに詳しく聞くと、ずっとコタツの一番いい場所を陣取って寝ているとのことでした。<症状>
背中の皮膚が赤みを帯び、毛が薄く、乾燥が見受けられました。低温熱傷は44~50℃程度の熱源に長時間接触することにより起こる熱傷です。初期は赤くなっているだけですが、7〜10日くらいからかさぶたができ、ひどくなると水疱、潰瘍へと皮膚症状が出てきます。
この犬の場合はそこまでひどくはありませんでしたが、赤みが出て、熱のため血流が悪くなり、皮膚の乾燥、脱毛へとつながったと思われます。
<対応>
原因であるコタツを一旦片付けてもらい、脱毛は改善されました。感電による口内の火傷
<原因>
コンセントをかじって感電したことにより、硬口蓋の奥に穴が開いた犬がいました。<症状>
感電すると、口の中に水疱やびらんを起こすことがあります。今回の犬の場合、最初は赤くなっていただけですが、次第にその部分が白っぽくなり、硬口蓋の組織が落ちてしまったのです。そうなったことによって、食べたものが鼻に直結する状態になりました。
<対応>
穴が大きい場合は、手術したり、マウスピースのようなものを作ってはめておくということが必要になってきます。今回の飼い主さんは手術は選択せず、穴が開いたまま生活することを選択されました。ときどき鼻に水などが入ってくしゃみをしているようですが、元気に生活しています。
感電による肺の火傷
<原因>
コンセントをかじって感電したことにより、口の中の熱傷以上に、肺へのダメージが深刻になったことがありました。<症状>
電流により、肺の細い血管が障害を受け、肺胞という酸素と二酸化炭素を交換するところに水が溜まることがあります。こうなると酸素交換もうまくいかず、半分水の中におぼれているような息苦しさを感じ、最悪の場合は死に至ります。
<対応>
当院でコタツのコードをかじり感電して肺水腫になった犬は、幸い肺へのダメージは軽く、点滴やステロイドなどの投与で改善されました。もし感電しているのを見かけて、すぐに助けようとしたら飼い主さん自身も感電する恐れがあるため、ブレーカーを落としたり、ゴム手袋をしたりして、感電している犬に直接触らないようにしてください。
日光による熱傷
<原因>
被毛の色の薄い犬が日光に当たりすぎると「日光弾力繊維症」「日光性皮膚炎」などと呼ばれる皮膚病になることがあります。<症状>
日光に当たりすぎたために、皮膚の細胞が損傷し皮膚炎になるのですが、ただの皮膚炎とは侮ってはいけません。熱傷にはグレードがあり、日光による皮膚炎はグレードⅡ度に値します。熱傷のグレード | 皮膚のどこまでのダメージか | 皮膚の症状 |
---|---|---|
Ⅰ度 | 表皮まで | 皮膚が赤くなる |
Ⅱ度 | 真皮まで | 水疱ができる |
Ⅲ度 | 皮膚全層 | 一見普通の皮膚だが痛みを感じない。皮膚移植が必要 |
皮膚が赤くなったり、かさぶたができたりするくらいであれば、短期的に見るとたいした影響はないように思われます。
しかし、皮膚の細胞への損傷が重なることで、皮膚に癌が発生する恐れがあります。
犬の火傷(やけど)の応急処置
もし熱湯などで皮膚に熱傷を負った場合は、すぐに患部を冷やしてください。
患部が口の中の場合は冷やすことができないので、かかりつけの病院へ行きましょう。
まとめ
熱傷は身近なところに潜んでいます
子犬・老犬は特に注意しましょう
愛犬が熱傷を負った場合は患部を冷やすか、すぐに病院へ
犬の熱傷は飼い主さん次第で予防できます
予期せぬことはあるかと思いますが、犬の熱傷は飼い主さんが少し気を配るだけで予防できることです。
愛犬のために、予防できることは予防し、気になることがあれば早急に動物病院に連れて行きましょう。