猫にできものができたら?危険なできものや考えらえる病気・対処法などを獣医師が解説
愛猫の体をなでていたら、「あれ、何かできている?」という経験をしたことはありませんか? しこりなどのできものを見つけたとき、心配になるかと思います。問題ない場合もありますが、癌などの大きい病気などが潜んでいる可能性もありますので、気になる場合は早急に病院へ連れていきましょう。今回は猫のできものについて、獣医師の飯塚が解説します。
症状 | 猫の体にできものができている |
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考えられる原因・病気 | 乳腺腫瘍、皮膚腫瘍など |
危険度 | 良性の場合と悪性の場合があります。とはいえ悪性の可能性も考え、急激に大きくなったり、気になる場合は病院へいきましょう。 |
猫のできものとは
「できもの」は、通常にはないところにできた「かたまり」を指します。飼い主様が気づきやすいのは皮膚が隆起した状態の「できもの」でしょう。
この他、たとえば肝臓や腸など内臓の、内部や表面にできた、しこりといわれるようなかたまりも「できもの」と表現します。
目につきやすい分、心配にもなる皮膚など体の表面にできるできものは、毛穴のつまりによるにきびのようなものから、腫瘍(癌)まで、さまざまなものを含みます。
犬では、脂っぽくなる体質の犬種があるのに対し、猫ではあまり種類による差異はありません。そのため、皮膚トラブルによるできものは少なく、腫瘍である可能性が高くなります。
危険な猫のできもの
できもので注意が必要なのは、やはり腫瘍性のものです。
腫瘍は、種類によっては好発部位といってできやすい場所はありますが、全身どこにでもできる可能性があります。一般的には、「頭にできた」「脇にできた」などの場所だけでは良悪の判断はできません。
ただし、種類によっては、できもののできた場所で悪性度が変わることもあります。たとえば肥満細胞腫では、四肢や鼻などの先端の部分や、皮膚と粘膜の境界部にできたできものは、他の部位にできた場合より悪性である可能性が高くなります。
皮膚表面あるいは皮下(皮膚と筋肉の間)にできるできものは、周りの皮膚とできものの境界が不明瞭であったり、硬いもの、あるいは筋肉にくっついているものは悪性であることが多いです。
また、急速に大きくなるできものも悪性であることが多く、注意が必要です。「白い」「ピンク」「黒い」などのできものの色での判別は、あまりあてになりません。
猫に危険なできものの場合に考えられる病気
猫で多い腫瘍は、以下のような種類があげられます。
- 乳腺腫瘍
- 皮膚腫瘍
- その他
乳腺腫瘍
未避妊の雌猫や、高齢になってから避妊をした猫に起こりやすい腫瘍です。初期には、後ろ足に近い乳首のそばに、ぽつんと硬いしこりが触れるようになることが多いです。治療は外科手術による摘出になります。しかし、猫では80%が悪性であり、早期にリンパ節や肺に転移することがあります。
悪性でも、転移がなければ、摘出後の余命や再発までの時間は長くなります。大きさが3cmより小さい間に摘出を行ったほうが、より再発の可能性が低くなると言われていますので、早期発見が鍵となる腫瘍です。
また、乳腺腫瘍に限っては、未避妊の猫は避妊をした猫に比べて、腫瘍になる危険率が明らかに高くなります。新しく子猫を家族に迎え入れたとき、出産を望むのでなければ、なるべく1才を迎える前に避妊手術を受けさせるようにしましょう。
皮膚腫瘍
猫では、「肥満細胞腫」「扁平上皮癌」などがあげられます。肥満細胞腫
血管の正常な維持に関与する細胞が、異常に増殖してしまう腫瘍です。「皮膚型」と「内蔵型」に分けられます。内蔵型のほうが悪性です。皮膚型は頭~首を中心に、白からピンク色の、2mm~15mmほどのできものが1個ないし数個できることが特徴です。
転移や内臓型への移行が認められなければ、外科手術が適応になります。手術後はステロイドの内服による維持治療で、再発を抑えます。
扁平上皮癌
耳の先や鼻、特に口の中などのメラニン色素の少ない部位にできる腫瘍で、高齢での発生が多くなります。症状が進むと、じゅくじゅくと出血や排液が進む潰瘍になりやすいため、生活の質をあげるために外科治療が選択されることが多いです。悪性度が高く、治療をしても延命が難しい腫瘍になります。
その他(ワクチン由来の線維肉腫)
皮膚のできものに関して、猫ではワクチン接種部位におけるできものが、問題になることがあります。ワクチンを接種した皮膚に、何らかの原因により強い炎症反応が急激におこり、できものになったのがワクチン由来の線維肉腫です。
ワクチン接種を受けた猫のうち、1万頭に1頭の割合で発生するといわれています。接種後数週間~数カ月後に、ワクチンを打った場所(多くは首の付け根、左右の肩の間)に腫瘍ができ、急速に大きくなります。
外科手術が適応で、転移が見られる場合は、抗がん剤治療が選択されます。
愛猫にできものを見つけたら
まずは、小さなできものでも、場所を覚えておいてください。積極的な治療を行う判断としては、できものが大きくなるスピードが重要になります。
できものが数週間あるいは数日で、どんどん大きくなる場合、感染や炎症による液体貯留なら、抗生剤の投与などの治療が必要になります。また腫瘍であれば、悪性の可能性が高く、早急な検査が望まれます。
いずれにしても、できものは見た目では何であるかはわかりません。気になる場合は、なるべく早めにかかりつけの動物病院を受診しましょう。
病院での対応
多くの病院では、まず針生検(FNA)検査をすすめられます。これは、できものに注射針を刺して、もらってきた細胞を調べる検査です。注射針の中のわずかな細胞を調べるので、確定検査には至りませんが、「炎症なのか」「腫瘍なのか」など大まかな判断はつき「今後どうするべきか」の指針にはなります。
鎮静などの特別な処置は必要ないことが多く、検査自体も30分程度で受けられます。できものができて悩んでいる場合は、ぜひ病院で相談してみてください。
愛猫のできものが気になったら病院へ
できものは、問題ないものであることもありますが、猫では腫瘍であることが多いです。乳腺腫瘍など、早期に発見し治療を受けることで、その後の状態が良い方向に動くものもあります。
見た目や場所では、できものが何であるのかや、良悪は判断できません。気になる場合は、早めにかかりつけの動物病院を受診してください。
参考文献
- 長谷川篤彦,辻本元 総監訳「スモールアニマル・インターナルメディスン」メディカルサイエンス社,2005/03
- 日本獣医病理学会 (著)「動物病理学各論」文永堂,2011/5
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女性獣医師は、獣医師全体の約半数を占めます。しかし、勤務の過酷さから家庭との両立は難しく、家庭のために臨床から離れた方、逆に仕事のために家庭を持つことをためらう方、さらに、そうした先輩の姿に将来の不安を感じる若い方も少なくありません。そこで、女性獣医師の活躍・活動の場を求め、セミナーや求人の情報などを共有するネットワーク作りを考えています。
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