猫は避妊・去勢すべき?手術の時期や方法などを獣医師が解説
雌猫の卵巣(+子宮)を摘出することを避妊、雄猫の精巣を摘出することを去勢といいます。猫と暮らす方の中には、避妊・去勢を行ったほうがいいか悩まれる方は多いかもしれません。今回は、猫の避妊・去勢の必要性、手術を行う際の流れや注意点などについて、平井動物病院院長の米山が解説します。
猫の避妊・去勢の目的
繁殖の防止
望まれない繁殖を防ぐことができます。猫は際限なく妊娠・出産を繰り返しますので、人為的にコントロールしなければいけません。発情や問題行動の抑制
「雌猫の鳴き声」「雄猫の尿スプレー(マーキング)」「雄猫の縄張り争い」などの行動を抑制することができます。病気の予防
雌猫において、「子宮疾患(子宮水腫、子宮蓄膿症)」「乳腺腫瘍」などの発生を予防することができます。犬と猫の避妊・去勢目的の違い
犬と猫では避妊・去勢の目的は多少異なり、犬では、病気の予防が最も重要な目的です。一方、猫では、乳腺腫瘍の予防効果はあるものの、その他の生殖器疾患は、そもそもの発生率が低いです。
病気の予防という面では、犬よりも重要度が低いですが、猫は「望まれない繁殖」「発情関連の行動」が問題となる場合が多いため、これらを抑制することが猫の避妊・去勢の主な目的であると考えていただいてもいいでしょう。
猫の避妊・去勢のデメリット
太りやすくなる
代謝の低下、食欲の亢進によって太りやすくなります。避妊・去勢によって、すべての猫が太るわけではありません。食事に気をつければ、太らせないようにすることは可能です。
身体への負担、リスク
全身麻酔下の手術となりますので、身体への多少の負担があります。身体への負担は一般的に想像されているよりは小さく、翌日には普段通りの状態に戻っていることが多いです。
手術リスクは低いですがゼロではありません。安全に配慮した病院で慎重に手術を行えばリスクは低いと考えていただいていいでしょう。
費用
手術費用が掛かります。費用は病院によって異なります。避妊・去勢を行わない場合の問題
屋外飼育の場合
猫が家の外に出る場合は、避妊・去勢は必須です。避妊・去勢を行わないと以下のような問題が生じてきます。- 雌猫の妊娠・出産 未避妊猫は必ず妊娠します。
- 怪我・事故・感染症 交尾や縄張り争いによる怪我・事故・感染症(猫エイズウイルス、猫白血病ウイルス)のリスクがあります。
- 近所迷惑 雌猫の鳴き声、雄猫のケンカなどが近所迷惑となります。
愛猫は家の外に出さないのがベストですが、外に出す場合は最低限、避妊・去勢を行いましょう。
一般的に、去勢された雄猫は徘徊やケンカをしなくなり、穏やかに過ごすようになることが多いです。
ケンカを繰り返していると高確率で猫エイズウイルスに感染し、寿命も短くなります。猫自身の健康のためにも去勢を行っていただいたほうがいいでしょう。
屋内飼育の場合
屋内単頭飼育であれば繁殖の心配はありませんが、以下のような問題が生じてきます。- 雌猫の鳴き声 未避妊の雌猫は、数週間の周期で頻繁に発情を繰り返します。
- 雄猫の尿スプレー+鳴き声 未去勢の雄猫において、尿スプレー(マーキング)行動がよくみられます。また、外の野良猫に反応して大声で鳴く行動もみられます。
発情中は大声で鳴くことが多いため、飼い主さんや近所の方のストレスとなります。また、発情は猫自身にとってもストレスとなります。
未避妊・未去勢の状態が猫にとって良いのかというと、そういうわけではありません。発情は猫自身にとってもストレスとなります。
避妊・去勢を行っていただいたほうが穏やかに暮らしていくことができるでしょう。
避妊・去勢を行う時期
筆者の病院では5~6カ月齢以降で早めの手術をお勧めしています。
この時期を過ぎると手術ができなくなるというわけではありません。必要な状況になった時点で手術を行うことももちろん可能です。
一般的な時期
避妊・去勢を行う時期としては、6カ月齢以降を推奨している病院が多いです。2〜4カ月齢頃にワクチンを複数回接種し、その後に手術を行うのが一般的です。早い時期を推奨している病院もある
一方で、もっと早い時期(2〜3カ月齢)の手術を推奨している病院もあります。「雄猫を早い時期に去勢すると尿道が細くなる」という説がありますが、はっきりとした医学的な裏付けはないようです。
早い時期に去勢を行っても問題はないものと思われますが、かといって特別な事情がなければあえて早く行う必要性もないでしょう。
避妊手術におけるリスク低減研究結果
「1歳齢以下(特に6カ月齢以下)で卵巣と子宮を摘出すると将来的に乳腺腫瘍になる確率が低下する」という研究結果があります。卵巣のみの摘出に関しては、研究結果がないため効果は不明です。同様の効果があるかもしれませんし、ないかもしれません。
避妊・去勢手術の流れ
術前検査
麻酔や手術を安全に行えるかどうかの確認のために、各種検査(血液検査、X線検査、心電図検査、凝固系検査、尿検査、超音波検査など)を必要に応じて行います。去勢手術の流れ
去勢手術では、皮膚を切開し、精巣を摘出します。術後は日帰りまたは入院となります。抜糸は不要です。避妊手術の流れ
避妊手術では、皮膚と腹筋を切開し、卵巣(+子宮)を摘出します。術後は日帰りまたは入院となります。後日の抜糸が必要な場合があります。退院後の管理
エリザベスカラーまたは服によって術創の保護を行う場合があります。内服薬(抗菌薬、鎮痛薬など)を処方される場合があります。参考
術前検査や手術法は病院によって異なります。参考までに、筆者の病院では以下のような方法で行っています。- 術前検査:血液検査のみ
- 去勢手術:日帰り
- 避妊手術:卵巣子宮摘出、1泊入院、抜糸なし
- 退院後の管理:術創保護なし、内服薬なし
病院による違いについて
猫の避妊・去勢はほぼすべての病院で行われていますが、病院によって以下のような点が異なります。
- 術前検査
- 卵巣のみ摘出か、卵巣子宮摘出か
- 手術法
- 麻酔
- 入院の有無
- 内服薬の有無
- 手術費用
術前検査
まったく検査を行わない病院もありますし、多くの検査を行う病院もあります。基本的に、避妊・去勢は若くて健康な猫に対する手術ですので、検査を行わなくても問題が生じる確率は低いです。ただ、確率が低いとはいえ一定の割合で病気が存在することも事実です。
家での様子で気になること(元気や食欲がない、水をよく飲む、呼吸が荒いなど)があるようでしたら、些細なことでも必ず獣医師に伝えるようにしましょう。
卵巣のみ摘出か、卵巣子宮摘出か
避妊手術の術式として「卵巣摘出を行う病院」と「卵巣子宮摘出」を行う病院があります。避妊手術においては、卵巣を確実に摘出することが最も重要です。卵巣がなければ卵子やホルモンが産生されませんので、妊娠や発情行動は生じなくなります。また、ホルモンが産生されなければ子宮の病気はほぼ生じません。
卵巣のみ摘出のメリットとしては「手術時間の短縮」「皮膚切開の短かさ」などが挙げられます。
一方で、すでに述べた通り、乳腺腫瘍を確実に予防するためには1歳齢以下で卵巣と子宮を摘出することが望ましいです。そのため、乳腺腫瘍の予防を最優先にする場合は、子宮も摘出してもらったほうがいいでしょう。
手術法
特殊な手術法として「結紮糸を使用しない手術」「腹腔鏡による手術」があります。<結紮糸を使用しない手術>
結紮糸は異物であり、炎症を引き起こす可能性があるため、使用しないで済むのであればそれに越したことはありません。ただし、猫では結紮糸に起因する炎症は極めてまれですので、糸の種類を気をつけて選べば問題が生じる可能性は低いといえます。
<腹腔鏡による手術>
腹腔鏡は、傷口の小ささや痛みの軽減が期待できる優れた手術法です。大型犬ではメリットが大きいと思われますが、猫の場合は大きなメリットはないかもしれません。
特殊手術法のデメリット
上記の手術法のデメリットとしては、費用が高くなるということが挙げられます(特に腹腔鏡)。通常の手術法でもまったく問題はありませんが、上記メリットを優先したいという方は、実施可能な病院を調べて相談していただくといいでしょう。
麻酔
麻酔法は病院によって異なります。鎮痛薬や輸液を使用するのが望ましいことは間違いありませんが、具体的にどの麻酔法が最も良いという決まりはありません。各病院で慣れた方法で行うのが安全といえます。
入院の有無
避妊・去勢ともに日帰りで行うことも可能ですが、多くの病院は1泊入院で行っているのではないかと思います。どちらが正しいということはありません。内服薬の有無
内服薬(特に抗菌薬)を処方する病院と処方しない病院があります。筆者は不要と考えておりますが、感染予防のために処方することが間違いというわけではありません。
手術費用
病院によって手術費用は異なります。平均的には、総額(術前検査、入院費など込み)で去勢が2万円程度、避妊が3万円程度だと思われます。「術前検査」「手術法」「麻酔法」「入院の有無」など、さまざまな要因が関連してきますので、安ければいいというわけではありません。
費用だけではなく信頼できる病院かどうかを重視して選んでいただくといいでしょう。
まとめ
愛猫には避妊・去勢手術をしましょう
避妊・去勢時期は6カ月齢以降を推奨している病院が多い
手術の方法や費用は動物病院によって異なります
信頼できる動物病院を見つけましょう
猫の避妊・去勢は、猫のためにも、なるべく早い時期に行っていただくことをお勧めします。
手術に際しては「安全に」「安く」という希望があるかもしれませんが、病院によって方針はさまざまです。飼い主さんの考えに合った病院を選んで相談しましょう。