【獣医師解説】犬のフィラリア症の原因や症状は?予防薬の投薬時期や検査・治療方法など
犬と暮らす上で重要なフィラリア予防。フィラリアは死に至ることもある怖い病気のため、知っている方も知らない方も改めて病気の症状や治療、予防方法を知っておく必要があります。今回はバンブーペットクリニック院長の藤間が、犬のフィラリア症について解説します。
犬のフィラリア症とは
フィラリアとは「犬糸状虫(いぬしじょうちゅう)」とも呼ばれる、犬の心臓に寄生する寄生虫(線虫)のことです。
感染した犬は無症状の場合もありますが、慢性的に心不全と同じような症状がみられたり、血尿や呼吸困難など急性症状が現れ死に至るケースもある恐ろしい病気です。
地域にもよりますが、蚊の発生する時期には最も注意が必要です。
感染経路
蚊がフィラリアに感染した犬を吸血することで、蚊の体内にフィラリアの赤ちゃんである「ミクロフィラリア」が取り込まれます。ミクロフィラリアは蚊の体内で成長し、1カ月ほどで幼虫となり、蚊が他の犬を吸血した際に感染します。
幼虫は全身の筋肉や脂肪のすき間などで成長し(2カ月ほど)、静脈を通って最終的に右心房、肺動脈へと行き着きます。
そして成虫はミクロフィラリア(幼虫)を産み、全身の血管を流れ、蚊に吸血されてまた別の犬へと移動していくわけです。
参照:久米清治、黒川和雄(1960)「犬の糸状虫および糸状虫症」『日獣会誌』13, pp.7-11
フィラリア症にかかりやすい犬種・年代
すべての犬種、年代においてフィラリア症に感染する可能性があり、室内飼育よりも室外飼育の犬の方が感染リスクが4〜5倍になるというデータがあります。犬のフィラリア症の症状
犬のフィラリアの初期症状
フィラリアの成虫が心臓に寄生した場合、寄生した数によって異なりますが、初期はほとんどが無症状です。寄生から数年経って、症状が出てくる場合が多いです。まず、最初のシグナルとして現れるのは「慢性的な咳」「元気がない」「散歩を嫌がる」です。
フィラリアは心臓と肺動脈に寄生するので、心不全と同じような症状が現れます。
犬のフィラリアの末期症状
初期症状を放置していると、「食欲不振」「多臓器不全」「腹水(お腹に水が溜まる)」「末梢の浮腫(むくみ)」など、重篤な症状となっていきます。また、成虫が本来の寄生場所から後大静脈へと移動すると「大静脈症候群」といわれる急性症状が現れることもあります。
この場合「血尿(赤色尿)」「元気消失」「呼吸困難」などがみられ、適切な処置が遅れると、数時間から数日で死に至る恐れがあります。
人や猫への犬のフィラリア症の感染リスク
犬を最終宿主としていますが、実は蚊に刺された時に人や猫にも感染します。でも心配する必要はありません。
人ではほとんどの場合、侵入してきた幼虫は成虫になることなく死にます。しかし、最近では猫への感染も無視できないようになってきました。
極まれに、猫でも成虫まで成長し、心臓に寄生する例があるようです。感染が確認された猫のうち、約4割は完全室内飼いだったという報告もあり、突然死の原因となっています。
正しい知識を持ち、決まられた期間しっかりと投薬をしていれば、ぼぼ100%予防できる病気です。
犬のフィラリア症の予防方法
予防薬を投与する
「フィラリア予防薬は月に1回やるもの」という認識はあるかと思いますが「投薬から1カ月間フィラリアに感染しない」と勘違いしている方が多いように思います。予防薬は成虫にはほとんど効果がありません。先述したとおり予防薬を投与したとしても蚊に刺されることで幼虫が体に入ってきます。
その幼虫は約2カ月ほどで成虫になるため、成長する前に駆除するのが、予防薬の役目です。
投薬頻度や時期
簡単に言うと、蚊が出はじめてから1カ月後に投薬を開始するというのが原則です。例えば東京では4月から11月が蚊の活動時期です。そのため、4月に感染した幼虫は5月にまとめて退治すればいいのです。
6月まで遅らせると、成虫になっている可能性があるので遅すぎます。また、12月にはもう蚊を見ないからと投薬をやめるのもNGです。
11月に投薬しても、その後に蚊に刺された場合、感染している可能性があります。12月に飲ませて終了というのが正しい予防の仕方です。
地域・気候よって蚊の活動期間は異なるため、獣医師とよく相談して投薬期間を決めてください。
犬のフィラリア症の予防薬の種類
最近では選択の幅が広がり、以下のようなさまざまなタイプの予防薬があります。
- 錠剤タイプ
- チュアブルタイプ
- 滴下タイプ
- 注射タイプ
上記予防薬タイプにもノミ・ダニも一緒に駆除したり、1年間効果が持続したりするものもあり、ライフスタイルに合わせて選択することが可能です。
金額は病院や体重によって異なりますが、ノミ・ダニ予防と合わせても月に数千円です。簡単に予防できる病気で、愛するペットを苦しませぬようにしましょう。
犬のフィラリア症検査の必要性
フィラリアが寄生していると知らずに予防薬を投与すると、ショックを起こす場合があるため、毎年、フィラリア予防薬を処方する前に、フィラリアに感染していないか検査する必要があります。
成虫の産んだミクロフィラリアが血管に多量にいる時に、予防薬で殺すと死骸に対してアレルギー症状を起こす場合があるのです。
「毎年、きちんと飲ませているから検査は必要ないのでは?」という声もありますが「飲み忘れ」や「飲ませたつもりが吐き出していた」「正しい期間飲ませていなかった」ということもありますので、検査は必要です。
また、根本的な理由としてフィラリア予防薬は「要指示薬」に指定されていて、処方には「獣医師の診断(=検査)」が必要です。
獣医師の判断には、命を預かる責任が伴うので「きちんと飲ませた」という情報だけで、薬を処方することはできません。
犬のフィラリア症の検査・診断方法
レントゲン検査
心臓の中に原虫がいるかを確認します。所要時間は10〜15分ほどです。超音波検査
こちらも超音波を当てることで、心臓の中に原虫がいるか確認します。抗原検査(血液検査)
薬を処方する時に行う検査で、早期発見が望めます。所要時間は5分ほどです。犬のフィラリア症の治療法
治療法は症状によって変わってきます。どれも一長一短で選択が難しいですが、要は予防をしっかり行ってフィラリアに感染させないということが大切であることを念頭に置きましょう。
温存療法
比較的症状が軽い場合は、既に寄生している成虫の数より増えないよう通常の予防を行い、成虫が寿命(約5年)で死んでいくのを待つ「温存療法」を行います。しかし前述した通り、フィラリア陽性の犬に、ミクロフィラリアを退治する薬を投与するのは危険です。そこで、あとから入ってきた幼虫のみをやっつけるマイルドな予防薬を通常の期間だけ毎年投与します。
短期的にはリスクの少ない治療法ですが、フィラリアが心臓に寄生し続けているので、心臓へのダメージは少なからずあり、いつ大静脈症候群が発症するかもわからないので、爆弾をかかえたまま過ごすこととなります。
予防薬を一年中投与
もう少し積極的な治療は、成虫にも多少影響がある予防薬を成虫が死ぬまで一年中投与する方法です。そうすることで成虫の寿命を2〜3年に縮めることができます。抗生剤を使ってミクロフィラリアの数を減らし、アレルギーの可能性を下げてから予防薬を投与します。
ヒ素の投与
成虫を直ちに駆除する薬(ヒ素)もありますが、体への負担が大きく、一気に大量の成虫が死ぬことで、血管がつまる恐れがあるので、あまりおすすめできません。大静脈症候群を発症した場合
悠長にフィラリアの寿命を待ってはいられないので、外科的に除去する(外科的成虫吊り出し術)ことになります。首の血管から細長い鉗子を入れ、フィラリアを心臓から盲目的に取り出します。これは麻酔下での処置になりますので、具合が悪い子に麻酔をかけるリスク、心臓に器具を挿入するリスクを伴います。
犬のフィラリア症は予防ケアが大切!
フィラリアとは「犬糸状虫」とも呼ばれる寄生虫のことです
フィラリアは蚊を媒介して犬に寄生します
感染した犬は無症状なケースや急性症状が現れ死に至るケースもあります
予防をしっかり行い、フィラリアに感染させないということが大切です
たまたま「感染しなかった」のではなく、地域の方たちがしっかりと予防を行ってくれていたおかげでフィラリアをもった蚊に刺されずに済んだのです。
月に一度、とても簡単な予防を怠ったがために愛犬を苦しませることにならないようにしましょう。
また、フィラリア陽性犬にしてしまうということは、愛犬を苦しめるだけでなく、蚊を介してフィラリアをまき散らす存在にしてしまうということだとも理解しておいていただければと思います。