日本にも「ティアハイム」を 京都動物愛護センターが目指す殺処分ゼロの考え方とは(後編)

日本にも「ティアハイム」を 京都動物愛護センターが目指す殺処分ゼロの考え方とは(後編)

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京都動物愛護センターは、2015年に誕生した日本で初めて都道府県(京都府)と政令都市(京都市)が共同で設置・運営する動物愛護施設です。同センターでは行政と獣医師会がタッグを組み、動物愛護の普及啓発などに取り組んでいます。前編では、太田 眞一センター長に譲渡・殺処分の現状やセンターの取り組み・課題についてお話しを伺いました。後編では、京都市獣医師会 会長の森 尚志先生にお話を伺います。

京都動物愛護センター

ハワイのヒューマンソサエティーをモデルに

大久保: よろしくお願いいたします。まず、京都動物愛護センターはどういったコンセプトでつくられたのでしょうか。

森: ハワイの動物愛護協会であるヒューマンソサエティーをモデルに、一般市民の方にボランティアになっていただき、運営することをコンセプトにしています。実際に、多くの方にお手伝いをいただいています。

ハワイのヒューマンソサエティーf

ハワイの動物愛護センターでもある、ヒューマンソサエティー


大久保: 動物愛護に関して問題意識を持ち、何か手伝いたいと思う方が多くいる中で、こうした環境ができただけでも大きな一歩ですよね。実際、本センターのように行政と獣医師会がタッグを組んで実現したケースは珍しいと思いますが、行政の取り組みはどのような状況なのでしょうか。

森: 率直に申し上げて、今まで行政は動物愛護に関して見て見ぬふりをしていたと思います。しかし、2013年に動物愛護管理法が改正されたことにより行政の意識が変わり、「安楽死をさせない」「殺処分ゼロ」といった命の大切さを考えることに重きを置くようになりました。行政が動物愛護を引っ張るようになっている傾向があります。

大久保: そうなんですね。京都動物愛護センターは公園の中にある珍しいセンターだと思いますが、それも行政との連携によるところが大きいのでしょうか?

森: はい。本センターは上鳥羽公園(京都市南区)の中にあります。愛護センターは保健福祉局の管轄のため、通常は公園の中につくることはあり得ません。しかし、京都市と京都府が二重行政を解消したため、二つあった管理センターを廃止・統合し、京都動物愛護センターとして再スタートしました。その中で京都市獣医師会も連携し、夜間動物救急センターをつくるという、「行政」と「獣医師会」のタッグとしても日本で初めての愛護センターとなりました。

大久保:他県の行政の方々も見学に来られるようですが、行政と獣医師会の連携する事例はあまり多くないのでしょうか?

森: 行政と獣医師会の連携はうまくいってそうで、うまくいっていないところが多いですね。その辺りがもっと円滑になれば、本センターのように資金のかかる施設も運営していくことが可能だと思います。

大久保: 日本には多くの獣医師会が存在していますが、どのような活動をされているのでしょうか?

森: 獣医師会は、戦後、マッカーサーが軍馬や農耕馬などの狂犬病予防の仕事を分け与えることからスタートしたと言われています。狂犬病予防の利権問題を獣医師会をつくって分配したのです。現在は狂犬病予防だけでなく、ペットの健康を推進することが主な活動内容です。

大久保: 実際、どの獣医師さんも加入されているのでしょうか?

森: 京都の獣医師は90%ほどが加入していますが、東京は30%ほどと少ないのが現状です。地域性も左右しますね。例えば政令指定都市は大動物や畜産が少なく、都会と地方で考え方が違います。また獣医師そのものの社会的な役割が見えなくなっているため、獣医師会に入るメリットが見つからなくなっているのも事実だと思います。

大久保: これから獣医師会はどのようになっていくべきだと思いますか?

森: 行政と連携を取らないと、環境は変わらないと思っています。動物愛護のトレンドができつつあることによって、公益性をどうやって出していくかがこれからの獣医師の役割になってきています。そのため、今が変わり目なのではないかと思っています。



人がペットと暮らすことで健康になる社会づくりを

大久保: 続いて、動物愛護に関して伺います。実際、京都の動物愛護は変わりつつありますか?

森: 2013年に動物愛護管理法が改正されて保健所が引き取りを拒否できるようになったため、捨てたい人が来ても、まずはきちんと説得するようにしています。飼うことの責任を考えるきっかけが増えていることは大きな前進だと考えています。

大久保: 実際、私も生後5カ月のコーギーの保護犬を引き取り飼っていますが、ペットショップにいる子たちと何も変わらず暮らしています。

森: そうですね。保護されても劣悪な環境で収容されているワンちゃんもいます。しかし、きちんとケアすれば健康でペットショップにいる子たちと何も変わりません。ただ社会性が無かったり、噛み付き癖があったり老犬が多いのも事実です。それでも諦めずにしつけをすれば良い子に育ちます。もっともっと多くの方々に現状を知っていただきたいですね。

大久保: 保健所には年間15万匹の犬が収容され、譲渡は20%とまだまだ低いのが現状です。今後、譲渡を促進するにはどのような取り組みが必要だと考えますか?

森: まずは、保護の現状を多くの方に知っていただくこと。そして、最適なマッチングをする必要性があると考えています。その次に、物理的な問題もあります。地方の自治体同士で連携ができていないため、インターネットを通した情報共有が必要になってくると思います。

大久保: なるほど。実際、地方に行けば行くほど収容や殺処分の数は多いと思います。

森: はい。例えば本センターに地方にいる子たちを連れてくることができるなら、すぐに新しい飼い主は見つかると思います。ハードとソフトの両面から課題を解決する必要があると思います。

大久保: 実際、京都では動物愛護の促進は見られるのでしょうか?

森: そうですね。まず保護犬や保護猫に対する市民の方々の考えが良い方向に向かっていると感じています。例えば先日、私自身がイングリッシュコッカーの子を引き取ったのですが、初めは外に出ることを怖がっていました。すると近所の方々がこの子に注目するんです。「どうしたの?」って。それで、保護犬なんですと言うと、みんなが大事に想ってくれるんですよね。

次第に毎日会っていくうちに慣れてきて、しっぽを振るようになると、良かった良かったと言ってくれるんです。誰もが動物愛護の想いを持っていることは確かで、それを知ること、アクションを起こす窓口をつくることが大切だと思っています。

大久保: 素晴らしいですね。現在、収容犬の数は微減傾向にありますが、京都動物愛護センターのようなシェルターから引き取ることが当たり前になる文化ができれば、飼う人も増えてくるのではと思っています。

森: そうですね。統計調査で、動物が好きという方が75%、実際に飼っている方が30%というデータがあります。このように、飼いたいけど何かしらの理由で飼えない方が45%も存在しているんです。その阻害要因は、ハードもソフトもあると思っています。住宅環境のハード面はもちろん、気軽に専門家に相談できるなどのソフト面の充実も必要です。そのためにも、もっと人とペットが触れ合う機会をつくらないといけません。それこそ、獣医師会が取り組むべきことだと思っています。

大久保: アニマルセラピーが話題になっていますが、人はペットと一緒に過ごすことで健康になることが実証されていますね。

森: そうなんです。高齢者の方でペットを飼っている方と飼っていない方では、健康寿命が明らかに違うことが医学的に実証されています。犬を飼うと散歩に行く機会が多くなるので、社交的になり、運動機能も向上するため、健康が促進されていくんですよね。これからの日本社会にペットがもたらす力は大きいと思います。これからも行政と連携を取りながら、人と動物が共生できる街づくりに取り組んでいきたいと思います。

ITが変える獣医療の未来

大久保: 話が変わりますが、医療の分野はITの力で格段と進歩しています。人間においても、昨年厚生労働省が遠隔診断の解禁を発表し、インターネット診断などが可能になっています。獣医療においても、飼育環境の変化やペットの高齢化により、インターネットでの診断需要が高くなりつつあるのではと思っています。実際、ペトことの相談窓口にも多くの飼い主さんが相談してきており、とくに猫の飼い主さんからの相談が8割となっています。

森: アメリカではインターネット診断が進んでいますが、まだ日本では獣医師法が対面での診察を診断と呼ぶようにしています。ただ、どんどん市場環境は変わっているため、新しいサービスが法律や固定概念を変えるのではないかと思っています。

大久保: 実際に、インターネットで診断は可能だと思われますか?

 やはり人間と違い動物は言葉を発しませんから、非常に難しいことであるのは確かです。例えば、飼い主さんが吐いていると連絡をしてきても、実際に見ると咳だということが多々あります。ですので、電話での対応はまず難しいですね。ただ、写真や動画、テレビ電話であれば信頼性が高くなりますし、病気の断定までは難しいでしょうが、一種の相談ツールとしては非常に健康管理の促進につながると思います。

大久保 ありがとうございました!

男性二人