【獣医師執筆】犬がいびきをかく原因や対処法は?考えられる病気や改善方法を解説
犬のいびきは鼻の短いブルドッグやパグなどの短頭種や、肥満犬で睡眠時に聞くことができる「異常呼吸音」です。いびきは上気道(鼻、咽頭)という部分が狭くなることで「グーグー」という音が発現します。ではいびきはすべて異常なのでしょうか? ときどき、いびきをする程度の犬もいれば、睡眠時無呼吸症候群のように呼吸が止まってしまう犬もいます。いびきの程度はさまざまですから「どれくらい悪いのか(重症度)」も合わせて考えてみましょう。今回は犬のいびきについて解説します。
犬のいびきのメカニズム
いびきには犬種や体形などにより、音質・大きさなど個体差があります。原因は空気の通り道である上気道(鼻・咽頭)が狭くなることで起こります。
狭窄(きょうさく:間がすぼまって狭くなっていること)した空気の通り道を通過する際に粘膜が震えることで「グーグー」という音が発現します。
さらに、生まれつき鼻の穴が小さい(外鼻孔狭窄)(図1)、軟口蓋(喉の奥の柔らかい組織)が長く厚いと(図2)、気道の抵抗が上がることでさらに空気の通り道が狭くなりいびきが起こりやすくなります。
図1:鼻の穴が狭くなっているケース
いびきをする犬は普段から鼻を「グーグー」と音をさせることがあります。これを「いびき様呼吸音」といいます。
鼻の中に異物が入ったり、鼻の中で炎症や腫瘤ができたときにも同じような呼吸音をすることがあるため、注意して聞いてみてください(この場合はクシャミや鼻水が同時に見られることが多いです)。
犬のいびきの原因
犬のいびきの考えられる原因としては大きく以下の4つが挙げられます。
- 短頭種や肥満
- 高齢である
- 鼻や喉の炎症、鼻の中の異物混入
- 高温多湿な環境
短頭種や肥満
前述した短頭種や肥満犬ではこの上気道が狭くなるため、よりいびきが出やすくなります。短頭種とはブルドッグ(イングリッシュ・ブルドッグ、フレンチブルドッグ、ブル・テリア)、ペキニーズ、パグ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、シーズー、マルチーズなどさまざまな犬種が短頭種に分類されています(※1)。
高齢である
年齢もいびきには関連してきます。過去にブルドッグにおいて睡眠時無呼吸症候群の研究が行われました(※1)。生後16週までに寝ている間に呼吸障害を起こしており、4歳を超えるとより多くのブルドッグで症状が見られ、8歳を超えると深刻な呼吸状態の悪化などが確認されています。
高齢になるほど呼吸状態の悪化が見られることから、早期にいびきの存在を把握しておく必要があると考えられます。
鼻や喉の炎症、鼻の中の異物混入
鼻や喉の炎症でも起こることがあります。「鼻水が多い」「クシャミをよくする」「急にいびきをするようになった(散歩のあと、嘔吐したあとから)」などのエピソードがありましたらご注意ください。高温多湿な環境
6月7月は高温多湿となるためよりいびきが出やすくなります。できれば体温計をご自宅に準備しておき、時折体温を測定するなど熱中症を起こしていないか確認することもおすすめします。呼吸回数が多くなり(1分間に40回を超えるような場合)、体温が39.5度を超えるようであればすぐに体を冷やし、動物病院へご連絡ください。
※1参考:Lesley G.K(2007):Textbook of respiratory disease in dogs and cats,p372-381,株式会社インターズー 東京
元気だけど犬がいびきをかく場合の理由
「起きているときは元気だけど、寝るといびきがうるさい」ということもあるかと思います。その場合は病気である可能性と病気ではない可能性がどちらもあるので動物病院での診療をおすすめします。
幼齢期からずっとそうであるという場合は病気の可能性は低いですが、加齢に伴いいびきが増えた場合は注意が必要です。
いずれにせよ「いびきがうるさい」状態になってしまうと身体に負担をかけていますので獣医師に相談するに越したことはないでしょう。
犬のいびきの重症度
いびきが見られる犬では「どれくらい悪いのか」を考える必要があり、スコアを0から4で分けることができます(※2)。
スコア | 呼吸器症状 |
---|---|
0 | 短頭種気道症候群に関連する臨床症状はなし |
1 | 間欠的あるいは軽度のいびき、たまにみられる軽度の吸気努力 |
2 | 中程度のいびき、吸気努力、軽度の呼吸促迫、軽度から中等度の運動・ストレス・暑さに対する不耐性 |
3 | 絶え間ないいびき、絶え間ない呼吸促進および呼吸努力、絶え間ないストレス、運動および暑さに対する不耐性 |
4 | チアノーゼ(血液の中の酸素が欠乏して、皮膚や粘膜が青黒くなること)、苦しそうな呼吸、呼吸停止 |
※いびきや吸気努力、運動不耐性により判断する。チアノーゼや失神がみられる症例では要注意
※複数の症状を呈している場合は最も悪い症状をスコアとする
※2参考:Dunie-Merigot.A, Bouvy.B, Poncet.C(2010):Comparative use of CO2 laser,diode laser and monopolar electrocautery for resection of soft palate in dogs with brachycephalic airway obstructive syndrome.Vet.Rec.167:700-704.
- スコア0:症状なし
- スコア1:軽度のいびきや時折努力呼吸を示します
- スコア2:中程度のいびき、息が苦しそう、運動や暑さなどのストレスに対して症状がみられるようになります
- スコア3:絶え間ないいびき、呼吸が苦しそう、運動が嫌いになります
- スコア4:チアノーゼ(舌や歯ぐきの色が紫色になる)を起こし、呼吸停止を引き起こします
いびきがみられる場合は、どの程度悪いのかを把握しておくことが非常に重要であり、スコアが2を超える場合はかかりつけの動物病院でご相談いただきたいと思います。
また、肥満がある場合、症状がより悪化してくる可能性があり、長期でみると徐々に症状が進行してきますので体重管理も合わせて行いましょう。
参考に「症状の重症度3」の子のいびきをみてみましょう。もしこちらのいびきに心当たりがあったり、愛犬が似たようないびきをかいていた場合は動物病院での受診をおすすめします。
参考:いびきの重症度:スコア3
2018年には体重を20%落とすことで呼吸状態が改善した報告があります(※3)。
ダイエットは簡単ではありませんが「いびきが大きい」「睡眠時無呼吸症候群が見られる」などのケースでは動物病院に相談して、食事による治療も合わせて行うように心がけましょう。
※3参考:Pereira-Neto GB, Brunetto MA, Oba PM, Champion T, Villaverde C, Vendramini THA, Balieiro JCC, Carciofi AC, Camacho AA.Weight loss improves arterial blood gases and respiratory parameters in obese dogs.J Anim Physiol Anim Nutr (Berl). 2018 Dec;102(6):1743-1748.
犬のいびきの治療
治療は適正体重の維持や手術(※4,5)などさまざまです。炎症を抑えるお薬を使うこともあります。適正体重を超えると喉や首回りの脂肪量が多くなるため気道がさらに狭くなります。
もし、肥満が見られる場合はダイエットも治療一環となり非常に大きな効果が期待できます。手術による治療は鼻の穴を大きくし、喉の奥の軟口蓋を短くするなどにより気道を広げてあげることが目的となります。
いびき音が小さくなったり、いびき自体が消失してくれる効果が期待できますが、スコアが高い犬では治療が困難になることがありますので早めに動物病院にご相談ください。
※4参考:Riecks TW, Birchard SJ, Stephens JA.(2007):Surgical correction of brachycephalic syndrome in dogs: 62 cases (1991-2004).J Am Vet Med Assoc. May 1;230(9):1324-8.
※5参考:Worth DB, Grimes JA, Jiménez DA, Koenig A, Schmiedt CW(2018):Risk factors for temporary tracheostomy tube placement following surgery to alleviate signs of brachycephalic obstructive airway syndrome in dogs.J Am Vet Med Assoc. Nov 1;253(9):1158-1163.
犬が肥満でいびきをかく場合はダイエット
犬が肥満の場合は、散歩などの回数を増やし、運動量を増やすか、カロリーの管理、どちらも重要です。よくフード自体が肥満の原因だと思われる方も多いですが、おやつの食べ過ぎであったり、個体差があるため、最適なカロリーでない可能性があります。私たちペトコトが自信を持ってお届けするのがペトコトフーズのフレッシュドッグフードです。
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愛犬のいびきが気になったら病院へ
いびきはよく見られますが、「当たり前」な呼吸音ではありません。「いびきの音が大きい」「頻繁にいびきをする」「睡眠時無呼吸症候群が見られる」などの場合は早めに動物病院にご相談ください。
参考文献
- Lesley G.K(2007):Textbook of respiratory disease in dogs and cats,p372-381,株式会社インターズー 東京
- Dunie-Merigot.A, Bouvy.B, Poncet.C(2010):Comparative use of CO2 laser,diode laser and monopolar electrocautery for resection of soft palate in dogs with brachycephalic airway obstructive syndrome.Vet.Rec.167:700-704.
- Pereira-Neto GB, Brunetto MA, Oba PM, Champion T, Villaverde C, Vendramini THA, Balieiro JCC, Carciofi AC, Camacho AA.Weight loss improves arterial blood gases and respiratory parameters in obese dogs.J Anim Physiol Anim Nutr (Berl). 2018 Dec;102(6):1743-1748.
- Riecks TW, Birchard SJ, Stephens JA.(2007):Surgical correction of brachycephalic syndrome in dogs: 62 cases (1991-2004).J Am Vet Med Assoc. May 1;230(9):1324-8.
- Worth DB, Grimes JA, Jiménez DA, Koenig A, Schmiedt CW(2018):Risk factors for temporary tracheostomy tube placement following surgery to alleviate signs of brachycephalic obstructive airway syndrome in dogs.J Am Vet Med Assoc. Nov 1;253(9):1158-1163.