災害時は「ペットどころではない」 過去の災害から学ぶ、飼い主ができる備えとは

ペットを家族と思うなら、災害からペットを守る対策を――2月に開催された環境省のシンポジウム「人とペットの災害対策」で、過去の震災を教訓として今後の災害から命と暮らしを守ることをテーマに、国崎信江さん(危機管理教育研究所 所長)が講演を行いました。その中から一部を抜粋してお伝えします。


「避難所で」ペットと過ごすことの難しさ――熊本地震のケース

以下、危機管理教育研究所 国崎信江 代表の講演(一部抜粋)

私は熊本地震で、益城(ましき)町の西村博則町長防災アドバイザーへの拝命を受けまして、益城町の腕章を付けて職員の方々と一緒に災害対応を行いました。熊本地震で大きな問題になった避難所の過密化、そして衛生状態などが改善されてくると、「ペットは外に出した方がいいのではないか」という話が出てきました。

益城町の避難所

それまで、飼い主の方の中には、周囲の方に気を使って軒下で犬を飼っていた方などもいらしゃいました。すごく寒い時もありましたし、雨もかなり続いていました。そんな時でも、ペットのために軒下で過ごしていらっしゃったんですね。

「外に出した方がいいのでは」という意見を受けて、ケージを避難所の外に作ってそこで飼養するということがされるようになりました。ところが飼い主さんからすれば、「家でも室内で飼っていて、地震が起きて人間のみならずペットも不安な状態なのに、避難所でいきなり飼い主と離して飼養する」ことにはとても抵抗があるという話がありました。

そこで、ご自身の判断で、車中泊を選んだり、家に戻ったり、家に被害があっても敷地が無事な方はそこにテントを張ったり、などということをして、飼い主の方がペットを連れて避難所を出るケースもみられました。


災害時のペットの問題は、子どもの問題と似ている?

飼い主の方にとってペットは家族同然ですが、私は、災害時に起こるペットの問題はさまざまな被災地で起こる小さい子どもの問題とほぼ同じだと思っています。小さい子どもがぐずって泣いたり、おむつの臭いがしたり。ペットも、鳴いたりにおいがしたりで似た点がありました。あとは、子どもが慣れない避難所で暮らすことによって感じるストレスと、ペットが慣れないケージで暮らすことによって感じるストレスなどにも、通ずる部分があります。

災害時のペットの問題

病院についても同じことがいえます。ペットにおいては、動物病院が被災して、ペットが病気になっても受診できないということがありました。子どもの場合は、病院に内科の先生はいらっしゃるけど、小児科の先生はいらっしゃらないことなどがありました。

そして、赤ちゃんもペットも、普段食べ慣れているものでないと食べないことがありますよね。「我慢してよ」は通じなくて、「嫌なものは嫌」なんです。普段と違う粉ミルクだと、もう受け付けないとか。ペットでも、普段おいしいソフトタイプの缶詰を食べていて、急にドライタイプになったら、食べなくなる可能性はありますよね。

また、人についてはそれぞれ法や専門機関の整備がされていて相談できる環境が整っていますが、ペットについてはなかなかそれができないということがあります。また、赤ちゃんであれば保育園が再開すれば預けられます。でもペットはなかなか預ける先ができず、仕事に行けないという方もいらっしゃいました。


熊本地震は、「ペットどころではない」が本音だった

熊本地震の課題としては、避難所運営の知見が蓄積されていなかったということがありました。風水害に関する対応は準備されていましたが、それまでの風水害ではせいぜい3日もすれば避難所を閉所していたという経験から、避難所の閉所まで半年かかった益城町でも長期にわたる対応を想定した避難所マニュアルは整備されていませんでした。訓練も行われておらず、混乱が起こりました。

人への対応だけでも多くの問題があった中で、行政の方々がとてもペットまで手を回せないという状況がありました。益城町では、避難所の過密状態に対応して避難所を新設したり、環境改善として感染症対策・お風呂などの整備をしたり、洗濯機・乾燥機を設置したりしました。「とにかく関連死を出さない」ということで対策をしました。

熊本地震での課題

それと同時に仮設住宅の検討をしたり、建設準備をしたり。福祉避難所にたくさんの避難者が来ても、福祉士さんが不足していたので、それへの対応をしたり。加えて、罹災(りさい)証明書の発行、物資の運営、学校の再開、県外からの応援要請……。行政職員の方は不眠不休で、食べるのもままならない中で頑張っていらっしゃいました。繰り返しますが、人の対応だけでもするべきことがたくさんあって、「ペットどころではない」というのが正直なところでした。

NGOからのテント支援 問われた「避難所での同居」の是非

そこで、ワンちゃん・ネコちゃんかわいそうとのことで、NGOやNPOがペットの支援の対応に乗り出されました。「飼い主にとってもペットにとっても大事なのは同居」という強い理念・方針から、避難所の敷地内にペットと同居できるテントを設置してくださいました。

「同居がいい」というのは、私も分かります。しかし、「避難所においても同居がよいのか」というのは、私は今でも分かりません。このテントが果たして良かったのか悪かったのか。住民の方に聞くと、「ありがたい」と言っているんです。「自分の好きなペットと一緒にいられる」「こういう支援をしていただけるのはとてもありがたい」「救われた」という声を多く聞きました。

NGOのペット支援

信頼関係が無いと任せるのも難しい

ただ行政からすると、そこで何かあった時は設置を認めた行政の責任になってしまうんですね。人だけでも手一杯な時、その責任まで負えないなど、行政には不安が多くありました。支援をしてくれているNGOやNPOがそもそもどういう組織で、普段からどういうことをしていて、災害時にどういうことをしてくれるのか。それを前もって知って信頼関係を築いていないと、災害が起きた時にすぐ「ハイお願いします」とは言いづらい。熊本地震では、そういった状況がありました。

支援者さまにとっては不快な言葉かもしれませんが、当初は獣臭がしました。動物園かなというくらいの臭いがしました。近くにある遊具で遊びに来た子どもたちも、臭いがきつくてすぐにやめてしまう、ということがありました。その後このNGOの方々は気を使ってシャンプーなどをしてくださいました。ですが、人間に対して仮設風呂が用意されても、ペットにはどうするのか。シャンプーやトイレの始末もそうですが、そういった問題は集めれば集めるほど出てくるのではと思います。

団体の皆さまが、熱い思いや「これが正しいんだ」という思いを持っていらっしゃることもよく分かります。ただ二次災害を予防するという観点からは、行政が初めて来る団体にすべてを任せることはなかなか難しかったという状況がありました。

次々にたくさんの問題が出てくる避難所運営の中で、ペットに対処するのは非常に難しいです。何が正しいのかという判断をするのも、非常に難しいです。だからこそ、事前に対処を考えておく必要があるかと思います。これまでの災害から、ペットに関するさまざまな課題は浮き彫りになっています。そろそろ、「我が自治体ではどう対処すべきなのか」「どういう団体と連携を取るのか」などを考えるべき時期に来ていると思います。



ペットと自分のために、「避難所に行かなくていい」暮らしづくりを

そもそも避難所に行くことを前提にせず、なるべく家で過ごせるようにしておけばペットの問題も軽減できると思います。益城町では、比較的新しい家でも地盤が弱く倒壊した例がありました。地盤や建物の強度なども考えながら、発災後も自宅に継続して住めるように対策しておくことが大切です。

1. 家具固定だけで安心はNG 中身の飛び出し対策までして初めて「安全」

ペットが怪我をすることがないように対策を取っておきましょう。「大きな家具だけ固定しておけばいい」ということはありません。家具は高かろうと低かろうと、重かろうと軽かろうと、固定されてなければ動いてきます。そして動いた結果、ペットや人を襲う凶器になる可能性があります。

そして「固定すれば大丈夫」ではなく、固定すればするほど中身が飛び出しやすくなります。中身の飛び出し防止対策までして初めて「安全な家具」だと言えるんです。これをふまえて、家全体を改めて見直して対策を考えていただきたいです。

2. 居住形態をふまえた防災を マンション上階は要注意

居住形態には戸建てとマンションがあります。もちろん、それぞれ防災対策は異なります。一般的な耐震構造のマンションの場合、階によって揺れ方が異なることも理解しておいてください。階が上がれば上がるほど室内の被害が大きくなる傾向があり、1階に住む方と10階に住む方が行うべき防災対策は同じではありません。マンションに住んでいる場合は、何階で暮らしているかに合わせて対策を取りましょう。

3. 「机の下」を信じすぎないで 固定なしは「凶器」にも

地震が来たらペットを抱いて机の下にもぐればいいと思っている方も、そこが必ずしも安全だとは限らないということを知っていただけたらと思います。「固定されていなければ凶器になりうる」という意味では、机も椅子もあてはまります。もしかしたら、簡単に倒れてペットを襲う凶器になるかもしれません。なぜ四つ足机が安全なのでしょうか? 改めて考えたうえで、対策をしていただきたいと思います。

4. 固定できないものは、やわらかい素材に

人間もそうですが、足を保護する意味で、なかなか固定できないものはなるべくやわらかい素材を選ぶのも一つの手です。我が家では、20年かけて家の中の生活雑貨類をやわらかい素材に変えてきました。掛け時計一つでも、ガラスの破片があります。傘立て一つ、写真立て一つ、それぞれを紙・革・シリコン・ゴムなどとにかくやわらかい素材に変えてきました。飾る楽しみと防災対策は両立できます。

固定できないものへの対策

5. 「普段のものを少し多く用意する」備蓄を

食べ物を備蓄しておくことも大切です。我が家では1カ月分備蓄していますが、少なくとも10日分くらいは用意していただきたいと思います。我が家では、私が20年前に提唱した「災害時用の非常食ではなく、普段食べている食材を少し多く用意し、食べたら補充する」という「家庭内流通備蓄」をしています。

東京都では、私の考えを取り入れていただきまして、日頃から自宅で利用しているものを少し多めに備えて災害時にも対応しようという「都民の備蓄推進プロジェクト」を推奨しています。備蓄を忘れないように、11月19日を備蓄の日(1119=いい備蓄)に制定しています。ペットにおいても、普段からちょっと多めに備えておくことで対処できると思います。

自宅滞留促進

私は、首都直下地震が起きたら、食べるものがないことで亡くなる方がいらっしゃるのではないかと思います。東京は、毎日毎日、全国から新鮮な魚・肉・鶏卵・野菜・果物が250万トン届いています。ところが、それを皆さん享受していますから、気付いていないんです。――23区内には生産者がほとんどいないということに。

そのため、流通がピタッと止まった時に、東京から食べ物が無くなることにあまり気付いていらっしゃいません。これまでの新潟中越地震、東日本大震災、熊本地震のように、「県外から支援が来るまでに地域や近郊の農家が助けてくれた」エリアとは違います。

首都直下地震が起きた時は、人でさえものすごい状況になります。そんな時、どれほどペットへの対応ができるのでしょうか。ペットを家族と思うのであればなおのこと、家族が苦しい思いをすることがないように、ペットを守る対策をしていただきたいと思います。