【神経科担当獣医師解説】犬のてんかん|痙攣の原因・症状・治療法・対処法
突然愛犬が痙攣を起こしたら?その痙攣(けいれん)は「てんかん発作」かもしれません。初めて大きなてんかん発作に遭遇すると、恐怖でパニック状態になってしまうことも少なくありません。てんかん発作後に歩き回ったり、反対にぼーっと歩けなくなったりとてんかん発作後の症状もさまざま。なかには長い痙攣など、命に関わるような場合もありますが、正しく対応できれば元気に普段通りの生活を送れることもあります。急なてんかん発作が起こったときにも慌てずに対応できるよう正しい知識を身につけておきましょう。今回はてんかん発作の種類や、てんかん発作を起こしたときに疑われる原因や対処法について、神経科を担当する獣医師柴田がわかりやすく解説します。
目次
「もっと開く」
犬のてんかん発作(痙攣)とは
発作というと、人の心筋梗塞などで生じる心臓発作や、突然呼吸が苦しくなる喘息発作など、さまざまなものが含まれますが、今回は脳が原因で起こる突発的な発作症状である「てんかん発作」について言及します。
犬のてんかん発作(痙攣)の症状
- 焦点性てんかん発作
- 全般性てんかん発作
- 非痙攣性全般てんかん発作
焦点性てんかん発作
手足が引きつるなどの体の一部にのみ限局して生じる発作です。通常、意識は正常に見られることが多いです。「流涎(りゅうぜん:よだれを垂らす)」「顔面の一部がピクピクする」などの症状が犬では比較的よく見られます。全般性てんかん発作
犬で最も一般的なてんかん発作のタイプです。突然意識を失い、横になり手足を痙攣させる全身性の発作のことを示します。焦点性てんかん発作から始まり、全般性てんかん発作へ移行することもあります。通常意識はなく、飼い主の呼びかけにも正常な反応ができません。
四肢が緊張し強く突っ張ってしまう発作を「強直性発作」といいます。その他、四肢が遊泳するようにリズミカルに動く「間代性発作」、両方が続いて起こる「強直間代性発作」が、一般的な全般性てんかん発作として見られます。
流涎や失禁などの症状が同時に見られることも多いです。多くは2、3分程度で激しい痙攣症状は消失します。
発作が起きる前に、不安そうにソワソワしたり、性格が変化するなどの「前兆」が見られることがあります。また、大きな発作が終息した後も、うろうろ徘徊・歩き回ったり、呼びかけに反応が鈍かったり、ふらつくなどの発作の後遺症が数十分程度続くことがあります。通常このような後遺症は時間とともに完全に消失します。
非痙攣性全般てんかん発作
脳の中では発作が生じているものの、上記のような全身の痙攣を伴なわないものもあります。動物は力が抜けて脱力していたり、一見寝ているだけのように見えることもあります。発作かどうかの区別が非常に難しくなります。犬の「痙攣」と「震え」の違い
このような筋肉の小刻みな動きは、「興奮」や「緊張」「疼痛」「ストレス」「寒さ」などにより生理的に見られることもあれば、てんかん発作以外の脳の病気や筋肉の問題で起こることもあります。
前述の全般性てんかん発作などの大きな痙攣が見られる場合は、判断は容易ですが、激しい痙攣を伴わない場合は、てんかん発作による痙攣とその他の原因で起こる「震え」との判断が難しい場合があります。
生理的な震えの場合は、緊張やストレスがかかる特定の環境下で症状が出やすかったり、一般的に数分で終息するてんかん発作と異なり、比較的持続的に見られることが多いです。
震えに似た症状
震えに似た症状で、突然手足や顔面の筋肉が「ビクッ」となる症状が見られることがあります。これは「ミオクローヌス」と呼ばれる症状で、「しゃっくり(横隔膜のミオクローヌス)」などのように生理的に見られることもあります。繰り返し頻繁に起こる場合は、ミオクロニー発作と呼ばれるてんかん発作の1つである可能性があります。てんかん発作なのか、そうでない別の症状であるのか、見分けることが非常に難しいことも多いです。
はっきりしない場合は、動画などで撮影し主治医や専門医に相談することをお勧めします。また、どのような時にその症状が起こるのかを記録しておくことも良いでしょう。
犬がてんかん発作を起こした場合に考えられる原因・病気
特発性てんかん
正確な原因の特定は難しいことが多く、そのようなてんかんを特発性てんかんと呼ばれます。多くは6歳までに初めててんかん発作を起こし、繰り返し症状が見られます。てんかん発作以外の症状は見られません。発作がない時はいたって正常で、普段通りの生活が可能です。診察室で獣医師が行う神経の評価(神経学的検査)でも異常が全く見られません。
さらに、血液検査やMRI検査などでも異常は見かりません。このように、てんかん発作が見られる以外はすべて正常であり、後述する反応性てんかんや構造性てんかんが除外されたものが「特発性てんかん」と分類されます。
遺伝などの素因が疑われますが、前述した通り正確な原因の特定は困難です。
反応性てんかん
「低血糖」「腎不全」「肝不全」「ミネラルの異常」などで起こります。脳に器質的な異常はないものの、二次的に脳の過剰な興奮が生じ、てんかん発作が起こります。内臓の病気と関連している場合は、てんかん発作以外にも、食欲などの一般状態に異常をきたしていることが多いです。
これらの反応性てんかんは、一般的な血液検査で異常が見つかることが多いため、初めててんかん発作を起こしたときは、血液検査をしっかり行うことが推奨されます。
また、熱中症で高体温になったときや、中毒などでも二次的にてんかん発作が見られることがあります。
構造的てんかん
脳炎や脳腫瘍、脳梗塞、脳出血、頭部外傷など、いわゆる「脳の病気」で発作が起こります。発作以外にも神経の異常(失明、旋回、徘徊などの行動異常、歩様異常など)が見られることが多いです。一般的に、脳腫瘍や脳梗塞、脳出血は高齢の犬での発症が多く、脳炎の場合は比較的若い年齢で発症することが多いとされていますが、さまざまな年齢で発症が知られいます。
一部の犬種では脳腫瘍の罹患率が高い傾向にあり、犬種や年齢によって起こりやすさに違いはあるものの、通常MRI検査や脳脊髄液検査を行って、脳の中を調べることで診断が下ります。
これらを鑑別するために、まずは中毒物摂取歴を確認したり、血液検査により反応性てんかんの除外を行います。必要に応じてMRI検査などを行い、脳に病気がないかを調べることも重要です。
犬がてんかん発作を起こした場合の対処法
飼い主さんができることと注意したいこと
大きな痙攣発作を起こしても、まずは慌てないことが重要です。痙攣発作中、犬は意識がなく周りの状況がわからなくなってしまっています。無理に抑えつけようとすると、噛まれて負傷してしまうこともあります。特に舌を噛まないよう口にものを噛ませることは危険ですのでやってはいけません。
まずは、無理に触らずに、そっと見守ることが必要です。周囲にぶつかって危険なものがある場合は、なるべくどけて犬が怪我をしないようにします。どかせないものは、毛布やクッションでカバーするようにしましょう。
また、通常は2、3分で大きな痙攣は終息します。その後は、しばらく落ち着かない様子が続くこともありますが、優しく声をかけながら見守ることが重要です。
また、痙攣発作なのかどうかわかりづらいこともあります。一瞬で終息してしまう場合は難しいかもしれませんが、携帯電話などの動画で撮影することで判断がしやすくなります。
言葉だけで症状を伝えることは難しい場合でも、動画見せることで診断のヒントが得られることがあります。繰り返し痙攣発作が起こる場合は、発作の頻度や持続時間を記録することも重要です。
また、発作が起こったときに、何かいつもと違うイベントがなかったかどうかも記録しておくとよいでしょう。例えば、「来客後に起こった」「天気が悪いとき(気圧が変化したとき)に起こった」「旅行の帰りに起こった」などの何らかのきっかけがあることもあります。
このような「てんかん発作日記」をつけてもらうことで、発作を未然に防ぎ、発作がひどくならないような対応ができることがあります。
病院を受診した方が良い場合
通常の痙攣発作は、2、3分で終息することが多いです。すぐに終息し、動物の状態が落ち着いている場合は、慌てる必要はありませんが、初めて痙攣発作を起こした場合は、なるべく病院を受診することをお勧めします。特に、次のような場合は早急に病院を受診する必要があります。- 5分以上発作が止まらない(発作重積状態と呼びます)
- 1日に複数回の発作を起こしている(発作群発と呼びます)
- 発作後にボーっとする状態(発作の後遺症)がいつもより長く続いている
このような場合は、脳のダメージを回避するために、すぐに病院で発作を止める必要があります。また、一般的にてんかん発作が長く起こることで治療に対する反応が悪くなることが知られているため、上記のような場合は早めに治療を開始することが推奨されています。病院に受診するか迷った場合は、直接病院に連絡して相談しましょう。
犬のてんかん発作が続くとどうなるのか
特に30分以上大きな痙攣発作が続いてしまうと、脳にダメージが生じ、後遺症が残ることも少なくありません。
また、持続的な痙攣発作により、脳だけではなく、心臓や腎臓、筋肉などにダメージが生じることもあり、痙攣発作は全身に影響する重篤な状態であり、最悪の場合に死に至ることもあると認識する必要があります。
1回のてんかん発作で慌てる必要はありませんが、止まらなくなってしまったときは危険だと認識しましょう。
犬のてんかん発作の治療
薬を開始するタイミングは、痙攣発作の原因や頻度によるため、主治医と相談が必要になります。犬で使用される抗てんかん薬はいくつかの種類があり、動物の年齢や状態、てんかん発作のタイプ、投与方法、投薬費用などによって適切な薬の選択が必要となります。
必ずしも選択肢は1つではありません。また、一般的に抗てんかん薬は生涯にわたって投与することが多いです。定期的な血液検査や血中濃度の測定を行いながら、副作用がないことを確認し適切な投薬を行っていくことが重要です。急な抗てんかん薬の中止は、発作がひどくなることもあるため、毎日忘れずに投与することも重要です。
また、脳の病気が原因の「構造的てんかん」などがある場合は、抗てんかん薬以外の投薬が必要になることがあります。これらを診断し、適切な治療を行うためにはMRI検査などが必要になることがあります。
原因の特定が困難な「特発性てんかん」の場合は、多くの症例で抗てんかん薬により良好に発作がコントロールでき、発作がなければ元気にいつも通りの生活が可能です。
約20〜30%の症例は難治性といって複数の抗てんかん薬が必要になることがあります。発作のコントロールが難しい場合や、特殊な検査・診断が必要な場合は、必要に応じて専門の獣医師の診療を受けることをお勧めします。
犬のてんかん発作は冷静な対応を
そのため、普段から頼りになる主治医を見つけておくことや、治療に困った際には専門医の助言を受けることも重要です。
参考文献
- Berendt M, et al. International Veterinary Epilepsy Task Force consensus report on epilepsy definition, classification and terminology in companion animals. BMC Veterinary Research. 15: 182, 2015.
- De Risio L, et al. International Veterinary Epilepsy Task Force consensus proposal: diagnostic approach to epilepsy in dogs. BMC Veterinary Research. 15: 148, 2015.