犬の捻挫で足をかばっているときは要注意!原因・症状・治療法などを整形外科担当医獣医師が解説
「捻挫」とは一つの病気を示す言葉ではなく、いろいろな整形外科疾患のときに使われる医学用語です。今回は、犬の捻挫について、足をかばうといった症状、検査・診断方法、治療法などをくすの木動物病院院長の藤井ができるだけ分かりやすく説明します。
犬の捻挫とは
犬の捻挫の定義
捻挫の定義は参考文献によって資料によって微妙に定義が異なっていますが、本稿では「骨と骨をつないでいる靭帯のケガ」(※)を捻挫として、お話します。※出典:Handbook of Small Animal Orthopedics and Fracture Repair
犬の靭帯とは
靭帯は骨と骨をつないでいる強力な線維です。コラーゲン線維で構成されていて関節の安定性に関係しています。この靭帯のおかげで関節を構成している骨同士はバラバラにならないで済んでいます。
靭帯は線維と同じ向きの力に対して耐える能力が高いです。しかし、靭帯に急に大きな力がかかったり、ねじれたり、伸ばされ過ぎたりするとケガ、いわゆる損傷の原因になります。
犬の捻挫のグレード分類
靭帯の損傷程度により、捻挫は3つのグレードに分類されます。<グレード1(軽度)>
コラーゲン線維の数本が損傷した状態、患部の出血や腫れは最小限です。靭帯の機能障害はほとんどありません。<グレード2(中度)>
損傷したコラーゲン線維が多く、広範囲な血腫や関節が少しグラグラします。靭帯の機能はまだ残っています。<グレード3(重度)>
靭帯の部分または完全断裂と、靭帯がくっついている骨の剥離骨折を起こしています。靭帯の機能はありません。関節のぐらつきまたは脱臼が認められます。犬の捻挫の症状
痛めた関節の足をかばいながら歩きます。
捻挫が軽度なら接地して歩くか、少しかばう程度です。靭帯損傷が重度なら足は上げっぱなしになります。捻挫を起こした関節は腫れて、触ると痛がります。
捻挫に似た整形外科疾患
捻挫は他の関節疾患と判別が難しいこともあります。足をかばいながら歩くその他の代表的な整形外科疾患は、以下が挙げられます。- 骨折
- 膝蓋骨脱臼
- 股関節形成不全
- 肘異形成
- 肩関節不安定症
- 椎間板ヘルニア
- 変性性腰仙椎狭窄症
その他にもさまざまな原因で足をかばうことがありますので、愛犬の歩き方が「おかしい」と思ったら整形外科に精通している動物病院で受診することをおすすめします。
犬の捻挫の検査・診断方法
犬の捻挫の診断にはレントゲンが有効なことが多いです。下のレントゲン写真をご覧いただくと、右側が正常で、左側は捻挫をしています。左側は、膝の側副靭帯が切れているため、骨の隙間が広くなっています。
捻挫は靭帯の損傷ですので、多くは受傷した靭帯の名称が入った診断名となります。つまり、上記写真の場合には「内側側副靭帯断裂(ないそくそくふくじんたいだんれつ)」などと診断名がつきます。
診断名が「捻挫」となる場合は、グレードが1などで受傷した靭帯がはっきりとわからないときなどです。
犬の捻挫の治療法
軽度な場合
軽い捻挫なら安静にすることで自然治癒することが多いです。「患部を冷やす」「痛み止めの服用」も有効です。重度な場合
重度な捻挫、つまり靭帯断裂や剥離骨折の場合は手術が必要なことが多いです。「手術するべきか」もしくは「サポーターなどで治療するべきか」は獣医師の判断となります。整形外科症例の経験豊富な獣医師の受診をお勧めします。
軽い捻挫の冷やし方
用意するもの
- ジップロックなどの保存袋
- 保冷剤(氷で代替可)
方法
1. 氷のうを作る
ジップロックに水を入れて、氷のうを作成してください。2. 患部に当てる
氷のうを患部に当てます。挟み込める関節なら、全周を覆うように当てましょう。注意点1箇所、10分までを1日2〜3回実施してください。10分以上の冷やしすぎは逆効果になる恐れがあります。
犬の捻挫の治療薬
一時的な痛みの緩和には痛み止めを使用します。代表的なものは非ステロイド性消炎鎮痛剤です。
必ず犬用の薬を使用してください。まれに人間用の痛み止めを服用させる方がいますが、動物には有害のため、絶対に与えないようにしましょう。
軽度な靭帯損傷は安静にしていれば改善が見込めるので、その期間の痛みを抑えることが目的です。残念ながら靭帯そのものを治す薬はありません。
まとめ
捻挫とは、靭帯の損傷のことをいいます
靭帯の損傷程度によって、捻挫は3つのグレードに分類されます
犬が捻挫した場合、足をかばうような歩行になります
捻挫が軽度な場合は安静に、重度な場合は獣医師と治療を相談しましょう
犬の捻挫は注意してれば予防できることも多いです。
もし愛犬が捻挫してしまった場合は、捻挫が軽度か重度かは獣医師が判断するので、飼い主さんの自己判断はせずに、愛犬の歩行の様子がおかしかったら動物病院で受診することをおすすめします。
事故やケガに注意して、楽しい愛犬との時間をお過ごしください!
引用文献
- Charles E. DeCamp, et al.: Brincker, Piemattei, and Flo's 『Handbook of Small Animal Orthopedics and Fracture Repair』, Fifth edition, St. Louis , Missouri, 2016, Elsevier.