猫が熱いけど大丈夫?発熱の仕組みや考えられる病気・治療法・対処法を獣医師が解説
今回のテーマは猫さんの健康状態を測るバロメーターの一つである「熱」です。普段から私たちを癒してくれる猫さんですが、できるだけ元気に長生きしてもらえるように健康状態には気をつけていたいですよね。そこで猫さんの体温調整の仕組みから発熱を起こす病気、その対処・治療法まで、獣医師の福地が解説します。
猫が熱いとき
犬と猫の正常な体温は38.0度から39.2度です。彼らは全身に毛がびっしりと生えているので、人間のように、わきの下に体温計を挟んで計測することができません。体温を測るときは基本的には直腸の温度で測ります。具体的には、体温計に使い捨てのカバーを挟んでお尻の穴に入れて体温をみます。最近では直接皮膚に接触せず、皮膚から放射される赤外線の熱量をもとに短時間で体温を計測する非接触体温計も出ています。
日常的に「発熱」という言葉が使われていますが、医学的には「病的な高体温状態」のことを「発熱」といいます。発熱の順序としては、感染などの病的な状態に対して体を防御する働きが起きます。この働きによって生じた物質が脳の視床下部という体温調整を司る部分に働きかけ、体温を上昇させる方向に働くのです。
猫の発熱の仕組み
体内では常に熱が産生され、その熱は体の表面から出ていきます。この「熱産生」と「熱放散」のバランスによって体深部の体温は常に一定に保たれています。ではなぜ体温は一定にしなければいけないのでしょうか? 体を構成するタンパク質や核酸、脂質などは温度に敏感で、代謝などの活動を持続するためには体温が一定である必要があるからです。
体温を低下させるシステムとして医学的には
- 全身の皮膚血管拡張
- 発汗(による気化熱の利用)
- ふるえの抑制
- 非ふるえ熱産生の抑制
体温を上昇させるためのものとしては
- 全身の皮膚血管拡張
- ふるえによる熱産生
- 非ふるえ熱産生
- 発汗抑制(気化熱が生じないようにする)
猫に熱があるときの原因として考えられる病気
猫さんが発熱している場合、以下のような原因が考えられます。
- 敗血症などの全身性の細菌感染
- 猫ヘルペスウイルスや猫カリシウイルスなどによるウイルス感染症
- 免疫介在性溶血貧血などの自己免疫疾患
- リンパ腫といったある種の腫瘍
猫に熱があるときにみられる症状
発熱することは動物の免疫系には有利に働きます。細菌などの病原体をやっつけるのに働く白血球の機能や、抗菌性の物質や白血球自体の産生を増加させるためです。しかし、発熱することで全身の筋肉の酸素の必要量が増えてしまいます。そのため呼吸器や循環器系(心臓)に負担がかかってしまいます。
発熱自体も猫さんにとっては不快だったり食欲を低下させたりしてしまいます。人の医学においては、解熱するかどうかは現在の病気の進行具合と体の状態のバランスから判断するのがよいとされています。そして感染症以外の発熱に対して、免疫機能が低下することによるデメリットがないので積極的に解熱を行うことを勧めている教科書もあります。
猫に熱があるときの対処法
発熱とは、体に感染など病的な状態が発生した時に生じる体の防御作用です。発熱によって猫さんの食欲がなくなったり、元気が消失したりすることはありますが、一番大切なのは「熱を下げて平熱に近づけること」ではなく、「原因となった病気を探し、それに対して治療すること」です。
状態が良くない時は入院したり点滴をしたりして体の状態を支えつつ、発熱の原因となった病気の治療も並行して行うのが理想的であると思います。自宅で猫さんを撫でていて「いつもより少し体温が高い気がするな」と感じたとき、もしも食欲や元気もなければ全身の状態が落ちている可能性があるので病院にかかられることをおすすめします。
少し体温が熱く感じても、元気食欲があり様子に変わりがなければ体温調節の一環として表面の体温が上昇しているだけかもしれません(部屋が暑い時は皮膚の表面の血管も広がって熱を発散しやすくなっているでしょう)。「発熱しているかも?」という一つの項目だけに捉われず、猫さんの状態を総合的にみて病院に連れて行くか判断していくとよいでしょう。
猫に熱があるときの検査・診断方法
猫さんは全身に感染が広がっているときだけでなく、自己免疫疾患でも発熱することがあります。そのため、「どこで感染が起きているのか」「どんな病原体によるものなのか」「感染でない場合は免疫機能の異常がないか」を調べるためにさまざまな検査が必要です。
血液検査やレントゲン、超音波検査などのほか、培養検査や自己抗体の存在の有無などの特殊な検査をすることもあります。こうした検査を総合的に判断して原因の病気を考え、治療を開始していきます。
猫の平熱を知ることから始めましょう
一口に猫といっても、正常体温には個体差があります。ワクチン接種時など健康な状態で病院にかかる際には愛猫の体温を教えてもらって、「だいたいこの子は平熱がこれくらいなんだな」とおさえておくとよいでしょう。また、撫でていて「いつもより体が熱い/冷たい気がする」というのも、その子の全身状態を評価する上で役に立つことがあります。
引用文献
- 大曲貴夫、狩野俊和、忽那賢志、國松淳和『Fever 発熱について我々が語るべき幾つかの事柄』金原出版
- 岩崎利郎、長谷川篤彦、辻本元『獣医内科学』文永堂出版