猫の鼻血は命に関わる場合も!考えられる原因や治療法を獣医師が解説
猫さんは猫風邪などで鼻炎を起こしやすい生き物ですが、鼻血を見かけた時は要注意です。皆さんの中にも子供の頃によく鼻血を出していた方がいるかもしれませんが、実は猫さんの命に関わる重大な病気の一つの症状として、鼻血が見られることがあります。今回は獣医師の福地が猫の鼻血について、考えられる原因・病期や鼻血の止め方・治療法について解説します。
猫の鼻血とは
鼻血は「鼻腔からの出血」と定義されます。人間では特に子供で多く、アレルギー性鼻炎などが背景にあり、物理的にいじることでよく出血するといわれています。原因には鼻自体に問題がある局所性のものと、血が止まりにくくなっている凝固異常や高血圧などの全身性疾患によって起きるものがあります。
人では鼻と口両方で呼吸ができますが、猫さんは呼吸のほとんどを鼻呼吸で行なっています。ですので、鼻血は重大な病気の兆候であると同時に、出血が多い時は呼吸にとっても一大事になることがあります。
猫に鼻血が出た際のチェックポイント
まずは見た目に出血の原因となるような外傷があるか、もともと呼吸しづらいなどの鼻づまりの状態はあったか、鼻水が出ていればそれはドロドロしていたり、黄緑がかっていないかを確認しましょう。鼻自体に原因があるときは上記の症状がよく見られます。血を飲み込んでしまってウンチが真っ黒になってしまうこともあります。血液が止まりにくくなっている疾患の場合は、歯茎から血が出ていることもあります。
猫の鼻血で考えられる原因
鼻血を起こす原因は局所、つまり鼻自体に問題が起きている場合によくみられます。原因は多岐にわたりますが、以下に代表的なものを列記します。
ぶつけたり引っ掻かれたことによる外傷性の鼻血
この場合は、物理的に鼻の粘膜の血管が破れてしまうことで出血します。ウイルス、細菌、真菌など微生物による感染性の鼻炎
この場合は明らかな出血というより、血液混じりの膿っぽい鼻水のような状態でみられます。鼻腔内腫瘍(良性、悪性どちらも鼻血の原因になる)
線維肉腫やリンパ腫、腺癌などでみられます。大出血というより、気づいたらたらりと出血しているといった場合が多いです。鼻腔内の異物
鼻の中に入った異物による物理的な刺激や、自分で引っ掻いてしまうことで出血が起きます。リンパ形質細胞性鼻炎
感染によって起きる炎症ではなく、自分の免疫が鼻の細胞に対して過剰に反応することで起きる鼻の炎症です。細菌による二次感染を起こしてしまうこともあります。歯髄炎の悪化
歯の根元にまで細菌感染が及ぶと、鼻に近い部分の骨にまで炎症が起きてしまいます。炎症が酷いと歯の根元の炎症による出血が鼻からみられるようになってしまいます。炎症性鼻甲介ポリープ
非常にまれに若い猫での発生が報告されています。良性ですが呼吸を妨げてしまい、再発の報告もあります。スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症
詳しくは後述します。全身性の疾患としては、出血が止まりにくくなってしまう止血異常を起こす病気(免疫介在性血小板減少症や血小板無力症など)や高血圧の状態の時に鼻血がみられることがあります。
猫の鼻血で年代ごとに多く見られる原因
スコティッシュフォールドの猫さんで鼻血がみられることがあります。スコティッシュフォールドの猫さんは「骨軟骨異形成症」という軟骨がうまくつくれない疾患を先天的に持っている子が多いです。そのために垂れ耳になります。鼻にも軟骨で作られている構造があるため、軟骨の発達が悪いと粘膜の形に影響を及ぼしてくしゃみなどが増えます。その刺激で鼻血がでることもあります。これは遺伝的な病気なので治療法はありません。
スコティッシュフォールドに限らず、子猫の時の鼻血はウイルスなどの微生物による感染性鼻炎が主な原因として挙げられます。炎症性鼻甲介ポリープなどは非常にまれですが若い猫での発生が多いとされています。
猫の鼻血の検査・診断方法
まずはいつから鼻血の症状が始まったかなどの問診を経て、血液検査や必要な場合は血液にちゃんと固まる機能があるか判断する血液凝固系検査、喉の粘膜を綿棒などのスワブで取って猫の鼻に感染しやすい微生物を調べる検査、歯や鼻腔を囲む骨の状態を調べるための頭部のレントゲン検査などが必要になります。
これらの検査で腫瘍などが疑われる場合には、さらにCTやMRIなどの検査でどこまで病変の拡がりがあるかをチェックします。鼻の中に何かできていると腫瘍を疑わなければいけませんが、それが良性なのか悪性なのかはMRIやCT検査で鼻の中に異物が認められただけでは判断がつきません。どんなものなのか判断するには組織を切り取って顕微鏡で観察する病理組織検査が有効になります。鼻は猫ちゃんにとって唯一の空気を出し入れする所なので、たとえ良性腫瘍であっても呼吸を妨げてしまいます。
猫の鼻血の止め方・治療法
猫の鼻血の治療法は原因によって変わってきます。血液が止まりにくくなっていて免疫の異常が考えられる時はステロイド剤などを使いますし、赤血球に感染するような微生物がいる時はそれを退治する薬を投薬します。
鼻腔内に異常が起きている時は、細菌の二次感染に対して抗菌薬を使ったりもします。高血圧が原因の時は主に血管を広げて血圧を下げるようなお薬を使います。高血圧も腎臓の病気や甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能亢進症などで起きますが、これらもさまざまな検査を組み合わせて診断していきます。
問診や血液検査、レントゲン検査など麻酔をかけなくても実施できる検査で明らかな原因がみつからないときはケージの中で安静にしたり、状態によっては鎮静剤を投与したりすることもあります。重度の場合は血液で気道がふさがってしまうので、全身麻酔をかけて気管チューブを挿管します。出血多量の時は点滴や輸血を行います。
いずれにしても猫さんが出血すること自体が異常なので、見つけたら病院でみてもらうとよいでしょう。
鼻にティッシュを詰めるのはNG
皆さんの中には鼻血が出たら鼻にティッシュを詰める方もいると思いますが(抜くときに再び粘膜を傷つけることがありますのでやり方に注意が必要です)、猫さんは人と違って鼻呼吸で酸素交換をほとんどしているのでティッシュを詰めるのはNGです。猫さんの鼻血をみかけたらティッシュなどを詰めて対処しようとせず、まずは病院に行くことをおすすめします。猫が鼻血を出していたらすぐ病院へ
猫さんの鼻血は病原微生物による感染や顔面腫瘍、止血の異常などで起きることが多いため、鼻血を出しているのをみかけたらすぐに受診するようにしましょう。外傷によるものであっても、猫さんは呼吸のほとんどを鼻呼吸で行なっているので早めに止めてあげたいですね。このように鼻血そのものが重大な疾患というよりは、重大な疾患の一つとして現れることが多く、治療方針もその疾患ごとで異なります。自宅で判断するのは難しいので、みかけたら病院でみてもらってくださいね。
引用文献
- Takuma Aoki, Hiroo Madarame, Keisuke Sugimoto, Hiroshi Sunahara, Yoko Fujii, Eiichi Kanai,Tetsuro Ito, Diode laser coagulation for the treatment of epistaxis in a Scottish fold cat, Can Vet J 2015;56:745–748
- 「鼻出血」(日本耳鼻咽頭科学会)