【獣医師監修】猫のニキビの症状や原因は?軽度や重度の治療法・食事について獣医師が解説
愛猫のあごや鼻に黒いブツブツが……これは何? 猫にもニキビができるのを知っていますか? あごの下に黒いゴマ粒のようなブツブツを見つけたことはありませんか? それは単なる汚れではなく、猫のニキビかもしれません。猫のニキビは比較的よくみられる皮膚病の一種ですが、二次感染を起こして重症化することもあるので注意が必要です。症状や原因、治療方法、家庭ではどんな対処をしたらいいかを獣医師の佐藤が詳しく解説いたします。
この記事を執筆している専門家
佐藤貴紀獣医師
獣医循環器学会認定医・PETOKOTO取締役獣医師獣医師(東京都獣医師会理事・南麻布動物病院・VETICAL動物病院)。獣医循環器学会認定医。株式会社PETOKOTO取締役CVO(Chief veterinary officer)兼 獣医師。麻布大学獣医学部卒業後、2007年dogdays東京ミッドタウンクリニック副院長に就任。2008年FORPETS 代表取締役 兼 白金高輪動物病院院長に就任。2010年獣医循環器学会認定医取得。2011年中央アニマルクリニックを附属病院として設立し、総院長に就任。2017年JVCCに参画し、取締役に就任。子会社JVCC動物病院グループ株式会社代表取締役を兼任。2019年WOLVES Hand 取締役 兼 目黒アニマルメディカルセンター/MAMeC院長に就任。「一生のかかりつけの医師」を推奨するとともに、専門分野治療、予防医療に力をいれている。
猫のニキビとは
猫のニキビは痤瘡(ざそう)とも呼ばれ、猫でよくみられる皮膚病の一種です。でき始めの多くは毛穴部分に黒いブツブツができます。この黒いブツブツは、「面皰(めんぽう)」といって、古い角質や皮脂・汚れを含んだ角化物が毛穴に詰まって膨らんでいる状態をいいます。別名「コメド」ともいいます。
猫のニキビは、脂腺が多く分布しているところにできやすく、あごの下にできるのがほとんどです。また口元、尾の付け根などでもみられることがあります。猫のニキビは基本的に人や同居動物にうつることはありませんので安心してください。
ニキビができやすい猫種・年代
人間のニキビは10代など思春期に発生しやすいですが、猫のニキビは年齢を問わず発生するといわれています。スフィンクスやドンスコイなどの猫種は皮脂が溜まりやすいですが、だからといってニキビができやすいわけではなく、好発品種や性差は報告されてはいません。猫のニキビの症状
大まかな症状の進行は以下の通りです。
- あごの下に黒いポツポツができる
- あごの下が脱毛する
- 引っ掻いてしまう
- あごの下が赤くただれる、出血する
初期段階では、小さな黒いブツブツがあごの下などに見られます。この時点で猫自身は気にする様子はほぼなく、痒みや痛みも生じていないことが多いです。黒猫だとわかりにくいので、飼い主さんも気付いていない場合もあります。しかし細菌などの二次感染を伴うと毛が抜けてしまったり、赤くただれてしまって出血する事があります。この頃には痛みや痒みも伴うことが多く、掻きむしったり気にする猫が多いでしょう。
猫のニキビの原因
猫ニキビの正体は毛穴に詰まった角質や皮脂、汚れです。毛穴の中には皮脂腺があり、そこから皮脂が分泌されます。この皮脂が毛穴内部の剥がれた角層や汚れと混ざり合うことによって、毛穴の中に角化物が形成されます。皮脂腺の過形成(※)により皮脂が過剰分泌され皮脂の排泄が滞ったり、毛穴周りの角層のターンオーバーが乱れることによって、毛穴に角化物がたまりやすくなります。繰り返す猫は毛包の角化異常(※)と皮脂腺の過形成がみられることが多いです。あごの下は大型の皮脂腺が他の部位よりもたくさんあり、食べ物のカスが付きやすく、なおかつ自分ではお手入れしにくい部位になるので猫ニキビができやすいといわれています。
※過形成:過剰に増えること
※角化異常:皮膚のターンオーバーのサイクルに異常が見られ、角化が亢進したりすること
正確な原因はまだ解明されていませんが、猫ニキビの発症には以下のことが関与すると考えられています。
- 皮脂の分泌異常
- 毛包の角化不全
- グルーミング不足
- アレルギー反応(※)
- 不衛生な生活環境(※)
- ストレス
- ホルモンバランスの乱れ
- 免疫機能の低下
※アレルギー反応:プラスチックや金属アレルギーによって猫ニキビが誘発されることも。陶器や木製の容器に変更してみてもいいかもしれません。
※不衛生な生活環境:フード容器の汚れなどにより、あご下に雑菌が付着することにより生じることも。プラスチック容器は雑菌が繁殖しやすいといわれています。
猫のニキビの検査・診断方法
スタンプ検査(※1)や掻爬検査(※2)、抜毛検査(※3)などを実施して、細菌や真菌の感染がないかどうか、寄生虫の類がいないかどうか検査します。
※1:病変部にテープやスライドガラスを押し当て検体を採取する検査。細菌やマラセチアなどの微生物の確認や腫瘍性疾患の鑑別などに用います。
※2:皮膚の一部を削り、顕微鏡で観察する検査。主にニキビダニなどの検出に用います。
※3:毛を毛根から抜き取り、顕微鏡で観察する検査。ニキビダニや真菌を検出するのに用います。
猫のニキビの治療法・薬
ただの黒いブツブツだけでなく、皮膚に赤みがあったり脱毛していたりボコボコしている場合は一度動物病院への受診をおすすめします。症状が「軽度」か「重症」かで治療法が異なります。
症状が軽度の場合
症状が軽度で、猫に不快感がない場合は、ぬるま湯に浸したガーゼやコットンなどで優しく拭いて皮脂・汚れを取り除きます。化膿の原因になるので、あまりゴシゴシ強くこすりすぎないように注意しましょう。お手入れ後、あごが湿っていたら、ティッシュなどで水分を拭き取って完全に乾かしてあげましょう。また、ホットタオルなどでホットパックするのもいいでしょう。歯ブラシやストローを使って除去するといった情報を散見しますが、そういった方法は、毛穴や皮膚を傷つけて炎症を引き起こしてしまう可能性もあるのでやめた方がいいでしょう。病変が中等度から重度
症状に合わせて治療を行います。外用療法が可能な場合は、毛穴の汚れを落としてあげるといいですね。ベビーオイル、動物用のクレンジングオイルなどで患部をマッサージするようにして軟化すると汚れが浮いてきます。その後、毛包洗浄力のある動物用シャンプーなどを使い、ニキビがある部分を局所シャンプーしてあげます。硫黄やサリチル酸、乳酸エチルなどが配合されたシャンプーが毛穴のクレンジングには期待できます。動物病院で処方してもらうといいでしょう。シャンプー剤は事前によく泡立て、手や軟らかい小さめのスポンジで優しくマッサージするように洗ってあげましょう。その後、スポンジにお湯を含ませて、何度もすすぎます。しっかりすすいだ後は清潔なタオルでよく拭きます。湿ったままだと悪化する場合があるのでしっかりと乾かしましょう。
細菌感染を伴う場合は、抗生剤・ビタミンA製剤の塗り薬、消毒や内服薬(抗生物質・抗炎症薬)などを用いて治療を行います。軟膏やクリーム剤を塗布する場合、基材が毛に付着し二次感染の温床となることがあるため、治療中は剃毛したほうがいいでしょう。
次に消毒ですが、ヒビテンなどのクロルヘキシジン(※)は、原液を10倍希釈して使用します。ガーゼやコットンなどに浸して患部を清拭します。毎回使う分だけ希釈し使い切るようにしましょう。イソジンなどのポピドンヨードは殺菌作用が高く効果も期待できますが、使用には少し注意が必要です。有機物(膿や浸出液)の存在で効果が減弱します。また、数日すれば元に戻りますが被毛が茶色に着色します。
まれに、皮膚反応(赤み、浮腫、ブツブツなど)を呈することがあります。ポビドンヨードは長期間、広範囲の使用で血中ヨウ素濃度上昇の可能性があり、甲状腺機能に異常をきたす場合があるので注意しましょう。塩化ベンゼトニウムが主成分のマキロンは刺激性を生じる場合があります。細菌感染を伴う場合は、薄めたクロルヘキシジンなどでの消毒やビタミンA製剤や抗生剤の塗り薬、内服薬で治療を実施します。人間用のニキビ薬はあくまで人間用のものなので、猫には使わない方が良いでしょう。
※クロルヘキシジン:皮膚に対する刺激が少なく、臭気がほとんどない生体消毒薬
猫のニキビの予後
猫で比較的よくみられる皮膚疾患で、予後は良好ですが生涯にわたり症状に合わせた治療管理が必要なこともあります。軽度の場合で二次的な感染症が存在しない限り、猫ニキビは美容上の問題とされており、特に治療の必要有りませんが、悪くならないよう清潔をこころがけましょう。
猫のニキビの予防法
体や生活環境をいつも清潔に保ってあげることです。あごの下は猫ちゃんが手入れしにくい部位ですので、食後など飼い主さんがまめに拭いてあげたりして清潔にしてあげましょう。食べている最中に食べ物が下顎につかないように餌皿を違う形のものに変えてみるのもいいかもしれません。あごは汚れやすく、グルーミングしにくい部位なので、まめに拭いてあげましょう。猫のニキビに良い食事、サプリメント
食事の影響で皮脂が過剰に分泌されることがあります。脂質のバランスのとれたフードに変えてみるのもいいでしょう。猫のニキビは日頃の対応で予防できます
猫のニキビは比較的よくみられる疾患ですが、ひどくなると痒みや痛みを伴います。愛猫の様子に気を配り、早めに気づいて対処してあげられるといいですね。
参考文献
- カラーアトラス 犬と猫の皮膚疾患 岩崎利郎 監訳 文永堂出版
- 症例でみる小動物の皮膚病診療Q &A 監修岩崎利郎 緑書房