猫の条虫症|感染の原因・症状・治療・予防法などを感染症担当獣医が解説
猫にもサナダムシ(条虫)が寄生します。条虫類は宿主の特異性が低い種類が多く、さまざまな生物が宿主となります。猫の条虫は猫以外に人やノミ、ネズミ、ミジンコなどにも寄生するものもあります。中には、猫で軽度な症状を示しても、人に感染すると重篤な症状を示す条虫もいますので、ぜひ知っておきたい病気です。今回は猫の条虫症の症状や治療法・予防法について、野坂獣医科院長の野坂が解説します。正しい知識を身につけ、飼い猫の定期的な寄生虫検査と適切な駆虫薬投与を行ないましょう。
猫の条虫とは
条虫は、条虫網に属する寄生虫の総称です。体は平べったく、細長いひも状で、真田紐(さなだひも)という平たい織紐に似ていることから、サナダムシとも呼ばれています。猫に寄生する条虫は、約10種類といわれており、エキノコックス、瓜実条虫、猫条虫、マンソン裂頭条虫などが知られています。猫に条虫が感染していても無症状の場合もあります。また、糞便検査を行なっても条虫を見逃すことがあります。
条虫類は、宿主特異性が低いものが多いとされており、猫や犬の他に人が宿主になることがあります。猫が無症状の場合でも、中には人獣共通感染症を引き起こす条虫もいることから、猫の定期的な条虫の駆虫をおこなうことは望ましいとされています。
猫の条虫症の原因・感染経路
猫の条虫症の原因となる条虫類は、さまざまな中間宿主にも寄生します。中間宿主には、ノミ、ハジラミ、両生類、爬虫類、魚類、げっ歯類などが知られており、条虫によっては異なることがあります。猫は直接あるいは中間宿主、水たまりの水などと一緒に虫卵や虫体を誤食し、条虫に感染します。人にも感染するエキノコックス
エキノコックスの卵をヒトが誤飲すると、致死的な疾患をおこすことがあるので注意が必要です。日本では北海道を中心とする北日本で確認されていましたが、埼玉県や愛知県の犬でも確認されています。猫は親虫の発育が悪いことからエキノコックスにとっては非好適な宿主と考えられていますが、2008年に北海道の飼い猫1匹の糞便中からエキノコックスの虫卵が検出されています。感染した猫の症状は軽症とされていますが、ヒトやネズミ、偶蹄類などが虫卵を摂取すると、重篤な肝障害がみられることが知られています。
条虫症になりやすい猫種・年代
条虫が猫に感染するには、猫が虫卵や虫体を誤食したり、虫卵や虫体と共に中間宿主を捕食したりすることで成立します。そのため、完全室内飼育の猫よりも、野良猫や元野良猫の方が感染する可能性が高くなります。また、多頭飼育の場合、1匹でも感染猫が混ざっていれば、他の猫に感染する可能性が高くなります。単頭飼育で完全室内飼いの猫の場合でも、ノミやネズミなどの中間宿主や虫卵が飼育環境に入ることで感染する可能性が高くなります。
猫の条虫症の症状
感染から虫卵の排泄までは3〜6週間といわれています。一般に、症状は軽度ですが、腸炎や腸壁穿孔(せんこう)を起こし、腹痛、栄養不良、食欲減退あるいは亢進、嘔吐、異食症、慢性下痢、血便などがみられることがあります。糞便中や肛門周囲に寄生虫が存在すれば、不快感からおしりを地面や壁に擦りつけたり、肛門周囲をしきりに舐めたり、皮膚瘙痒症がみられることもあります。白血球・好酸球増多、痙攣、流涎、視力障害や癲癇などもみられることがあります。
猫の条虫症の検査・診断方法
猫の条虫症の診断は、虫卵や虫体を見つけます。動物病院では糞便検査やお尻のまわりの皮膚や被毛の検査を行ないます。検査をする場合は、動物病院で獣医師に準備物と方法についてよく相談しましょう。検査を行なっても虫卵は小さいので見逃すこともあります。猫の飼い主さんが以下のような症状を見つけることで早期発見につながった例を多く見かけます。
- 猫が肛門周辺を普段以上に舐め、壁や地面にこすりつけている
- 猫の肛門周辺やトイレに白いゴマや紐のようなものがついている
- 慢性的な下痢
- 嘔吐や腹痛
- 異食症
- 食欲減退または亢進
- 体重減少
猫の条虫症の治療法
数カ月間、駆虫薬を投与して条虫を駆除します。現在、駆虫薬にはすべての条虫を駆虫できるものがありません。滴下型、錠剤型、注射型の駆虫薬を選択し、組み合わせて駆虫します。駆虫ができたかどうかの検査も行ないます。多頭飼いの場合は、全ての猫に対して駆虫薬を投与することをおすすめします。どの駆虫薬を使って、どれくらいの期間投与するのかを動物病院の獣医師とよく相談しましょう。
猫の条虫症の予後
駆虫薬は一生涯有効ではないので、一度発症し、その後、駆虫できたとしても、駆虫薬を使用していなければ、再発の可能性はあります。成猫の臨床症状は軽症といわれていますが、幼若な子猫に大量に寄生した場合は死亡することもありますので注意が必要です。定期的に糞便検査を行ない、さらに予防のための適切な駆虫薬投与をしましょう。猫の条虫症の予防法
ノミを中間宿主とする条虫もいますので、まずは、ノミの予防を行なうことが基本になります。虫卵を食べたノミをグルーミングの際に誤食し、感染することもあります。ノミの予防と合わせて、定期的に動物病院で糞便検査あるいは皮膚被毛の検査を行い、虫卵や虫体がみつかった場合は速やかに条虫の駆虫をしましょう。特に多頭飼いの場合、感染猫が1匹でもいると他の猫に感染が広がる可能性があります。全ての猫に対して、予防のための駆虫を行ないましょう。
条虫の中には、ノミ、ネズミ、ミジンコ、カエルなどに寄生するものもありますので、屋外に出かける機会のある猫も予防のための駆虫を行ないましょう。猫の飼い主さんが野良猫など屋外にいる猫と遊んだ際は、手指をよく洗ってご家庭に寄生虫を持ち込まないようにしましょう。ノミやネズミなどの中間宿主や虫卵が飼育環境に入らないようにすることが大切です。
猫の条虫症は定期的な検査が大切
猫の条虫は一般に猫の消化管に寄生する内部寄生虫です。これに対して、ノミは外部寄生虫といわれます。今回、内部寄生虫である猫の条虫について書きましたが、外部寄生虫であるノミの駆除も条虫の駆除には必要です。どちらかの駆除だけでなく、外部寄生虫と内部寄生虫の両方の駆除をすることが寄生虫駆除には重要なのです。飼い猫の定期的な寄生虫検査と適切な駆虫薬投与を行なうことは、家族の健康とペットの健康を守る上でとても大切なことです。参考文献
- IASR Vol. 38 p.74-76: 2017年4月号
- Kouguchiら, Susceptibility of Cats to the Hokkaido Isolate of Echinococcus multilocularis and Effect of Commercial Anthelmintic(Emodepside/Praziquantel) Treatment, Rep.Hokkaido Inst.Pub.Health,64,97-99(2014)
- 並河,臨床獣医師のための猫の感染症マニュアル,169-177(2018)
- 佐伯,犬と猫の治療ガイド2015 私はこうしている,298-301
- 内田ら, 神奈川,山梨,静岡,長野各県および東京都に生息する野生動物の寄生虫調査, 日本獣医師会雑誌, 54(8), 635-638(2001)