猫クラミジア感染症|症状・原因・検査・治療法・感染経路について獣医師が解説
この記事を書いているのは3月半ばなのですが、ようやく暖かい日が増えてきました。厳寒期を乗り越えても寒暖差のあるこの時期に風邪など体調を崩される方も多いのではないでしょうか? 猫も意外に目や鼻などの感染症が多い動物です。目や鼻に症状を引き起こす原因になる微生物はさまざまですが、今回はそのうちの1つであるクラミジア感染症について獣医師の福地がご紹介します。
猫クラミジア感染症とは
クラミジアと聞くと、人間では性感染症のイメージが強いかもしれませんが、猫では眼の病気として知られています。クラミジアは細菌の一種で、クラミドフィラ・フェリス(Chlamydophila felis)という菌が結膜炎を引き起こし、潜伏期間は2〜5日とされています。
細胞の中に寄生する菌であるため環境中ではあまり長く生きることができません。そのため、猫から猫への感染には濃厚な接触が必要になります。目やになどの分泌物に多く存在するため、グルーミングや喧嘩などが感染の原因になります。
猫クラミジア感染症にかかりやすい猫種・年齢
好発品種はないものの、クラミジア感染症が多い環境としては、多頭飼いしている家庭やブリーダー施設などが挙げられます。1歳以下の若い猫に感染が多いことも特徴です。猫クラミジア感染症の症状
クラミジアは猫の結膜という眼の粘膜組織に感染し、2〜5日の潜伏期間を経て、通常は片目に結膜の充血と腫れ、目やにの増加、瞼の痙攣などの結膜炎症状がみられるようになります。
目やには最初は透明でさらさらしたものがたくさん出ますが、時間とともにネバネバとして膿のような形状のものに変わります。鼻水や肺炎にまで波及することは少なく、鼻炎や肺炎の猫であっても結膜炎など眼の症状がないときはクラミジア感染症の可能性は少ないと考えられます。
通常は眼の感染、炎症に限るので眼以外は様子が変わらず食欲もしっかりある場合もあるのですが、炎症が酷く長引いてしまうと結膜が癒着してしまって瞳の一部を覆ってしまうなど後遺症が残ってしまうこともあります。目の粘膜が赤く腫れていたり、涙が多く出たりしているときは早めの受診をおすすめします。
猫クラミジア感染症の原因・感染経路
クラミジアは猫の粘膜の細胞に寄生します。細胞内に寄生しないと生きる事ができないので、感染にはグルーミングや喧嘩などの濃厚な接触が必要です。
感染している猫では抗体が作られるため、感染した母猫から生まれる子猫の場合は母猫からもらう移行抗体のおかげで生後1〜2カ月の間は感染から身を守ることができます。それ以降は自分の免疫で対応していくことになるため、感染している猫からは離して生活させることが大切です。
クラミジアは感染した後、結膜から60日程度排出し続け感染源になりますが、その後ずっとクラミジアを排出し続ける猫もいます。
多頭飼いの場合の猫クラミジア感染症の注意点
クラミジアは細菌感染症のため、テトラサイクリン系というタイプの抗生剤がよく効きます。クラミジア感染猫のいる家庭に新しい猫を迎える場合はその猫を抗生剤で最低でも4週間ほど治療したのち、新しい猫にはクラミジアに感染しないためにワクチンを接種してから一緒の空間で暮らすようにしましょう。
空気感染する可能性は高くないので、新しい猫にワクチンを打ったり、感染猫を抗生剤で治療する前は隔離して生活させ、接触しないようにして食器の共用利用は控え、その猫専用の食器を使うなどの管理をすれば感染を防ぐことができます。
免疫力が未発達な1歳未満の猫での発症が多いので、感染しているかどうか不明な猫を家庭にお迎えした場合は、潜伏期間の関係で1週間程度様子をみることで感染の有無をだいたい把握することができます。
クラミジアに感染していない先住猫がいて、クラミジアのワクチンを打っていない上に感染の有無が不明な猫を導入する際も念のために1週間程度隔離しておくと安心ですね。
猫クラミジア感染症は人や犬にうつる?
クラミジアは人間では性感染症として知られており、猫に結膜炎を起こすクラミドフィラ・フェリス(Chlamydophila felis)も膣や直腸から見つかることがありますが、猫同士の交尾で感染するかどうかは不明です。また、人に感染して問題になるのはクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)で、異なる種類です。
猫のクラミジアがHIV感染の患者において結膜炎を引き起こしたという報告があるため、免疫機能が低下している場合には人間であっても猫のクラミジア症によって結膜炎を起こす可能性があります。
人に猫クラミジアが感染することはありますが、状況も限られ頻度も低いため通常は猫と触れ合った後や、食事の前には手洗いするなどの一般的な衛生管理をしていれば気にする必要はないでしょう。
感染した猫の使ったお皿などを消毒する場合は、クロルヘキシジンやヨード系の消毒薬が有効です。猫クラミジアは実は犬にも感染し、結膜炎や脳炎、肺炎など犬ジステンパーのような症状を引き起こすという報告がされています。
猫クラミジア感染症の検査・診断方法
猫クラミジアの診断にはクラミジアの遺伝子の一部を検出するPCR検査が確立されています。動物病院で綿棒に結膜や目やにをぬぐい外部の検査機関に提出し数日で結果が出ます。猫クラミジア感染症の薬・治療法
結果が出る前に抗生剤や消炎剤の点眼薬や抗生剤の投与が始まるケースが多いです。クラミジアはテトラサイクリン系の抗生剤がよく効くので、ドキシサイクリンやビブラマイシン、アジスロマイシンなどが選ばれることが多いです。
テトラサイクリンは若い猫で副作用があるため、副作用の少ないこうしたテトラサイクリン系抗生剤の仲間が選ばれます。また、食道潰瘍を起こすこともあるので投薬の際は獣医師のアドバイスを聞いてみてください。若い猫では別の系統の抗生剤でも有効とされています。
猫クラミジア感染症の治療費目安
治療費については、医療機関によって異なりますが、初回の多くは初診料もしくは再診料+外部検査機関への検査料+点眼薬+内服薬で1〜2万円程度はかかってくると考えられます。治療は必ずすることをおすすめします。炎症が酷く長引くと腫れた結膜が癒着し、視力や見た目に影響が出ることがあるためです。特に子猫の場合はしっかり治療をすることをおすすめします。放置しておくと、自分の免疫で抑えこむこともできる子もいますが、長引く炎症によって結膜に残ってしまった癒着は一生治ることはできません。持続感染といって症状は強く出さないけれども菌を排菌し続けることもあります。
猫クラミジア感染症の予防
感染していない猫にはワクチン接種をすることで、その後感染している猫をお迎えすることができます。とくに他の猫をお迎えする予定がなければ、猫クラミジアのワクチンは接種しないという選択肢もあります。感染している先住猫や、他の猫と接触する可能性がある時はワクチンを接種しておくことをおすすめします。
不特定多数の猫と触れ合って猫クラミジアだけでなく猫エイズや猫白血病に感染するリスクもあり、交通事故の可能性もあることから外出はさせず完全室内飼育をしてあげることも大切です。
猫クラミジア感染症は目の異変に注意が必要です
今回は猫クラミジア感染症についてご紹介しましたが、実際にはカリシウイルスやヘルペスウイルスなど猫風邪の原因になる他の病原微生物との区別が難しく、これらが混合感染している場合も多く見受けられます。結膜が癒着してしまう後遺症が残る可能性もあるため、たかが目やに、結膜炎と侮らず愛猫さんが目をしばしばさせていたり赤く腫れていたりする場合は早めに受診してあげることが重要です。
参考文献