本当の病気の可能性も? 猫の仮病を行動診療科獣医師が解説

本当の病気の可能性も? 猫の仮病を行動診療科獣医師が解説

学校や行事、仕事を休みたくなったとき「仮病」を使うか考えたことはありませんか? 病気で苦しんでいるかどうかは本人にしかわからないので、「今日体調が悪くて……」と言えば他の人は「ゆっくり休んでくれ」としかいいようがありません。人間で起こりうる仮病ですが、猫にも仮病はあるでしょうか? 仮に体調が悪そうなふりをするとしても、何か良いことでもあるのでしょうか? 今回は「猫の仮病」と題して行動学的視点から行動診療科獣医の鵜海が解説していきます。

仮病とは

猫

仮病とは、何らかの利益のために病気を偽ることです。仮病は俗称で、医学的には「詐病」が正しい用語となっております。以降、「仮病=詐病」として扱わせていただきます。

類似した精神疾患で「虚偽性障害」がありますが、これは、「あなたは病気である」と認められることを目的としているため、詐病とは分けられます。猫に病気という概念は認識できないので、虚偽性障害は生じ得ません。ミュンヒハウゼン症候群や医者巡り症候群も虚偽性障害の1つです。


猫の仮病とは

椅子にもたれる猫

仮に猫が仮病をすると考えたときに、利益は何かというと「飼い主さんの関心を引くこと」が一番に挙げられるでしょう。もしかしたら、「飼い主さんを避ける」という利益も場合によってはあるかもしれません。そう考えると猫も仮病を使うことは否定できません。

しかし私の主張は、「猫に仮病という概念を持ち込むべきでない」ということです。インターネット上で「猫 仮病」などのキーワードで検索した際に(もちろん獣医の専門書には仮病や詐病といった項目はありません)、「足を引きずっているけど走ることもある」「咳が出る」「朝元気がなくなっていて夕方にはすっかり元気だった」などといった情報を見かけます。

また、そういった状況で動物病院に連れて行った際に、「獣医さんに『仮病だね』と言われた」という記事を散見します。しかし、獣医学的には仮病がないため、「そう大事には至らない自然に治る状況なので、飼い主さんを安心させるために言っている」と思われます。

仮に「仮病」と言われた症状が「治っていない」「悪化している」「時間をおいてまた再発した」とのことであれば、本格的な疾患を考えていかなければなりません。その際は必要な検査を受けましょう。

猫の仮病と病気の見分け方

遊びたい猫

まずは気になっている行動が「医学的疾患なのか」「医学的疾患ではないのか」ということは最重要です。医学的に問題なければ行動学的疾患を考慮していくべきでしょう。

以下にチェック項目を示します。当てはまるようであれば医学的疾患を疑ってください。

  • 誰もいないところでも起こる
  • 持続的ないし断続的である
  • 環境の変化は一切ない
  • 飼い主との関わり合い方の変化は一切ない
  • そもそも食欲元気がない

もし、多くの行動が上記チェック項目に当てはまるようであれば、まずは動物病院に連れていき、大きな異常がないか確認しましょう。

猫の仮病の理由

カーテンに隠れる猫

「持続的ないし断続的に仮病みたいな行動している」→「必要な検査もした」→「自宅で大きな変化はない」→「それでも特別に異常が見つからない」という状況であれば、行動学的疾患を考えなければなりません。

行動的疾患として猫の仮病の理由は以下の2点が考えられます。

  • 関心を求める行動
  • 回避行動

「関心を求める行動」や「回避行動」として、「少し元気ない様子」や「足を引きずる」ことは起こり得るかもしれません。

どういうことかというと、例えば、「関心を引く行動」であれば、「少し動きを少なくしたら飼い主さんが構ってくれた」→「飼い主さんの前ではあまり動かないようにしよう」というように動きを少なくするということが学習されていきます。

また、「回避行動」であれば、「足を引きずる」→「いつもちょっかいかけてくる子供が無茶してこない」というように足を引きずることが学習されていきます。

そうであれば、対象となる人物が目の前にいなければ、そういった行動がみられなくなります。気になる方は留守番カメラで観察してみると良いでしょう。まずはその気になる行動に至るきっかけ探しです。

「関心を求める行動」とは

誰かが猫に対して関心を向けることによって強化されている行動のことです。つまり、「誰が」「どの猫に対して」「どんなタイミングで」「どのように関心を向けて」「どんな行動が多くなっているのか」ということを確認しなければなりません。

「回避行動」とは

誰かが猫に対して行う嫌なことが回避されたことによって強化されている行動のことです。つまり、「誰が」「どの猫に対して」「どんなタイミングで」「どのような嫌なことをして」「どんな行動が多くなっているのか」ということを確認しなければなりません。

猫の仮病への対処法

猫

「関心を求める行動」でも「回避行動」でも、きっかけがわかってしまえばそれぞれに対応しましょう。一概に「何をしたら改善される」ということはありません。一番重要なのは、それぞれに応じた「きっかけの排除」です。

架空の事例紹介

参考として架空の事例を挙げてみます。

普段留守番が多くて構ってもらう時間が短い猫のみぃちゃんは、「もっと飼い主さんと交流したい!」と感じているとしましょう。ここでたまたま、みぃちゃんが足に違和感を感じて右足をかばったときに、飼い主さんが心配して、家にいる間に何度もみぃちゃんを撫でたり、そばにいてくれたりしたとします。

「右足をかばったら飼い主さんが構ってくれた」→「飼い主さんの前では右足をかばおう」と学習が起きると右足をかばう仕草は多くなるかもしれません。しかし、これは飼い主さんとの交流の中で発生しているので、留守番のときはいつも通りの歩き方でいるでしょう。

ではどうするのかというと、足をかばっているときは目を向けず、むしろ他の部屋にいってしまうなどをすることにより、足をかばうことに関心がない、むしろ、足をかばったことにより自分にとって不利益があった認識させてあげることにより、足をかばう行動は減っていくでしょう。

そもそも飼い主さんにかまってもらう時間が短かったみぃちゃんですから、まずは日常的にコミュニケーションの時間を増やし、生活に対する満足度を上げ、次に、行動療法を実施していきましょう。

もし現実にみぃちゃんみたいな猫がいるとするならば、かまってあげる時間が少なかったせいでかばう行動をしなければならない状況にいたため、かまう時間を増やすだけで、足をかばう行動はなくなっていくと思います。

※あくまで例なので、わかりやすく「足をかばう」ことを取り上げてます。しかし、実際に足をかばうことがあれば医学的疾患だと思いますので、動物病院につれていきましょう。

常に健康管理意識を

振り向く猫

動物に仮病という言葉を持ち込んで欲しくない理由は3つあります。

  1. 「そもそも仮病という概念がないため、誤った知識を広げてしまう」ということ
  2. 「仮病と言ってしまうと、それ以上の原因追及をしなくなる」ということ
  3. 「仮病と思っていたが実は立派な疾患だった!」という事態も起こりうること

3つ目であったときは手遅れになりかねなく、最悪な影響です。全人類がより有益な知識を共有できるように「混乱を招く言い方はやめましょう」ということが一番伝えたいことです。

なので一般の飼い主さんは、仮に「病気っぽくないかも」と思っても、「どこかに病気が隠れているんじゃないか?」という疑いの視点は常に持っておき、何かあれば動物病院に行って診てもらいましょう。また、病気じゃないと診断されても行動が改善しない場合は、お近くの行動診療を実施している動物病院に紹介してもらいましょう。



参考文献


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