猫がやけど(火傷)を負ったら?応急処置や治療法などを獣医師が解説
猫もやけど(熱傷)を負います。そのやけど(熱傷)が重症であれば、死亡してしまう恐れがあります。やけど(熱傷)の原因はさまざまで、特に冬の時期は、電気コタツや、カイロ、電気毛布、ホットカーペットなどが好きな猫であれば、これらが低温熱傷の原因となることも。そのほか、ストーブのフレームやキッチンの調理台のガスコンロもやけど(熱傷)の原因になる可能性があります。今回は猫のやけど(熱傷)について、治療法や応急処置などを野坂獣医科院長の野坂が解説します。
病態 | やけど(熱傷) |
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症状 | 患部のやけど(熱傷)の深度の違いにより、臨床症状は異なります。 処置が遅れた場合、患部が壊死を起こして毛が生えてこなくなったり、重度のやけどによるショック状態になって死亡することもあります。 |
原因 | 火や高温の液体などの熱、放射線、化学薬品、または電気の接触等によって生じる局所的な損傷 |
危険度 | 低~高。発赤や乾燥などが見られ、瘢痕を残さずに治癒するものもあります。しかし、患部のやけど(熱傷)の深度が深ければ、生命の危険がある場合もあります。 |
猫のやけど(熱傷/火傷)とは
やけどは専門用語では「熱傷(ねっしょう)」といいます。「火傷(やけど)」と呼ばれていた時代もありましたが、火以外の原因もあるので、現在は「熱傷」で統一されています。
やけど(熱傷)とは、火(火傷)や高温の液体などの熱、放射線、化学薬品(化学熱傷)、または電気の接触(電撃傷)等によって生じる局所的な損傷のことをいいます。
やけど(熱傷)の重症度は原因となる「熱源の温度」「熱源と猫との接触時間」「猫の受傷した面積」によって判断されます。
重症度とは別に、やけど(熱傷)の分類方法があります。その方法は、損傷を受けた患部の組織学的な深さにより、「表在性(Ⅰ度)」「中層(Ⅱ度)」および「全層(Ⅲ層)」と大きく3段階に分別します。
Ⅰ度熱傷 | 表皮に限局した熱傷 | ||
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Ⅱ度熱傷 | 表皮から真皮に達する熱傷 | 浅達性Ⅱ度 | 真皮中層まで達する熱傷 |
深達性Ⅱ度 | 真皮下層まで達する熱傷 | ||
Ⅲ度熱傷 | 皮下にまでおよんだ熱傷 |
これに加えて、筋肉や骨などのさらに深部にまで損傷が及んだ場合を「Ⅳ度熱傷」ということもあります。
猫のやけど(熱傷/火傷)の原因
猫がやけど(熱傷)を負う原因は以下のようにさまざまあります。
- ストーブのフレーム
- キッチンの調理台のガスコンロ
- 電気コタツ
- カイロ
- 電気毛布
- ホットカーペット など
特に冬の時期の猫は電気コタツや、カイロ、電気毛布、ホットカーペットなどに近づきます。そして、これらが低温熱傷の原因となることがあるので注意が必要です。
猫がやけど(熱傷)をした瞬間を飼い主さんが見れることは少ないでしょう。また、猫はヒトに「やけどした」とは言えません。さらに猫の皮膚は体表を毛で覆われているので、やけど(熱傷)をしているかどうかの判断がすぐにつきにくいです。
猫がやけど(熱傷)をしたかどうか迷ったとき、飼い主さんは、次の項目の「猫のやけど(熱傷)の症状」を読んで、やけど(熱傷)の判断の参考にしてみてください。
猫のやけど(熱傷/火傷)の症状
猫の皮膚は体表が毛で覆われているため、しっかりと観察をしなければ、やけど(熱傷)を見逃す可能性があります。
見逃してしまい、処置が遅れた場合、患部が壊死を起こして毛が生えてこなくなったり、重度のやけど(熱傷)によるショック状態になって死亡することもあります。
やけど(熱傷)をしたかどうか迷ったら、まず、猫をよく観察してみましょう。
患部を気にするようになめたり、気にするしぐさをしたり、痛がったりしているようであれば、動物病院へ連れて行き、患部をみてもらいましょう。
また、毛が焦げくさいけれど、患部が見当たらず、やけど(熱傷)をしているかどうかの判断に迷うようであれば、このときも動物病院へ連れていきましょう。動物病院でやけど(熱傷)部位が見つかることもあります。
患部のやけど(熱傷)の深度の違いにより、臨床症状は異なります。深度が深ければ、生命の危険がある場合もあるので、やけど(熱傷)かどうか迷うときは、迷わずに動物病院で相談をしましょう。
深度の違いによる臨床症状 | |||
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Ⅰ度熱傷 | 発赤や乾燥など | ||
Ⅱ度熱傷 | 深達性Ⅱ度の熱傷が広範囲の場合は全身性の影響がみられることもあります | 浅達性Ⅱ度 | 発赤や浮腫など |
深達性Ⅱ度 | 蒼白化や潰瘍化など | ||
Ⅲ度熱傷 | 壊死による潰瘍 |
猫のやけど(熱傷)の応急処置
部分的なやけど(熱傷)で、さらに受傷後2時間以内で、そして猫が嫌がらないのであれば、流水の洗浄と冷却を30分以上行います。嫌がる場合や30分以上の流水で洗浄と冷却が終わった場合は、濡れタオルや、ビニール袋に氷と水を入れたもの(氷のう)で患部を冷やしながら動物病院へ連れていきましょう。
化学薬品による熱傷(化学熱傷)の場合は、薬品を多量の水で洗ったほうが良い場合もあります。
広範囲なやけど(熱傷)の場合や意識のない場合などは、ぬれタオルで覆い、なるべく動かさないようにして、すぐに動物病院に連れて行きましょう。
猫のやけど(熱傷/火傷)の治療法
やけど(熱傷)の治療は、局所的な受傷部位と全身性反応の2つに対して行われます。
局所的な受傷部位
局所的受傷部位には主に外科的治療を行います。部分的なやけど(熱傷)で、受傷後2時間以内で、猫が嫌がらないのであれば、流水の洗浄と冷却を30分以上行います。その後、創傷被覆剤(そうしょうひふくざい)による傷の保護や湿潤の維持を行います。壊死組織があればそれを除去して創傷を清浄化する治療(デブリードマン)や、感染症があれば抗菌薬軟膏の塗布、疼痛があれば鎮痛薬の投与などを行います。
全身性反応
全身性反応を起こしており、広範囲なやけど(熱傷)した患部を冷却する場合は低体温症や血管収縮に気をつけながら対応します。ショックによる循環障害を疑う場合は補液による支持療法、細菌感染を疑う場合は抗菌薬の全身投与、疼痛を伴う場合は鎮痛薬の投与を行います。
猫のやけど(熱傷/火傷)のケアや予後
やけど(熱傷)の治癒までの期間は、数週間から数カ月単位を要します。
深度の違いによる予後の差
Ⅰ度熱傷は瘢痕(はんこん:傷などが治った後に皮膚面に残る跡)を残さないことが多いですが、Ⅱ度熱傷及びⅢ度熱傷は瘢痕が残ることもあります。猫は外用薬をなめてしまうこともあるので、やけど(熱傷)の治療は難しいものです。患部を舐めすぎることで、無毛になることもあります。また、やけど(熱傷)の患部の表皮が薄くなることで無毛になってしまうこともあります。重症の場合は、患部の外科的切除を行うこともあります。
猫のやけど(熱傷/火傷)の予防法
猫のやけど(熱傷)の原因となるものは家庭の中にたくさんあります。例えば、キッチンの調理台であれば、ガスコンロの直火、高温の熱湯などです。
ストーブのフレームに触れることでやけど(熱傷)を受けることもあります。ガスコンロやストーブを使う時は、猫から目を離さないようにしたり、柵を設けるなどして近づきすぎないように注意しましょう。
また、電気コタツや、カイロ、電気毛布、ホットカーペットなどが低温熱傷の原因となることがあります。猫が直接触れる場合は、バスタオルや毛布などを利用し、直接皮膚が触れないようにしたり、タイマーをかけることで一定時間が過ぎたら電源が消えるように工夫しましょう。
発見が難しい猫のやけど(熱傷/火傷)
猫の体表は毛で覆われているため、やけど(熱傷)をしても、一見しただけではわからないことがあります。そのため、その症状を見逃してしまい、発見と処置が遅れることがあります。また、やけど(熱傷)を発見し、治療をすることとなった場合、傷口を舐めたり、治療を終えても毛が生えてこないこともあります。
ご家庭の中には、やけど(熱傷)をする原因がたくさんあるので、やけど(熱傷)をしないように予防をすることが大事です。このほかにも病気の予防ができますので、予防できるものは予防していきましょう。
参考文献
- Grossら,Skin Diseases of the Dog and cat, 2nd ed, 2005, 94-98, Blackwell Science. Oxford
- Nishiyamaら, Two Canine and One Feline Cases Suspected of Having Thermal Burn from Histopathological Findings,2015, 21(2):77-80 Jpn J Vet Dermatol
- Millerら, Muller and Kirk's Small Animal Dermatology, 7th Edition, Saunders. 2013, 665-666