犬の角膜炎|原因や治療法、放置した場合の失明リスクについて獣医師が解説
角膜炎は黒目の部分に起こり、犬が痛みや痒みで目を掻いてしまうと余計に傷ができて炎症が悪化します。放置すると治るまで時間がかかり、白濁が残ることもあります。原因や症状、目薬の違いなど治療法について、獣医師の佐藤が解説します。
犬の角膜炎とは
角膜は目の中央にある黒目(瞳孔)の部分を覆う透明な膜で、「眼球の保護」「水分を保って透明性を維持」「光を屈折させる(ピント機能)」といった機能を持つ非常に重要な組織です。
犬の角膜は4層に分かれ、外側から「上皮」「実質」「デスメ膜」「内皮」と呼びます。角膜炎は一般的に上皮の炎症(非潰瘍性角膜炎)を指し、実質まで及ぶと「角膜潰瘍(かいよう)」(潰瘍性角膜炎)、デスメ膜や内皮に達するほどの穴が空くと「角膜穿孔(せんこう)」(緊急手術が必要)と呼びます。
角膜は目の先端にあることから外からの刺激を受けやすく、問題が起こりやすい組織です。「角膜炎」は病院でも「結膜炎」と並んで、診ることの多い目の病気です。
角膜炎と結膜炎の違い
結膜は白目の部分(強膜)と上下のまぶたの裏側(眼瞼結膜)を覆う膜で、そこに炎症が起こるのが「結膜炎」です。結膜炎は適切な治療をすれば軽症で済みますが、角膜炎は治療に時間がかかると黒目に白い混濁が残ったり、重症化すると視力に障害が出たりします。最終的に失明してしまう可能性もあります。角膜炎の好発犬種
角膜炎はどの犬種、年齢、性別でも起こります。比較的多いのは目に被毛が入りやすいシーズー、鼻が短く目が出ているパグやフレブル、ペキニーズなどの短頭種、目が大きいチワワなどです。犬の角膜炎の症状
角膜には知覚神経が集まっているため、犬が痛みを感じやすい組織です。問題が起こると以下のような症状が見られます。
- 目がしょぼしょぼする
- 半目、もしくは目を閉じる
- 気にして何度も掻く
- 触られるのを嫌がる
- 涙や目やにが過剰に出る
- 黒目が白く濁る
- 白目や目のふちが赤くなる
- 黒目に血管が生じる(血管新生)
角膜炎は放置して傷や炎症が増えると、治療が長引いたり重症化したりします。愛犬の目にいつもと違う変化、違和感がある場合は様子見をせず、動物病院へ行くようにしてください。
犬の角膜炎の原因
角膜炎の原因はさまざまあり、大きく「外傷性」と「非外傷性」に分けることができます。
外傷性の角膜炎
- 事故(交通事故、喧嘩など)
- 異物の混入(ホコリ、砂、被毛、シャンプーなど)
- 草木や家具などへの接触
- まつ毛、まぶた(眼瞼腫瘍、眼瞼内反症など)の異常による刺激
- 痒みで掻いてしまう
非外傷性の角膜炎
- 感染症(細菌、ウイルス、真菌)
- 他の病気による影響(結膜炎、白内障、緑内障など)
- 免疫の異常(アレルギー、慢性表在性角膜炎、点状表層性角膜炎など)
- ドライアイ(乾性角膜炎)
- 神経の異常(麻痺でまばたきできないことによる乾燥)
慢性表在性角膜炎は血管新生が見られるのが特徴で、ジャーマンシェパードやグレーハウンドに多く見られます。点状表層性角膜炎は白いまだら状の傷が見られるのが特徴で、ダックスやシェルティに多く見られます。
犬の角膜炎の治療法
視診、問診、眼科検査のほか、傷の有無を確認するため「フルオレセイン染色」という染色液を使った検査を行います。特殊な光を当てると傷がある部分の色が変わって見えます。必要に応じて血液検査や神経学検査、CT・MRI検査、涙の量を調べる「シルマーテスト」なども行います。
治療では、感染症がある場合は抗菌薬、炎症を抑えるステロイドもしくは非ステロイドの消炎剤や免疫免疫抑制剤、角膜を保護するための保護剤(ヒアルロン酸)を使用します。ご家庭でも保護剤を点眼することで治癒しやすくなります。その他に影響する病気がある場合は並行して治療を進めます。
傷が治りにくい場合はコンタクトレンズを入れて落ちないようにまぶたを仮縫いしたり(眼瞼縫合)、第三眼瞼(瞬膜)という目頭にある白い膜で角膜を覆って固定するフラップ法を行ったりします。犬が気にして掻いてしまう場合はエリザベスカラーを使用します。
【動画解説】犬の目薬のさし方
YouTubeのPETOKOTOチャンネルでは、犬の目薬のさし方について解説した動画を公開しています。あわせてご覧ください。角膜炎が長引いてしまう場合
点眼を行っても傷が治らず長期化する場合は「再発性上皮びらん」(SCCEDs、スケッズ)が疑われます。その場合、上皮は剥がれたまま実質に接着しないため、外科的な処置を行う必要があります。全身もしくは局所麻酔をかけて機能していない上皮をすべて剥がし、わざと実質に傷を付けて再生した上皮が接着しやすい環境を作ります。まとめ
角膜炎では、黒目の部分に炎症が起きる
深層に進むほど緊急性が増す
原因は外傷性と非外傷性にわかれる
完治させるためにも早期治療が重要