猫の膿胸 | 症状や原因、治療・予防法など【循環器認定医が解説】

猫の膿胸 | 症状や原因、治療・予防法など【循環器認定医が解説】

Share!

猫の膿胸は細菌感染により胸腔内に膿(うみ)がたまって生じる病気です。悪化すると死に至る危険性があります。今回は猫の膿胸の症状や原因、治療法、予防法、対処法・応急処置についてライオン動物病院、苅谷動物病院(循環器科)で勤務医をしている獣医循環器認定医の深井が説明します。

猫の膿胸とは

猫の膿胸は、化膿性滲出液(かのうせいしんしゅつえき)、つまり膿が胸腔内に貯留した状態です。膿胸は、胸腔内に感染が起きて発症します。感染経路は不明なことが多く、以前はケンカなどによる胸部外傷(咬傷)からが有力な原因と言われていましが、近年では呼吸器疾患(肺疾患)からが有力になってきています(※1)。つまり口腔もしくは咽頭の細菌を吸い込むことにより、その細菌は肺へ行き、さらにその細菌が胸腔内に広がった結果として膿胸が起きると考えられています。感染から症状の発現までには数週間の時間がかかります。膿胸は状態悪化に伴い呼吸困難になり、死の危険性がある病気です。

緊急性

あります。

膿胸にかかりやすい猫腫・年代

膿胸にかかりやすい特定の猫腫や特定の年代はありません。

猫の膿胸の症状

猫の膿胸を発症すると以下の症状がみられます。
  • 呼吸困難
  • 非特異的(元気消失/食欲不振/発熱)
  • 発咳

猫の膿胸の原因


猫の膿胸の原因として、以下の3点が挙げられます。
  • 最近の既往歴として、猫ウイルス性鼻気管炎や肺炎など呼吸器疾患を持つ
  • 胸部外傷(咬傷)など(以前ほど一般的な原因とはされていない)
  • 不明(多いです)

猫の膿胸の検査・診断方法

呼吸困難の状態から、まずそれが胸水貯留によるものかどうかを調べます。胸水貯留があるかどうかの検査は、まず聴診を行い、その次に胸部のレントゲンや超音波検査を行なっていきます。

1. 胸水貯留があるかどうかの検査

  • 聴診
    • 心音/肺音が減弱もしくは消失していないか
  • 胸部レントゲン検査
    • 胸水の貯留状態はどうか
  • 胸部の超音波検査
    • 胸水の貯留状態はどうか

次に、胸水が貯留していた場合は、それが膿胸なのかどうかを調べます。膿胸であるかどうかは、胸水の性状検査を行っていきます。また、細菌の検査も行います。

2. 膿胸であるかどうかの検査


  • 胸水の性状検査
    • 化膿性の滲出液であるかどうか
  • 胸水の細菌培養検査および抗生物質感受性検査
    • 細菌が陽性か
    • 適切な抗生物質は何か


猫の膿胸の治療・予後(※2)

原因疾患が特定できればその治療を行いますが、特定は困難なことが多いため、胸水を抜き、胸腔内の洗浄を行い、胸腔内の状態を改善させること、そして全身状態を改善させることを目的として治療を行っていきます。
洗浄および抗生物質の投与により積極的に治療を行った場合には比較的予後は良いですが、子猫や全身状態が悪い場合は予後不良になることがあります。また、長期に胸腔内に膿が貯まっていた場合には、胸腔を包んでいる胸膜が硬くなって線維性胸膜炎になり、肺の正常な拡がりを妨げる状態になってしまいます。

治療法(※2、3)

猫の膿胸の治療法は、基本的には内科療法です。
  • 胸水抜去
  • 胸腔ドレーン設置の上、胸腔洗浄
    • 洗浄は感染がなくなるまで続けますが、5〜7日間程度必要なことが多いです。
  • 抗生物質の投与
    • 抗生物質は、抗生物質感受性検査の結果に基づいて選択していきます。抗生物質は、4〜6週間は必要なことが多いです。
  • 静脈点滴(状態に応じて)

外科療法は、以下の場合に考慮されます。
  • 原因が特定された場合で、内科療法に反応しない場合
    • 例えば、異物や肺に膿瘍ができていてそれが原因と考えられた場合は、手術を検討します。

猫の膿胸の治療薬

抗生物質(感受性検査の結果にもとづいたもの)を使用します。

治療・手術費用の目安

各病院の規定によります。

治療期間・入院期間の目安

全身状態、治療反応によります。

猫の膿胸の予防法

特記事項はありません。

膿胸の猫に良いフード

特記事項はありません。

膿胸の猫に良いサプリメント

特記事項はありません。

外傷だけでなく呼吸器疾患にも注意

猫の膿胸は悪化すると死に至る危険性がある病気です。胸腔洗浄および抗生物質の投与などを積極的に行うことで、一般的に予後は良好です。原因は不明なことが多いですが、呼吸器疾患や胸部外傷(猫同士のケンカなど)の関与が考えられます。呼吸状態が悪かったり、咳をしている場合は、必ず動物病院で診てもらうようにしてください。

引用文献

1) Stillion JR, Letendre JA. A clinical review of the pathophysiology, diagnosis, and treatment of pyothorax in dogs and cats. Journal of Veterinary Emergency and Critical Care . 2015 25(1). 113–129 2) Richard W. Nelson, C.Guillermo Couto. Small Animal Internal Medicine, 4th ed, 2008 ; Mosby 3) Theresa Welch Fossum. Small Animal Surgery, 3rd ed, 2008 ; インターズー

第2稿:2017年11月1日 公開 初稿:2017年1月1日 公開