猫の皮膚糸状菌症(猫カビ)とは | 症状や原因・治療法・薬など【認定医解説】
猫の皮膚糸状菌症(猫カビ)は、真菌(カビ)によって起こる皮膚疾患で、特に長毛の猫は注意したい病気です。人間にもうつる病気なので、感染が疑われる症状が見られたら、早めに動物病院に連れて行くと良いかもしれません。今回は、猫の皮膚糸状菌症の症状や原因、治療法などについて皮膚科認定医の春日が解説します。
猫の皮膚糸状菌症とは
猫の皮膚糸状菌症は、皮膚糸状菌という真菌(カビ)によって起こる猫の皮膚病です。なお医学領域では、皮膚糸状菌症と白癬は同じ意味で用いられているようです(※1)。皮膚糸状菌はケラチンを好むため、毛や皮膚表面に感染します。原因は「ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis:イヌ小胞子菌)」であることが多く、他に「ミクロスポルム・ギプセウム(Microsporum gypseum:石膏状小胞子菌)」や「トリコフィトン(Trichophyton spp.)」の感染が報告されています(※2)。猫だけではなく、犬やげっ歯類などにも感染し、さらに人間にも感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)です。
皮膚糸状菌症が出やすい猫種・年代
猫の皮膚糸状菌症は、免疫力の弱い子猫および基礎疾患がある場合、また多頭飼育の環境での発症が多いです。また、短毛種よりも長毛種の方が皮膚糸状菌症になりやすく、グルーミングの影響や遺伝的な影響(ペルシャ猫など)が示唆されています(※3)。症状
猫の皮膚糸状菌症の症状は、さまざまな程度の鱗屑(りんせつ:皮膚表面の角質細胞が剥がれたもの)を伴う円形の脱毛がみられます。痒みは通常軽度ですが、時に強い痒みを伴うこともあります。この病気は、顔や四肢に好発する傾向があります。人間に感染した場合は、特徴的な赤い環状の病変(リングワーム)を形成します。原因
猫の皮膚糸状菌症の原因は、ミクロスポルム・カニスであることが多く、他にミクロスポルム・ギプセウムやトリコフィトンの感染が報告されています(※2)。また、猫の皮膚糸状菌症は、感染動物との接触や土壌などの環境中や汚染された器具などから感染します。検査・診断方法
臨床症状で猫の皮膚糸状菌症を疑い、病変部の直接鏡検で皮膚糸状菌が検出されれば確定診断となります。また、必要に応じて以下の検査を行います。ウッド灯検査
ミクロスポルム・カニスは360nmの波長の紫外線を照射すると蛍光を発する性質を持つので、そのことを診断に応用している検査です。ただし、すべてのミクロスポルム・カニスが蛍光を発するとは限らず、他の皮膚糸状菌では蛍光を発しないので注意が必要です(※2)。培養検査
皮膚糸状菌は培地で増殖する際、タンパク質を分解するため培地がアルカリ性に傾く性質を持ちます。そこで、pH指示薬の入った培地に、感染が疑われる部位の被毛や落屑(らくせつ:皮膚の角質が剥がれ落ちたもの)を培地に接種し、コロニーの特徴や色の変化(アルカリ性に傾いたか)を確認します。治療法
猫の皮膚糸状菌症の治療は、抗真菌薬の外用療法による治療と内服による全身療法があり、必要に応じて毛刈りやシャンプーを行う場合もあります。外用療法による治療
局所感染の場合は外用薬(塗り薬)による治療も可能ですが、十分に治療できない場合もあります。抗真菌薬による全身療法
抗真菌薬による全身療法は、皮膚病変が多数ある場合や長毛種の場合に選択されます。通常、治療には数週間〜数カ月必要とします。猫に用いられる抗真菌薬の例
- イトラコナゾール(※4)
- トリアゾール系抗真菌薬で真菌感染に広く適応されます。
- 空腹時よりも食事と服用したほうが吸収が良いです。
- 副作用として食欲不振、消化器症状、肝障害などがあります。
- ケトコナゾール(※4)
- イミダゾール系抗真菌薬で、さまざまな真菌感染症に適応されます。
- 酸性条件の方が吸収が良いためH2遮断薬などの併用を避けます。
- 副作用として食欲不振、消化器症状、肝障害を生じやすいとされています。
毛刈りやシャンプーによる治療
毛刈りやシャンプーによる治療は、感染被毛や落屑の環境中への飛散を防ぐことができるとされています(※2)。しかし、施設や設備の汚染や、人間への感染には気を付けなければなりません。予後
猫の皮膚糸状菌症の予後は、健康な猫では自然治癒することがありますが、長毛種では短毛種に比べて時間が掛かると報告されています(※2)。治療の目的には環境や他の動物および人間への接触感染を減らすことも含まれています。皮膚糸状菌は環境中で長期生存することが可能なため、動物の治療のみならず飼育環境を徹底的に清潔にし、消毒することが重要です。消毒は、塩素系漂白剤(5%次亜塩素酸ナトリウム)を希釈したものが効果的(※2)ですが、塩素系漂白剤は脱色作用や腐食作用があるので注意しなければなりません。なお、具体的な消毒や洗浄方法についてはかかりつけの動物病院でご相談ください。
まとめ
猫の皮膚糸状菌症は、皮膚糸状菌という真菌(カビ)によって起こる猫の皮膚病です。また猫だけではなく、犬やげっ歯類などにも感染し、さらに人間にも感染する人獣共通感染症です。そこで、この病気と診断されたら、治療法や消毒法について獣医さんとよく相談されると良いでしょう。
※引用文献
- 公益社団法人日本皮膚科学会「皮膚科Q&A 白癬(水虫・たむしなど)(2017.6.22)
- Miller, W.H., et al. 2013. Muller and Kirk’s Small animal Dermatology 7th ed, Elsevier, St Louis. pp. 231-243.
- Deboer D. J., Moriello K. A. 1995. Clinical update on feline dermatophytosis-part 1. Compend Contin Educ 17: 1197.
- 桃井康行 2012. 小動物の治療薬 第2版, 文栄堂出版, 東京. pp. 39-42.