犬の口蓋裂|原因や手術、費用について獣医師が解説

犬の口蓋裂|原因や手術、費用について獣医師が解説

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犬の口蓋裂(こうがいれつ)は口と鼻の境にあたる口蓋に穴が空いてしまう病気です。原因は先天性・後天性に分かれ、いずれも穴をふさぐことが根本治療になります。子犬は手術ができるまで育つのを待つ必要があり、食事の誤嚥リスクを避けるためカテーテルを使った経管栄養が必要です。今回は犬の口蓋裂について、獣医師の佐藤が解説します。

犬の口蓋裂とは

柴犬

口蓋(こうがい)は口(口腔)の天井部分を指し、鼻(鼻腔)との境になる組織です。口蓋は前後に分かれ、手前の硬い部分を「硬口蓋」、奥の柔らかい部分を「軟口」と呼びます。その口蓋に穴が空いて口と鼻がつながった状態になる病気が「口蓋裂」(こうがいれつ)。です。

口蓋裂は純血の短頭種に多く見られる遺伝性疾患ですが、後天的に空いてしまう場合もあります。食事や飲水、呼吸がうまくできなくなることから発育不良や日常生活への支障が起きやすく、誤嚥性肺炎などにつながることもあり放置すると死に至る可能性もあります。

犬の口蓋裂の症状

ボストンテリア

口蓋裂は唇が裂ける口唇裂(こうしんれつ)を併発することもあり、顔の変形が見られることから口唇裂があれば見た目ですぐにわかります。口蓋裂では咳をしたり、むせたり、鼻から母乳(ミルク)や水を逆流させたりすることから気づきやすい病気です。

  • 咳、くしゃみ
  • 鼻水
  • いびき
  • 食事・飲水中にむせる
  • 鼻から水やごはんが逆流する
  • 過度のパンティング(ハァハァという息づかい)

口蓋裂ができやすい犬種

口蓋裂はボストンテリアやブルドッグ、フレンチブルドッグ、ペキニーズなど純血の短頭種で遺伝的に起こりやすいと言われています。その他にもキャバリアやパピヨン、レトリバー種、ミニチュアシュナウザー、トイプードルなどの純血種で見られますが、雑種でも起こる可能性はあります。

犬の口蓋裂の原因

フレブル

犬の口蓋裂の原因は「先天性」と「後天性」の2つにわけられますが、多くは先天性の遺伝性疾患です。

先天性口蓋裂

先天性の場合、妊娠3~4週目に口蓋が正しく閉じられなかったことで起こります。原因として遺伝のほか、ビタミンAの過剰摂取や葉酸の欠乏、ウイルス感染、ステロイドやアスピリン、抗がん剤などの投与が考えられます。

後天性口蓋裂

後天性では歯周病や咬傷(犬同士の喧嘩)、感電、口腔内異物による外傷(尖ったものを口に入れてしまった場合など)、交通事故によって穴が空いてしまったり、メラノーマ(悪性黒色腫)など口腔内腫瘍の治療に伴って穴が空いたりします。


犬の口蓋裂の治療法

ジャックラッセルテリア

口蓋裂は硬口蓋であれば簡単に診断できますが、奥にある軟口蓋は視認するために鎮静剤や全身麻酔を必要とすることがあります。軽度の口蓋裂では、見逃されて慢性鼻炎や蓄膿症と診断されてしまうこともあります。

口蓋裂の手術

後天性の口蓋裂では自然治癒する場合もありますが、基本的には外科手術で穴をふさぐことが根本治療になります。

外科手術では穴の両側を切開して左右から寄せるようにして口蓋を作り、口腔と鼻腔を分離します。穴の大きさや位置(硬口蓋か軟口蓋か)によって術式が変わります。穴が大きいと手術後に空いてしまうことも多く、完全に閉じるまで複数回の手術が必要になる可能性があります。

シニア犬(老犬)など全身麻酔のリスクが高かったり、穴をふさげるほど左右の組織に余裕がなかったりして外科手術が難しい場合は、シリコン製の口蓋キャップを装着する治療法もあります。

子犬に手術を行う場合

子犬の口蓋裂は未成熟では縫合しても再び空いてしまう可能性や全身麻酔のリスクを考慮し、生後2〜4カ月まで育つのを待って行います。それまでは誤嚥リスクを避けるため、カテーテルを使って流動食を投与する経管栄養を行います。

手術後の食事管理

手術後は食事などで手術部位が破れやすくなっているため、硬い食べ物は避けて流動食を与えるようにします。

口蓋裂の手術費用

手術費用は動物病院によって異なりますが、検査から全身麻酔、手術まで含めて1回15万円〜が目安になります。再手術になった場合はその都度、費用が発生しますので獣医師とよく相談されることをお勧めします。

犬の口蓋裂の予後・寿命

手術によって穴を閉じることができれば予後は良好ですが、感染症による鼻炎など合併症の治療が長期にわたる場合があります。なお、先天性口蓋裂は遺伝性の可能性が高いことから、繁殖は推奨されません

まとめ

ヨークシャーテリア
口蓋裂は口に鼻とつながる穴ができる病気
放置すると誤嚥性肺炎で死に至る可能性も
外科手術で穴をふさぐことが根本治療になる
手術まではカテーテルによる食事投与を行う
口蓋裂は出生時点で発症している遺伝性疾患であることが多く、適切な処置を行って穴をふさぐ手術をしなければ誤嚥性肺炎や呼吸困難によって死に至る可能性があります。手術は難度が高く再手術が必要になることも少なくありませんので、獣医師とよく相談して治療方針を決めるとよいでしょう。

参考文献