犬のメラノーマ(悪性黒色腫)|症状・なりやすい犬種や年齢・治療法・予防法などを獣医師が解説
犬のメラノーマ(悪性黒色腫)は犬の口腔腫瘍で多い悪性腫瘍の一つです。皮膚や爪床(爪の下)、目にできることもあります。この中で転移、浸潤といった悪性の性質を持つことが多いのは口、喉、歯茎などの口腔と爪床にできるものです。黒色の腫瘤を形成することが多く、黒いできものに気づいて来院されることが多いです。その他、口臭や口腔内の出血などで来院されることもあります。ここでは主に発生が多く、悪性度の高い口腔内にできるメラノーマについて解説し、しこりを見つけた場合やメラノーマと診断された犬の飼い主さまが少しでもこの腫瘍を知り、主治医の先生と治療方針を話し合いやすくなるよう、遠軽わっか動物病院院長の田中が紹介します。
犬のメラノーマとは
犬のメラノーマの中で最もよく見られるのが口腔内メラノーマ(口腔内悪性腫瘍)です。歯肉に発生することが多く、口唇、頬粘膜にも発生します。まれに舌に発生することもあります。他には爪床に発生することもあり、口腔内と同様転移や浸潤といった悪性の性質を持つことが多いです。
皮膚や目に発生することもあり、黒色のしこりができるため飼い主さまが気づかれることも多いです。皮膚や目にできるものは口腔や爪床のものと比べると良性であることが多いとされていますが、はっきりしたことは見た目だけでは分からないため発見した時点で早期に診断をすることがその後の治療に重要となります。
口腔内に発生するメラノーマは悪性度の高いものであることが多く、しこりを形成し、骨に浸潤したり、大きくなったしこりに口腔内の細菌が感染することで、ひどい口臭になったりすることが多いです。
メラノーマになりやすい犬種・年齢
高齢犬で発生することが多く、平均年齢は10〜12歳とされています。コッカースパニエルやダックスフンド、プードル、ゴールデンレトリーバーなどの犬種で発生が多いとされていますが、どの犬種にも発生しうる腫瘍です。性別による発生の差ははっきりしていません。犬のメラノーマの症状
黒い腫瘍ができることが多いです。メラノーマが生じた部位によって症状は異なりますが、最もよく見られる部位である口腔内の場合は、ひどい口臭、歯茎からの出血といった初期症状が出ます。進行すると、口腔内だけに留まらずリンパ節や肺に転移します。
犬のメラノーマの検査・診断
診断は見えるしこりを一部切除することにより病理診断することで行います。病理診断には種類があり、細い針で細胞を調べる細胞診、もしくは腫瘤の一部をとって検査する組織生検などで行います。
通常病理検査のための組織をとるためには麻酔をかける必要がありますが、ここで切除するのはあくまで診断のためであり、見た目は腫瘍がなくなったように見えることもありますが、口腔内メラノーマであれば通常再発が認められるため、診断後に外科的に再度広範囲に追加切除をしなければならないことが多いです。
メラノーマはできた部分だけではなく、肺やリンパ節などに転移することが多く、診断された時点で転移しているケースも珍しくありません。そのため、口腔内や爪床のメラノーマが疑われる場合、レントゲンやリンパ節の細胞診などの検査も行い、診断時に明らかな転移が成立していないかを判断します。
犬のメラノーマの治療法
メラノーマの治療には主に以下の4つの治療法があります。
- 外科治療
- 放射線治療
- 抗がん剤治療
- 免疫療法
治療は局所の腫瘍をいかにコントロールするかと転移の制御の両方を考慮する必要があります。そのため、メラノーマの疑いがある場合や診断された時、その時点でどこまで拡がっているのかを把握することが重要です。
例えば下顎の骨に浸潤しているケースやリンパ節や肺に転移していることもあるためレントゲン検査やCT検査、リンパ節の針生検を行って拡がりを把握します。
外科治療・放射線治療
局所の治療は外科治療、放射線治療がメインとなります。見えている腫瘍を摘出するだけではすぐに再発してしまうことが多いため骨ごと切除するような積極的な外科治療が適応となることもあります。放射線治療は有効なことが多いですが大きな腫瘍には効果が薄いことが多く、外科治療後の補助治療として行うことで効果が上がりやすいとされています。放射線治療ができる施設は限られているため主治医の先生と話し合い、治療方針を決めて行く必要があります。
抗がん剤治療・免疫療法
外科治療や放射線治療で口腔内の腫瘍をコントロールすることが重要ではありますが、残念ながら口腔内の腫瘍がコントロールできていたとしても、リンパ節や肺などの他の臓器への転移を防ぐことは困難です。そのため見える腫瘍を除去した後は抗がん剤治療や免疫療法などの全身に効果のある治療に進むことで、転移の機会を抑えることが多いです。
犬の口腔内メラノーマは完治が難しい?
口腔内のメラノーマは悪性度が高く、根治が難しい腫瘍です。口腔内のメラノーマと診断された犬の飼い主さまの中には「完治しないのなら……」と治療を希望されない方もいらっしゃいます。しかし、口腔内の腫瘍の治療を行わないと、よだれや感染による口臭、不快感から腫瘍を掻きむしってしまい大量に出血するなど、愛犬の生活の質は著しく低下します。
治療を選択する上でさまざまな悩みが生じると思いますが、口腔内の病変を取り除くことで、たとえ将来的に転移が出てきたとしても、それまで口臭や不快感、出血から解放され、快適な生活を送れる可能性は十分にあります。
犬のメラノーマの予後
一般的に口腔のメラノーマは進行の早いものが多く、発見時の腫瘍のステージにもよりますが、治療をしなかった場合の生存期間は65日との報告があります。現在のところ積極的な外科治療と抗がん剤治療の併用が最も治療成績が良いとされています。犬のメラノーマの予防
原因が明らかになっていないため、予防ができない病気ですが、紫外線など愛犬に慢性的な外的刺激を与えるものは避けたほうが無難とは考えられています。
しかし予防を意識し過ぎて散歩に行かないなどになってしまうとかえって愛犬にストレスを与えてしまいかねません。そのため予防策を講じる、というよりは定期的な健康診断により、早期発見・早期治療をおすすめします。