猫の夜鳴きがうるさい!原因・対処・治療法を行動学担当獣医師が解説
猫にとって「鳴く」という行動は正常なコミュニケーション行動の一つですが、ときに痛みや認知機能不全、不安・葛藤などにより過剰に鳴くことがあります。そのため、しっかり原因を見極めなければその異常なまでの鳴き声をおさめることはできず、むしろ苦痛に感じさせる時間を長くしてしまうかもしれません。それはヒトとの共同生活を行う上でも大きな問題となってきます。例えば、「鳴き声がうるさくて夜寝られない」「近所迷惑だ」「鳴く原因がわからないので不安だ」などが挙げられますし、「うちの子はそんなに鳴かないから困ってないよ」というケースでも、年を取ってくると出てくることもあります。そんな鳴き声が問題になるのは日中よりも夜の寝静まった頃です。そこで、今回は過剰な発声が夜に生じることを「夜鳴き」と呼ぶことにし、そこに焦点を当てて獣医師の鵜海が行動学的に解説します。
猫の夜鳴きとは?
先にも述べた通り、猫にとって鳴く行動自体は正常なことです。ただ、よく鳴くことは問題行動となり得ます。そのことを行動学的には「過剰発声」(Excessive vocalization)といいます。獣医学において動物に対して「夜鳴き」という言葉は用いませんが、本稿ではわかりやすく夜の過剰発声を「夜鳴き」と通称させていただきます。「でも猫って夜行性って聞いたことあるから、夜鳴いちゃうのはしょうがいないんじゃないの?」と思われる方もいるかもしれません。実は、猫は「夜行性」でなく、「薄明薄暮性」(はくめいはくぼせい)といわれる活動周期で、早朝と夕暮れ時に活発に動く動物です。そのため基本的に真夜中は活動的ではありません。猫を飼っている方が早朝によく聞く「にゃ~(朝ゴハンくれ~)」というのは、薄明薄暮性に関連しているのです。
※動物の行う行動は「正常行動」と「異常行動」に分けられ、正常行動は一般的に「健康な動物が生来行う行動」で、異常行動は「正常行動以外の普通ではない行動」を指します。それとは別に、問題行動は「飼い主が問題と感じる行動全部」を指します。
猫の夜鳴きの医学的問題(基礎疾患)、行動学的問題
夜鳴きの原因が何かがわかれば対応も変わってきます。一概に、「夜鳴きしているからこれやればOK!」というものはありません。まずは考えられる原因探しから始めなければなりません。そこで重要なのは、「医学的問題(基礎疾患)があるのかないのか」の判断です。病気を患っているせいで夜鳴きしているのであれば、どれだけ環境整備をしようが、どれだけ接し方を変えようが、一向に鳴くことはおさまりません。
「夜鳴きが最近多くて気になる!」という方は、まず病気かどうかの判断をかかりつけの動物病院に任せましょう。もし検査で病気が判明するのであれば、その治療を最優先に行っていくべきですし、基礎疾患がなさそうであれば行動学的問題としてアプローチしていきましょう。
以下に夜鳴き時に考えられる問題を医学的問題と行動学的問題に分けて列挙しました。
医学的問題(基礎疾患)による夜鳴き
- 疼痛(身体のどこかが痛いために鳴く)
- 甲状腺機能亢進症といった内分泌疾患(活動性が上がる一環として鳴くことがある)
- 高血圧といった心血管系疾患
- 認知機能不全症候群(不安・葛藤や性格、睡眠周期の変化が生じ鳴く)
- 脳神経疾患、脳腫瘍(不安・葛藤や性格変化が生じて鳴く、部分発作や発作前後の一症状として鳴くこともある)
- てんかん発作(部分発作や発作前後の一症状として鳴くこともある)
行動学的問題による夜鳴き
- 雌猫の発情(正常行動)
- 飼い主に対するもしくは猫同士の攻撃行動(威嚇や興奮、恐怖のために鳴く)
- 分離不安(飼い主に戻ってきて欲しいために鳴く、離れたことによる不安・葛藤からの転位行動)
- 関心を求める行動(飼い主の注意を引くために鳴く)
- 恐怖、不安、葛藤(助けを求め鳴く、不安・葛藤からの転位行動)
性格的に鳴きやすい品種はオリエンタル種(特にシャム猫)といわれています。「これから猫を飼おう! けど近所迷惑にならないか不安だな……」という方は、シャム猫は避けたほうがいいかもしれません(現在勤めている病院のシャムっぽい柄の猫もよく鳴いているところをみます)。
猫の夜鳴きの対策、治療、薬
原因がわかったら次は対策と治療です。ここでは医学的問題(基礎疾患)のそれぞれの治療や対策は割愛させていただき、行動学的問題のアプローチ例を書かせていただきます。※どんな問題行動であれ、行動学的問題に関しては1匹1匹の原因が全く異なり、治療方法もオーダーメイドとなります。以下はあくまで参考まで、としてお願いいたします。細かい治療方法はかかりつけの先生か行動診療科の先生に任せましょう!
医学的問題の対策
原因となる疾患の治療を第一に進めます。行動学的問題の対策
性行動
性行動であれば避妊去勢手術を実施する。生活環境に対する問題
恐怖・不安・葛藤、不満など生活環境に対する問題であれば、原因となるものを改善する。例えば、落ち着いて休息できる場所がないのであれば、キャットタワーなどを設置し、高い場所に避難できるようにする。家の中に恐怖や不安を感じるもの(光ったり、大きな音が鳴ったりするものなど)が置いてあるのであれば、猫が通る場所に置かないようにする、など。
同居人に対する問題
分離不安や社会的苦痛、関心を求める行動、恐怖・不安・葛藤、要求行動など、同居人に対する問題であれば、人間側の接し方や行動を見直す。例えば、子供が追いかけてきてストレスであれば、上記と同様に高い位置に避難できるようにする。特定の家族の接し方が過剰であったり、恐怖や不安を感じたりするのであれば、節度をもって接し、体罰や恐怖を感じるようなことはしないように心がける、など。
同居動物に対する問題
同居動物に対して社会的苦痛、恐怖・不安・葛藤などの問題があれば、同居動物との飼い方を見直す。例えば、特定の猫がいると快適な生活を送れないのであれば、互いに隔離できるなら隔離し、できないのであれば片方の猫をケージに入れている間はもう片方の猫を部屋に出すなどし、なるべく互いに接しないように飼う。同居動物に対して社会的葛藤があるなら居住スペースを1階と2階で分ける、など。
原因がよくわからない場合や、上記でも改善が困難と思われる場合は、他にできる対策がないか、思ってもみない原因がないか行動診療専門の獣医師に相談してください(日本獣医行動研究会公式サイト)。
恐怖・不安・葛藤が原因と考えられる場合は、フェイシャルフェロモン(フェリウェイ®)や抗不安作用があるサプリメント(ジルケーン®)、抗うつ薬や抗不安薬を使用することもあります。特に、取り除けない恐怖・不安・葛藤があれば、お薬に頼らざるを得ないかもしれません。
猫の夜鳴きは飼い主さんへのメッセージかも
以上、行動学的観点から猫の夜鳴きについて書かせていただきました。前の記事でも述べましたが、交通事故や感染症といったことなどにより、以前よりも完全室内飼いの猫が増えてきています。共同生活の中で、多少の鳴き声であれば耐えられるかもしれませんが、かなり鳴かれるといくら可愛い愛猫でも快適な共同生活は難しくなってきます。鳴くこともそうですが、動物のどんな行動であれ、その行動には生じる意味があります。猫たちは病気を患ったり、人とのコミュニケーションが不足していたり、生活環境に対して満足でなかったりした場合、異常行動や問題行動といった形で何かしらのサインを投げかけてきてくれます。そのメッセージを見逃さず、困ったことがあれば、まずは行動診療を扱っている獣医師に相談しましょう! この記事により、1人でも多くの人と1匹でも多くの動物が最良の形で共生できるよう願っています。
参考文献
- Debra F.Horwitz, Jacqueline C.Neilson『小動物臨床医のための5分間コンサルト 犬と猫の問題行動 診断・治療ガイド』インターズー
- 森裕司、武内ゆかり、南佳子『臨床行動学』インターズー
- 荒田明香、武内ゆかり「高齢犬・高齢猫の行動変化」『MVM(高齢動物特集)』2016年4月臨時増刊号、p153-165
- 水越美奈『犬と猫の問題行動の予防と対応』緑書房