犬の床ずれ|症状・原因・治療法・対処法、防止グッズなどの予防法を在宅ケア専門獣医師が解説

同じ姿勢でいる時間が長くなると、筋肉量が少なく骨が床に当たる部分は皮膚のトラブルを引き起こし、床ずれと同じような状況になる事があります。床ずれの予防法やできてしまった場合の対処法について、知識の準備をしておきましょう。今回は犬の床ずれについて、ペットの往診・在宅ケア専門サービス「にくきゅう」代表で獣医師の立石が解説します。

犬の平均寿命は14歳まで伸び、シニア期が長くなったことで介護が必要になるケースが増えてきました。寝たきりまではいかなくとも、シニア期には徐々に寝ている時間が長くなり、活動量の低下が筋肉量の低下を招きます。寝たきりになると排泄や食事の介助などの介護が必要になりますが、床ずれの問題も軽視できません。

犬の床ずれとは

マットや布団、車椅子などと接触する部分の皮膚が長時間、圧迫され続けて血流が悪くなると、皮膚や皮下組織、筋肉などへ酸素や栄養が行きわたらなくなり、死んでしまった状態になります。これを医学的に「褥瘡(じょくそう)」、一般的には「床ずれ」といいます。皮膚がダメージを受けた箇所には穴が開き、皮膚の下の組織が露出してしまいます。この状態は出血や感染を起こしやすく、痛みなどの苦痛は食欲や全身状態に悪影響をおよぼします。

犬の床ずれの原因

人間の文献からの引用ですが、自分で寝返りが打てなかったり、不調で同じ体勢が続くことが直接の原因となります。尿や便によって湿っていたり、逆に皮膚が乾燥していたりといった状態が続くことも原因となり、犬の場合もほぼ同様と言えます。

床ずれの原因

人と犬の違いとして、犬の場合は全身に被毛があるため、それが皮膚の保護になるメリットと、感染源になるデメリットの両方を考慮する必要があることが挙げられます。

犬の床ずれができやすい部位

肩、肘、腰、かかとなど筋肉が薄く、横になった時に骨が床に強くあたる場所が床ずれのできやすい場所です。寝ている姿勢の時に身体の下面に手を入れてみて、骨が出っ張っている箇所や体重が強くかかっている部分が注意すべき場所です。クッション等で圧迫を軽減するとともに、皮膚の状態を注意深く観察しましょう。

床ずれができやすいところ

犬の床ずれの症状

「皮膚が赤くなる」「ジクジクする」「毛が分泌物でべたべたしてきた」などの症状は床ずれの始まりかもしれません。毛を掻き分ける、刈るなどで皮膚の状態をよく確認しましょう。一晩で急に床ずれが発生することもありますので、危険箇所の見極め、観察、体圧の分散が必要です。

床ずれは化膿すると周囲の組織にダメージを与え、深く大きくなってしまいます。皮膚の湿り気や汚染が悪化を加速させるので、清潔に保ちやすくするために必要であれば毛刈りをします。化膿した場合は抗生物質などの適切な使用が必要となるので、早めに獣医師の診察を受けましょう。


犬の床ずれの治療法

基本的な考え方として、床ずれはできてから対処するのではなく、できないように予防することが大事だと覚えてください。できてしまった場合は進行させないようにすることしかできない事もあります。身体の状態によっては治せるものもありますので、その場合の基本的な治療法を紹介します。

清潔に保つために必要な処置

室内の清潔な場所で管理しましょう。湿度、温度、換気のコントロールがしやすく、こまめにケアできる場所が望ましいので、リビングなどの家族が集まる場所がお勧めです。痛みに注意しながら、可能であれば床ずれよりひと回り大きく毛を刈りましょう。ぬるま湯で傷の周囲を洗い流したら、ガーゼやタオルなどで押さえるようにしてしっかりと水分を取り除きます。

傷の修復を促すための処置

体圧の分散など、後述の予防法を行なう事は必須です。その上で傷が乾燥しないように、また、蒸れすぎないようにコントロールする必要があります(湿潤療法)。獣医さんの診察を受け、塗り薬や貼り薬の処方があれば、それに従って下さい。

家庭で代用できるものとしては、食品用のラップで皮膚の穴を覆うようにし、周囲をテープで固定します。この時、傷から出てくる余分な体液は逃す必要があるため、周囲の一片はテープで固定せずに、開放しておきましょう。分泌液が多い場合は、ラップよりも三角コーナー用の穴あきのビニールを使って、上からガーゼなど水分を吸収してくれる素材を当てておきます(母乳用のパッドがお勧めです)。ガーゼは濡れたらこまめに取り替えましょう。

 


犬の床ずれの予防法

基本的に、硬い物同士が当たる、擦れることで床ずれが発生するので、それを和らげてあげるパッドやクッションなどを当て、一箇所に圧力がかかるのを防ぎます。この時、皮膚が圧迫されて血流が妨げられてしまうと逆効果なので注意が必要です。

オムツを活用して清潔に保つ

排泄物などで身体が汚れた部位は床ずれができやすくなってしまいます。汚れたら早めに洗い流す、ふき取るなどをして、清潔に保てるようにしましょう。特に大型犬は寝たきりになると全身のシャンプーが難しくなるため、オムツやパッドなどを上手に使い、汚れが最小限になるようにした方がよいと思います。

オムツに抵抗がある方もいるかもしれませんが、腰骨の床ずれを防ぐ効果もありますので、早くから慣れさせておいた方がいいかもしれません。ただし、オムツは長時間付けっぱなしにすると膀胱炎や皮膚炎の原因となってしまいます。1回の排泄を吸収できる能力やサイズを選ぶこと、排泄したら早めに取り換えてあげることを心掛けて下さいね。

介護グッズの活用で明るく前向きに

かかと等の擦れを防止するのに、タオルを巻いたり、靴下や人用のリストバンドなども役立ちます。


マットは体圧の分散に役立ちます。基本的に少しの介助で自分で寝返りを打てる場合は高反発マットの方がお勧めです。床ずれを起こしてしまった箇所には低反発クッションを併用しましょう。

介護生活になると食事も上手に食べられなくなり、介助が必要となることが多いです。食べこぼしや粗相など、汚れてしまう事も多くなるため洗えるカバーがついているものや、マット本体が洗って乾燥させることができるものを選ぶこともポイントの一つです。カバーは専用のものでなくても代用できますが、ズレてしまって役に立たないなどのストレスを考えると専用のもので洗い、替えも用意できるといいですね。

最近はペット用の介護グッズもバリエーションが増え、可愛い柄のものなども増えてきました。暗くなりがちな介護生活ですが、少しでも明るく前向きな気持ちで続けられるようモチベーションが上がるものを選ぶのも飼い主さんの精神的な支えになるかもしれません。


体位変換はこまやかに

ワンちゃんによっては好きな向きや体位があるので、せっかく体位変換しても自力で元に戻ろうとしてしまう子もいます。どんなに優れた介護グッズを利用しても、体位変換をこまめに行なうことが前提となります。右に倒れて寝るか、左に倒れて寝るかの2パターンではなく、床面を起点にして180°使えるのですから、2〜3°の変換でも体圧の掛かり方を変える事が可能です。

体位変換は180°使えるのですから、2〜3°の変換でも体圧の掛かり方を変える事が可能です

使用しているマットや体重、体勢によっても異なりますが、床ずれ防止のためには2~3時間ごとの体位変換が望ましいです。内臓は左右非対称ですので、いつも同じ側に体重がかかると内臓も血流が悪くなり、機能の低下につながります。自力で身体を支えることができないため、クッションや丸めたバスタオルなどをマットの下に入れて身体を支えるように補助しましょう。

変換の際、背中を下にして足を持って体位を変えるのは内臓の負担や背中の床ずれの原因となるため、お勧めできません。できるだけ手足を曲げ、背中が上にくるような姿勢(いわゆる「伏せ」の姿勢)に戻した後、変換したい角度に調節するようにしましょう。この時、余裕があってワンちゃんが嫌がらなければ、手足の曲げ伸ばしやマッサージなどを行えると、むくみや関節が固くなるのを予防できます。関節が固まってしまうと、体位変換も限られた角度でしかできなくなるので、早い段階から取り入れられるとよいですね。

犬の床ずれは予防が大事です

床ずれは、介護生活が始まると必ずといっていいほど多くのワンちゃんが直面する問題です。いったんできてしまうと治すことは難しく、予防することが重要です。床ずれの痛みはワンちゃんにとって強いストレスとなり、食欲低下や睡眠障害にもつながります。最終的にはこういった障害が痴呆や夜鳴きなど、飼い主への肉体的・精神的負担へもつながっていき、介護の問題を大きくしてしまいます。

体重の軽い小型犬であれば、女性1人でも介助が可能ですが、中型犬以上になると家族の協力が不可欠です。人間の場合もそうですが、家族の1人にだけ大きな負担がかからないように、家族全員がチームとなってできる事を協力し合えるよう、日頃からワンちゃんを中心としたコミュニケーションを欠かさないようにすることが大切です。

動物を飼うということは、「生命を預かる」ということ

終生飼育はもちろんのこと、病気や介護に関しても最期まで苦痛なくお世話をしてあげられる覚悟があるか、飼育を開始する時から自問し、飼うと決めたのであれば飼い主の責任を果たす決意を最期まで持ち続けて下さい。そして、介護に疲れた時には、老犬ホームやデイケアなどの施設や、動物病院など、一時的にでも頼れる存在を利用しましょう。介護は頑張り過ぎると続きません。ワンちゃんとの良い関係を保っていくためにも1人で抱え込まず、周囲の協力を求めましょう。きっと良い理解者が見つかりますよ。


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