【獣医師監修】犬のレントゲン検査で何がわかる?獣医師が撮り方や安全性を解説

【獣医師監修】犬のレントゲン検査で何がわかる?獣医師が撮り方や安全性を解説

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レントゲン検査は犬に限らず飼い主さん自身も経験があると思いますので、病院で行う検査の一つということはご存じの通りだと思います。しかし具体的に、「レントゲンで獣医師は何をみているのか?」と聞かれるとなかなか説明できない人が多いと思います。そこで今回は、犬のレントゲン検査でわかる異常・病気や検査の流れ・撮り方、飼い主さんが気になるであろう安全性について、獣医師の佐藤が解説します。

犬のレントゲン検査とは

レントゲン検査は「X線検査」とも呼ばれているもので、X線を使って体内の様子を外側から調べる検査です。この検査で対象となるのは、「胸部」「腹部」「運動器」(特に骨)など全身にわたります。レントゲンには実際のレントゲンフィルム(写真のように現像を必要とするもの)とデジタル画像(フィルムは使わずモニター等で見るもの)の2種類あり、デジタルのほうが鮮明で拡大したり、白黒(コントラスト)の調節ができます。現在は動物病院でもデジタル化が進み、レントゲンで(結論を出せる)診断率が向上しています。

レントゲン検査では、X線が通りにくい骨などは白く写り、X線が通りやすい空気(肺)などは黒く写ります。そして組織の厚みやレントゲン透過性(骨なら白、臓器なら灰色)を組み合わせることで臓器の位置、形、大きさ、レントゲン透過性、数などを判断します。造影剤を使用して診断するケースもあり一番有名なものには「バリウム造影」があります。これは主に消化管造影に使用されるもので、腸閉塞(異物や腫瘍によるもの)等を診断するのに役に立ちます。この際はバリウムがどのように消化管内部を流れるかをみます。また尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道)の造影も一般的であり、こちらは血管に入れても問題ない種類の造影剤を使用します。

レントゲン検査は、「超音波検査」「CT検査」「MRI検査」などと異なり、麻酔を必要としません(鎮静は必要な時あり)。また、装置が比較的安価なため多くの動物病院が所有していることもあり、最も一般的な画像診断装置であるといえます。

犬のレントゲン検査でわかること

レントゲン検査は病気の原因を見つける検査ではあるのですが、全体を見渡すような検査でもあるので、レントゲンで異常がないというのも重要な所見になります。レントゲンで異常がないということは、少なくとも臓器の形やレントゲン透過性(色合い)は問題ないという重要な情報になります。この点から、レントゲン検査はスクリーニング検査(病気の子と病気でない子をふるいわける検査のこと)の一つとして位置づけられます。

レントゲン診断で一番イメージしやすいのは腫瘍だと思います。腫瘍の場合は形が正常なものが変化するので、その違いをレントゲンから判断します。また肺炎であれば「形の変化」というよりは「色合いの変化」の違いを判断します。空気を含んでいる肺はレントゲン上で黒くなりますが、肺炎が起こっている肺は正常よりも白くなります。これは炎症が起こるとそこに炎症細胞(簡単にいうと膿)が存在するので空気が入れなくなること、炎症細胞が空気より白く見えることの二つの理由によるものです。

特に咳があるような場合は胸部のレントゲン検査が有効であると思います。咳の原因は、大きく分けると「心臓が関連しているもの」と「呼吸器(気管、気管支、肺)が関連しているもの」に区別されます。また、消化器症状(嘔吐あるいは下痢)があるときに腹部のレントゲン検査は重要です。一番わかりやすいものでは異物の誤食だとは思いますが、消化器症状は多くの原因から起こるので、レントゲンで異常がないかを見ていくことは重要になると思います。

歩き方がおかしい時にも骨のレントゲンが有効な場合もあります。歩行の異常は神経疾患(脊髄あるいは脳)や整形疾患(骨や筋肉)によって起こることが多く、骨の変化であればレントゲンで診断できることがあります。脊椎(背骨)に異常があれば神経に異常を起こし歩行異常を起こすと可能性もありますし、関節炎等からの異常かもしれません。


犬のレントゲン検査の流れ

腹部レントゲン検査を受ける場合は食事していない方がいいですが、通常は何かしら症状があって病院にいきますので前もって準備するという点では特別に意識しすぎなくていいと思います。動物病院では、獣医さんあるいは看護師さんが適切に保定を行ってレントゲン撮影をします。

犬のレントゲンの撮り方

レントゲンは立体のものを平面で描出するので、必ず垂直2方向の撮影が必要です。具体的には、胸部及び腹部レントゲン検査であれば、「右側を下にしたもの」と「左側を下にしたもの」と「仰向けあるいはうつ伏せのもの」の最低3枚が必要になります。胸部レントゲン撮影と腹部レントゲン撮影では、X線の量や質を少し変えて撮影しますので、理想的には6枚のレントゲンが必要になります。これは特に体の大きい子でより顕著になってきます。

例えば肺転移に関しては3方向(右下、左下、仰向け)で撮影した方が2方向(左下、仰向け)に比べて診断率は高くなります(※)。また骨のレントゲンでは「罹患肢」(異常があると考えられている側)と「正常肢」を必ず撮影します。正常側と比べることで診断するためです。骨のレントゲンであれば垂直2方向撮影が必要なので、3〜4枚のレントゲンが必要になります。

※:SENSITIVITY OF RADIOGRAPHIC DETECTION OF LUNG METASTASES IN THE DOG, JOHANN LANG DR MED VET, JEFFREY A. WORTMAN VMD, PHD, LARRY T. GLICKMAN VMD, DR PH, DARRYL N. BIERY DVM, W. HARKER RHODES VMD M MED SCI, Veterinary radiology and Ultrasound, Volume27, Issue3, 1986 74-78

暴れる場合の対処法

レントゲン検査の撮影時間は非常に短く、長くても20分程度ですが、きれいなポジションで撮影しないと診断価値の低いレントゲンになってしまいます。きちんとしたレントゲンが撮れない場合は鎮静をかけて撮影するのが一般的です。現在、獣医学の進歩に伴い鎮静薬によるリスクはほとんどありません。すぐに覚める薬を使えれば動物への負担あるいは致命的なリスクは麻酔に比べるとほとんどありません。

レントゲンでも異常がない場合はその他の検査、血液検査あるいは超音波検査などが追加で行われることが多いと思います。レントゲン検査にて心臓が悪いことが考えられる場合は心エコー検査、またレントゲン検査から超音波検査やCT検査を必要とする状況もあります。


犬のレントゲンの検査費用

費用に関しては病院によってさまざまで、撮影枚数によって金額が変わる場合と胸部あるいは腹部などの部位別で料金が設定されているところが多いとは思います。一般的に5000円前後のところから、枚数が多くなる、あるいはバリウム造影などが追加される場合は1万5000〜2万円程度まではかかる可能性はあります。鎮静が必要な場合はその鎮静料金も別途かかると思います。

保険の適用について、保険会社によって違いはあると思いますが、基本的には症状があって検査をするので適用となります。

犬のレントゲンの安全性

一般レントゲン検査では被ばく線量はとても少なく、短期間に複数回検査を行った場合でもほとんど影響はないので心配はありません。胎児はX線に対する感受性が高いため、妊娠しているケースでは注意が必要ですが、数回の撮影であれば問題はありません。レントゲン検査は適切に行えば特に被曝を恐れすぎる必要はありません。

レントゲンでは「異常がない」という結果も重要です

レントゲン検査は検査自体でわかることはもちろん重要ですが、外側から広く動物の形態をつかむのに有効な検査となり、異常がないということも重要な所見です。それによりさらに他の検査を組み合わせることによって病気の特定をしていきます。レントゲンの場合、撮影する獣医師や看護師の技術も当然必要ですが、「きちんと評価できるレントゲン写真を撮影するために鎮静薬を必要とすることがある」という点は飼い主さまにも知っておいていただきたい知識です。被曝の問題は常に議論されるところですが、人の医療と同様、注意を払えば決して危険なものではありません。