小池都知事の公約「殺処分ゼロ」は実現できるのか 東京都動物愛護相談センター取材レポ

小池百合子都知事が「殺処分ゼロ」を公約に掲げたことでも話題になった東京都の殺処分問題。先日発表された2016年度のデータによると、東京都内で治療困難や譲渡困難などで行われた殺処分の数(※)は、犬がゼロを達成し、猫は94匹となりました。今年3月には動物愛護相談センターを整備するための基本構想も策定され、殺処分問題への取り組みが加速しています。

※予後不良等、動物福祉の観点から行った致死処分や収容中の死亡を除き、譲渡困難等の理由により行った殺処分の数

犬の殺処分がゼロになりました

そんな東京都の動物愛護行政において中心的な役割を果たしているのが、世田谷区八幡山の「本所」、日野市石田の「多摩支所」、大田区城南島の「城南島出張所」の三つの施設からなる「東京都動物愛護相談センター」です。

今回ペトこと編集部は動物愛護相談センターの「本所」を取材し、所長をはじめとした職員の方々にセンターの取り組みや「殺処分ゼロ」の考え方を伺ってきました。(取材:山本恵太、薄井慧)

なお、ペトこと編集部ではこれまでも全国の動物愛護センターを取材しています。以下の記事もあわせてご覧ください。

最も狭く、老朽化が進む世田谷の「本所」

東京都動物愛護相談センター
東京都動物愛護相談センター本所

東京都動物愛護相談センター本所(以下、本所)は、京王線「八幡山駅」よりバスと徒歩で約20分の場所にあります。小田急線「千歳船橋駅」からの所要時間も同様にバスと徒歩で約20分ほど。どちらの駅からも徒歩では30分程度の距離です。

東京都動物愛護相談センター
環状八号線沿いに立地する本所(写真中央のボートの奥にある建物)

建物があるのは環状八号線の目の前。近くには芦花公園や東京23区清掃一部事務組合の千歳清掃工場があります。住宅街は隣接していないため、犬の吠え声による影響は少ない立地です。しかし敷地・建物ともに十分な広さが確保できているとはいえず、少し離れた場所から本所の建物を見るとその小ささがよく分かります。東京都動物愛護相談センターの3施設の中では、本所が最も敷地面積・建物延床面積の狭い施設です。

東京都動物愛護相談センター
「人と動物の共生をめざして」と書かれた看板が目印

環状八号線に面した壁には「人と動物の共生をめざして」と書かれた看板が。その年季の入り方から、建物の古さが感じられます。本所は、犬舎や猫舎、事務室がある「業務棟」が築43年、庶務部門や医務室がある「事務棟」が築27年と、東京都動物愛護相談センターの施設の中では最も建物の老朽化が進んでいます。

この本所で行われている業務は、大きく分けて以下の4種類。

  • 動物愛護・適正飼養の推進に係る業務:動物教室の開催、飼育相談の受付など
  • 動物の保護・収容と管理に係る業務:犬の捕獲・収容、犬猫の引き取り、飼養管理、譲渡など
  • 動物取扱業者の監視指導に係る業務:動物取扱業者の登録・監視指導など
  • 動物に関する危機管理に係る業務:災害対策、特定動物逸走時の対応など

いち拠点として23区西部地域の管理を担当しながら、東京都動物愛護相談センターの中心施設としての役割も担っています。

犬舎は1匹ごとの個体管理

今回は東京都動物愛護相談センターの金谷和明所長にご案内いただき、施設内を見学しました。

東京都動物愛護相談センター
東京都動物愛護相談センターの金谷和明所長(金谷所長は獣医師でもあります)

……と、見学を始めたその時。犬舎がある建物に1台の車が乗り入れ、周りの様子が一気に慌ただしくなりました。2階の事務室から何人もの職員の方が駆け降りてきます。偶然にも、犬が保護されて運ばれてきたのです。職員の方によると、「地域の方が見つけて警察に保護され、そこからうちに運ばれてきました」とのこと。運ばれてきた犬を確認する職員の方々が全員そろうと車庫のシャッターが降ろされ、保護された犬が車から運び出されました。保護された動物の脱走はあってはならないこと。必ずシャッターを降ろし、安全を確認して動物を移動させます。

このとき保護された犬もそうですが、動物が運ばれてきた時はまず状態確認の作業が行われます。性別、体重や毛色など外見の特徴、健康状態を確認するとともに、鑑札やマイクロチップの有無など所有者情報を確認し、「収容動物情報」ページに載せるための写真を撮影します。このタイミングで撮影するのは、保護時の状態を保つことで飼い主が探している動物を見つけやすくするためです(ただし、負傷が激しい場合はページへの掲載を控えます)。そして負傷や汚れがある場合は処置を行います。23区地域では負傷動物の収容と治療を城南島出張所で行っていますが、緊急で本所に収容する場合は、城南島出張所に移送する前に最低限の応急処置を施します。

動物愛護相談センター

清潔にしても臭いが強烈な犬舎

収容時の処置が済むと、保護された体の大きさに合わせた種類別の犬舎に収容されます。先ほど保護された犬の収容が終わるのを待って、こちらの犬舎も見学させていただきました。

最初に案内されたのは大型犬舎。入り口のドア越しではまったく分かりませんでしたが、ドアを開けていただいた瞬間に強烈な匂いが鼻をつきます。臭いは強烈なものの、床の掃除や窓磨きなどは毎日欠かさず行っているとのことで、床、窓ガラス、壁、天井など、建物の年季を感じさせないほどに清潔さが保たれていました。

東京都動物愛護相談センター
大型犬舎(提供:東京都動物愛護相談センター)

臭いは、長年の経過で建物そのものに染み付いてしまっていることと、脱臭装置が古すぎて修理できない(修理用の部品がない)ため、なかなか解消できないそうです。エアコンは完備されており温度の調節は問題なくできるのですが、収容される犬にとってもその世話をする職員の方々にとっても、この臭いはつらそうです。

取材時の収容密度は、1部屋あたり1匹。保護数が多かった時代はこの部屋の中で複数頭をまとめて飼育する群飼育をせざるを得なかったそうですが、近年はさまざまな取り組みにより保護数そのものが減少してきているため、ゆとりをもって収容できています。現在は1匹ごとの個体管理を原則としているそうです。

本所にはドッグランなどの広い運動用スペースはありません。外に出られる状態の犬は職員の方が散歩に連れ出したり、敷地内の「ふれあい広場」に出してあげるそうです。人がいるところに慣れさせる訓練として、職員の方々が集まっている事務室に連れて行き、人に慣らすトレーニングも行われます。

東京都動物愛護相談センター
屋外に設置されている「ふれあい広場」(提供:東京都動物愛護相談センター)

猫舎はスペース不足が深刻化

続いて猫舎も見学させていただきました。こちらは犬舎と比べてもかなりスペースが不足しています。譲渡用の猫舎は成猫の収容でいっぱいとなりスペースが足りないため、子猫は医務室で検疫しています。しかし、「譲渡用の猫舎は収容されている犬のトリミングにも使うので、その時は猫を事務室に移すんです」と職員の方。スペース不足は深刻なようでした。

東京都動物愛護相談センター
猫舎(提供:東京都動物愛護相談センター)

医務室には備え付けのケージがないので、個別ケージを使って収容しています。譲渡用の猫舎と医務室では、子猫の「ミャー」という鳴き声がたくさん聞こえてきました。取材時(2017年6月)は、成猫よりも子猫の収容数の方がずっと多い状況でした。

離乳前の子猫は3~4時間おきにミルクを与えないといけないため、職員の方々やミルクボランティアの方々が協力して世話をしています。ミルクボランティア制度は今年の4月から本格的に導入しており、登録人数はすでに約20人にのぼるそうです。子猫をいったんミルクボランティアの家庭に移し、ミルクやベッドシーツ、哺乳瓶などの物資をお渡しした上で、離乳までの世話をお願いしています。以前から離乳前の子猫を引き取ってくれる保護団体もいたそうですが、この制度が開始されたことにより、そういった団体にも物資の支援ができるようになりました。

猫は警戒心が強いため、子猫はもちろん成猫にも飼育の難しさがあります。人が来ると固まってしまったり、人に対する攻撃性が強かったりと、心を開くのに時間がかかる猫も多いそうです。

所長に伺う、「殺処分ゼロ」の誤解と本当の意味

東京都動物愛護相談センターの大きな役割の一つとして、「動物の保護・収容と管理」があります。飼い主からの直接の引き取りのほか、拾得者からの引き取り、捕獲(東京都動物愛護相談センターでは犬のみ行っています)などで、センターにやってきた動物たちは一定期間保護した上で、飼い主が見つかれば返還、見つからなければ個人、登録団体(※)への譲渡を試みます。

※登録団体への譲渡は、団体の飼養状況などを確認した上で行われます。

しかし、保護されてすぐ状態が悪化して死んでしまう動物もいますし、重篤な感染症を発症したり、著しい攻撃性を持っており人と一緒に暮らすことが不可能だったり、「生きている限り著しい苦痛から解放されない」ほど健康状態が悪くなってしまってしまい治療が困難だったりで、譲渡することが難しい動物もいます。その場合は、最終的に致死処分せざるを得ないこともあります。

「私たちは殺処分数(治療困難などにより譲渡することが難しいため殺処分を行う数)をゼロにできるようにさまざまな取り組みをしていますが、あらゆる死亡数をゼロにするのはまだ難しい状況です」と金谷所長が話します。前述の通り、健康状態の悪化などで死亡してしまう動物や、苦痛から解放するために致死処分せざるを得ない動物たちがいるためです。まずはセンターに収容される動物の数自体を減らしていけるように根本的な対策を取っていくこと、そして動物をできるだけ譲渡することが大切だと語りました。

殺処分問題における一つの問題として、飼い主が「自分の飼う動物に責任を持つ」という当たり前のことが徹底されていないという現状があります。そのためセンターでは、動物教室や事業者の監督、普及啓発の活動にも取り組んでいます。そして、さまざまな理由でセンターに引き取られた動物に関しては、1匹1匹を手厚くサポートし、可能な限りセンターに収容している間の生活の質(QOL:quality of life)を上げられるようにしているのです。

2016年度致死処分数の内訳(単位:匹)
その他(※2) 合計
1:動物福祉等(※1)の観点から行ったもの 1 205 0 206
2:引き取り・収容後死亡したもの 10 287 0 297
3:1、2以外の致死処分 0 94 0 94
合計 11 586 0 597
東京都福祉保健局資料「平成28年度致死処分数の内訳」より。表の中の数値は東京都全体(保健所政令市の八王子市と町田市を含む)のもの
※1:苦痛からの解放、著しい攻撃性、衰弱や感染症によって生育が極めて困難
※2:いえうさぎ、にわとり、あひる

最新版の2016年度のデータでは、東京都は犬の「1、2以外の致死処分」数ではゼロを達成しています。小池都知事が宣言した「殺処分ゼロ」は、こちらの数を指しています。そのため、犬に関しては目標が達成できたということになります。しかし猫の「1、2以外の致死処分」数は94匹です。東京都の猫対策は、繁殖のコントロールや室内飼育、そして身元表示などを呼びかける「猫の飼い主への対策」と、地域で取り組む「飼い主のいない猫への対策」の二つの軸で行われており、引き取り数も確実に減少してきているそうですが、まだ「ゼロ」の達成はできていません。

小池都知事が昨年開催されたアニマル・ウェルフェアサミットで宣言した「殺処分ゼロ」という言葉は、キャッチーで分かりやすくも聞こえる一方、誤解を招きやすい言葉でもあります。小池都知事は、致死処分の合計の数である「597」をゼロにすると言っているのではなく、やむを得ず致死処分を行っている数を除いた数、つまり2016年度では「94」となっている部分をゼロにすると言っているのです。

これまで「東京都動物愛護管理推進計画」(ハルスプラン)では誤解を生む可能性を懸念して、あえて「殺処分ゼロ」とは宣言せず、「致死処分数のさらなる減少」と表現していました。現在は都民の関心の高まりを受けて、さらに統計を分かりやすく見せたり、説明する機会を設けたりするなど、誤解を防ぐための対策を行っています。

東京都動物愛護相談センター
道路沿いには譲渡引き受け者募集のチラシも

この記事の冒頭でも紹介した通り、今年3月には「動物愛護相談センター整備基本構想」も策定されました。東京都の近年の状況をふまえた上でセンター各施設の再整備が検討されており、本所の移転計画も明記されています。現段階では具体的な整備スケジュールは発表されていませんが、東京都の動物保護環境のさらなる改善に向けて注目が集まっています。計画の詳細が分かり次第、ペトことでもお伝えします。

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