猫のリンパ腫を腫瘍科認定医が解説 初期〜末期の症状や長生きさせるための治療法まで

猫のリンパ腫を腫瘍科認定医が解説 初期〜末期の症状や長生きさせるための治療法まで

リンパ腫は、リンパ球が骨髄以外のいろいろな場所で増殖する悪性腫瘍です。猫の腫瘍としての発生率は高く、年間10万匹当たり200例(人の20倍)と言われています。リンパ球は全身を循環しますので、たとえ一カ所でもリンパ腫が見つかると、全身にがん細胞が広がっている可能性があります。このため、他のガンと違い、抗がん剤を使っての治療がメインとなる腫瘍です。リンパ腫の多くは悪性(高悪性度リンパ腫)で、治療をしなければ早期に死に至る病気ですが、さまざまなタイプが有るため、診断法と治療法には多くのバリエーションがあります。この記事では、一般的な「高悪性度リンパ腫」について、浜松家畜病院院長の武信が、早期発見するためのチェック法や、標準的な治療を解説します。

猫のリンパ腫とは

正常なリンパ球は免疫細胞で、ウイルスなどから体を守る働きをしています。この細胞は全身を巡りながら、いくつかのポイントに集まって仕事をしています。よく知られているポイントは「リンパ節」で、その他「胸腺」「消化器」「皮膚」なども挙げられます。

リンパ腫は、このリンパ球の腫瘍ですが、日頃からリンパ球の集まっている上記の部位(リンパ節、胸腺、消化器など)によく発生します。その発生部位によっても治療法が異なりますので、どこにできるかによって「解剖学的分類」がされています。

解剖学的分類ってなに?

リンパ腫は発生する場所の違いにより、いくつかの型に分類されています。猫では、
  • 前縦隔型(胸の中に塊ができるタイプ)
  • 多中心型(体中のリンパ節が腫れるタイプ)
  • 消化器型(腸に病変ができるタイプ)
  • 皮膚型(皮膚病ができるタイプ)
などがみられます。

幼猫での猫白血病ウイルス(FeLV)感染に関連した前縦隔型や、多中心型は、2~4歳の若齢発生が多いグループです。老齢発生のものは消化器型リンパ腫(腸や腹腔リンパ節が腫れるタイプ)が最も多く、これは嘔吐、食欲不振などで来院した際に検査によって腹腔腫瘤が発見されます。

猫免疫不全ウイルス(FIV)感染猫の老齢期にも、消化器型リンパ腫がみられます。

解剖学的分類 頻度 年齢 FeLV陽性率
前縦隔型 20〜50% 若齢 80%
多中心型 20〜40% 若齢 50%
中枢神経型 5〜10% 若齢 <10%
消化器型 15〜45% 中高齢 30%
皮膚型 <5% 中高齢 <10%
腎孤立型 5% 中高齢 50%

猫のリンパ腫のステージ分類

重症度はステージで分類することができます。犬と同じくWHO分類を使用するのが一般的ですが、猫では解剖学的分類がさまざまのため、以下の臨床ステージング分類も参考にされます。ステージが高いほど予後が悪い(生存期間が短い)と言われています。

「猫のリンパ腫の臨床ステージ分類 Mooney,1986.」
ステージⅠ 1個のリンパ節または単一の腫瘍に限られる(胸腔腫瘍含む)
ステージⅡ 複数のリンパ節または腫瘍の限局性病変(横隔膜を越えない)、または切除可能な消化管腫瘍
ステージⅢ 全身のリンパ節に波及している(横隔膜を越える)、または広範囲の切除不能な消化管腫瘍
ステージⅣ 肝臓、脾臓に浸潤しているステージⅠ~Ⅲ
ステージⅤ 中枢神経、骨髄に浸潤しているステージⅠ~Ⅳ

リンパ腫にかかりやすい猫種・年代

リンパ腫にかかりやすい猫種と年代を解説します。

猫種

シャム猫

発生リスクの高い猫種はシャムなどが挙げられますが、すべての猫種に可能性があります。オスのほうが(外出する子が多いためか)好発すると言われています。

年齢

好発年齢には二つのピークがあります。猫白血病ウイルス関連性のものは若齢猫(2~4歳齢)にピークがあり、猫白血病ウイルスが無関係のものは老齢猫(11歳)で発症がピークを迎えます。昔は猫白血病ウイルス感染猫が多かったので若い猫の病気でしたが、近年、ワクチン接種の普及と室内飼育が進んだため、老齢猫に多い病気といえます。


猫のリンパ腫の症状

猫のリンパ腫の症状を初期から末期と血液症状にわけて解説します。

初期症状

現在、猫で最も発生の多い消化器型リンパ腫では、食欲不振・体重減少嘔吐下痢などの症状から気付くことがほとんどです。まれに、全く症状がないまま進行することもあり、「お腹を手で触ったらしこりがある」と来院されることもあります。

末期症状

全身で腫瘍細胞が増殖すると、命に関わるさまざまな症状が見られます。消化器型リンパ腫では、食事ができなくなり、下痢などの症状が急速に悪化をします。また、お腹の中で腫瘍が破裂すると、腹膜炎を起こしてしまいます。その他、多い症状は下記の通りです。

  • 血液症状:血液の異常が進行して、貧血や発熱、敗血症を起こします。
  • 消化器症状:肝機能の異常や腹腔リンパ節による圧迫から、嘔吐・便秘が見られます。
  • 呼吸器症状:リンパ腫が肺浸潤したり、誤嚥性肺炎を起こしたりすることがあります。
※抗がん剤治療中に免疫力が落ちて肺炎になることもありますが、この場合は早く気付ければ、治療によりほとんどが治癒します。

猫のリンパ腫と症状の似た病気・合併症

リンパ節が腫れる疾患には炎症(腸炎・鼻炎など)、感染症(真菌・細菌・ウイルス等)などもありますから、動物病院ではこれらの病気との鑑別診断を行います。

消化管の腫瘍には腺癌・肉腫などもあり、治療方針がまったく変わるため、注意が必要です。また、猫の消化器型リンパ腫に似た病気として炎症性肉芽腫がありますが、以前はあまり解明されていませんでした。近年では病理検査によって「好酸球性硬化性線維増殖症候群」と診断されるようになりました。これは、免疫抑制治療で改善することができる病気です。

猫のリンパ腫の原因

リンパ腫に、明らかな一つだけの原因というものはありません。リンパ腫に限らず「がん」は遺伝子にキズがついて発症しますが、これにはさまざまな要素が関係しています。ウイルス感染・放射線・紫外線・ある種の薬剤・ホルモン・炎症性の疾患・加齢など、複数の要因が重なって発病すると考えられています。近年では受動喫煙のリスクも指摘されています。


猫のリンパ腫の検査・診断方法

リンパ節の腫れを見つけたら、歯周病などによる炎症なのか、リンパ腫なのかを調べます。腫れたリンパ節に注射針を刺して、わずかな細胞を顕微鏡で観察する検査(細胞診)を行います。この検査は痛みも少なく、その場で結果が解るため、早期に治療を始められます。

細胞診で診断がつかない場合、組織を一部切り取り(切除生検)、病理検査を行います。近年では針生検と遺伝子検査を組み合わせた方法(クローン性解析)も利用されます。

猫のリンパ腫の診断方法
触診 全身を触診し、リンパ節の大きさ・固さ・形・周囲組織との関連性、各種内臓の大きさや、腹腔内のしこりの有無を調べます。
血液検査 血液中の異常リンパ球の有無を調べ、治療に先立つ全身状態の把握のために実施します。
レントゲン検査 胸腔、腹腔臓器の状態(大きさ・位置)、リンパ節の大きさを調べます。
超音波検査 腹腔内臓器・リンパ節の状態を検査することができます。レントゲンでは分からない、臓器や腫瘤の内部構造・血管構造等が分かります。
細胞診 腫大したリンパ節や異常な臓器に、針生検を実施して異常リンパ球の増殖を確認することで速やかに診断が可能です。
病理検査 細胞診で診断が付かない場合には麻酔下による切除生検で一箇所のリンパ節を切除して検査をしたり、トゥルーカット(瞬間的に小さな組織を採取する器具)や開腹手術により臓器やリンパ節を切除したりして病理組織検査に提出し、診断を確定する必要があります。
クローン性解析 遺伝子検査(PCR法)を用いて、リンパ系腫瘍であるか否かを判定します。さらにそれがB細胞型であるかT細胞型であるかが判るので、リンパ腫の予後予測や治療方針の策定に有用です。ごく少量の細胞での検査が可能であり、感度の高い方法ですが、猫では犬よりも診断率が低いとされています。

リンパ腫の細胞診所見
リンパ腫の細胞診所見。中〜大型のリンパ球が増加している

猫のリンパ腫の治療法

リンパ腫の主な治療法は全身治療である化学療法(いわゆる抗がん剤)です。さまざまな抗がん剤がありますが、癌細胞はすぐに耐性を獲得するため、数種類の薬を組み合わせて使用することが必要です。幸いなことに、リンパ腫は化学療法に非常に良く反応します。

治療前には状態の悪かった動物が、抗がん剤治療後には見違えるように元気になり、あたかも完治したかのように見えます。この状態を「寛解」と言います(臨床徴候が消失した状態。いわゆる完治とは異なる)。ただし、癌細胞が見えないだけで、まだまだ多くの細胞が生き残っており、すぐに元の状態まで戻ってしまいますので、状態が改善した後も治療を続ける必要があります。

また、治療が順調に進み数カ月〜数年の間、元気な状態が続いたとしても、いずれ再発は避けられません。これを「再燃」と言います(再び癌細胞が増殖し、発症してくること)。リンパ腫の治療は「寛解」→「再燃」→「再寛解」のサイクルで進みます。通常は、1クール数カ月単位で化学療法を行いますので、治療には飼い主さんの理解と、長期間の治療に備える体力・忍耐力が必要となります。

治療薬の種類

プレドニゾロン(プレドニン)

免疫を抑えたり炎症を和らげたりする薬ですが、リンパ腫の治療においては抗がん剤として用いられます。通常は治療の初期に用いられ、徐々に休薬していきます。

L-アスパラギナーゼ(ロイナーゼ)

リンパ腫の細胞に効果を示しますが、健康な細胞には無毒のため副作用が起こりません。通常は治療の初期や再発時、リンパ腫で弱った体力を回復させる時期に用いられます。

ビンクリスチン(オンコビン)

リンパ腫治療では最も代表的な注射の抗がん剤です。副作用も少なめです。

サイクロフォスファミド(エンドキサン)

リンパ腫では良く処方される抗がん剤です。膀胱炎が起きることがあります。

ドキソルビシン

最も強力な抗がん剤です。副作用として嘔吐下痢、白血球減少が起こります。点滴注射薬であり、数時間かけて投与します。
この他にも、さまざまな薬がリンパ腫に対して効果があるとされています。通常はいろいろな角度からリンパ腫を攻撃するために、2つ以上の薬剤を組み合わせて治療します。薬剤の組み合わせや投与する順番はさまざまな研究者がレシピを公表していて、動物の状態や症状に応じて選択されます(※)

※このレシピを「プロトコール」とよびます。

リンパ腫の治療費・手術費用の目安

初期の診断ではリンパ腫の進行度によって使用する検査内容も変わるため、一概には言えませんが、3万円~10万円(初期検査、点滴、病理検査など含む)まで幅があります。

抗がん剤治療の場合はプロトコールによりますが、治療期間は1クールが平均5〜6カ月間で、その後は順調にいけば休薬します。一般的な治療費の目安としては猫なら週1回の治療が1〜3万円、1クールは総額で15〜30万円になることが多いようです。

猫のリンパ腫の予後

最初の治療の反応が良ければ、(進行度・タイプにもよりますが)1年以上の生存も見込めます。比較的長生きできる要因(予後因子)として以下の三つがあげられています。
  • 臨床症状: 始めの診断で元気消失や嘔吐、下痢といった臨床症状がない場合。
  • 進行度 : 初期(ステージ1〜2)の症例は長期生存できる可能性が高くなります。
  • ウイルス感染 :猫白血病ウイルス(FeLV)感染猫は生存率が低い。
予後因子は以下の通りです。

猫のリンパ腫の予後因子
全身状態 治療開始前に元気消失・食欲不振・嘔吐・下痢・貧血・肺炎などの症状を示している患者は経過が悪い。
臨床ステージ ステージⅠ~ⅢはステージⅣ、Ⅴよりも治療反応が良い。
猫白血病ウイルス感染 猫白血病ウイルス陽性猫は生存期間が短い。
治療反応 最初の治療により、速やかにリンパ腫の消失した患者は予後が良い。
病型 消化器型は縦隔型よりも反応が悪い。腎臓型はさらに悪い。
鼻腔型 鼻腔のリンパ腫は生存期間が長い。
抗がん剤 アドリアマイシンを含んだプロトコールを用いた猫のほうが成績が良い。

治療しなければどうなる?

飼い主さんから「リンパ腫を治療するべきでしょうか?」と言う質問はよく受けます。初期で見つかったリンパ腫は自覚症状がほとんどありませんが、この病気は悪性腫瘍です。ほとんどの場合は、急速に進行して全身の臓器に障害を起こして死亡します。早めに診断を確定し、治療を開始することが重要です。

完治はする?

この病気を完治させることは猫では難しいとされています。発病を抑えることはできても、いずれ再発するからです(人の医療では骨髄移植の技術で完治できる病気ですが、現段階では猫の骨髄移植は技術的に難しいとされています)。ただし、治療をしなければ生存期間は10~99日とされています。化学療法が効けば1年近く生きる子も珍しくありません。これは大変な違いです。なぜなら寿命から考えると、動物にとっての1年は人の5年間に匹敵するからです。

猫のリンパ腫の予防法

まず、ウイルス性リンパ腫の予防があります。現在の日本ではずいぶん感染率が下がりましたが、欧米でに比べると、まだまだ猫白血病や猫エイズ感染症のリスクは高いのが実情です。これらのウイルス感染があると、リンパ腫発症を増加させてしまいます。予後因子の項でも述べた通り、ウイルス感染があると治療に必要な体力が無く、免疫力も低下してしまうため、生存期間も自ずと短くなってしまいます。これらは生活環境に合わせたワクチン接種によって予防をすることができます。

その他のリンパ腫の予防法としては、日頃から、体調の変化(食欲の有無、排便の様子など)をよく観察し、愛猫の体を適度に触っておくことも必要です。 一般的に猫の病気は進行するまでわかりづらい物です。


リンパ腫に良い食べ物・食事の注意点

現時点でリンパ腫に良い食べ物はわかっていません。ただし、既にリンパ腫にかかってしまった動物には、長期の治療に耐えるため、しっかり栄養補給をしてあげる必要があります。抗がん剤治療中は食欲が落ちるため、食事を保温したり、温かいチキンスープをかけたりすることで嗜好性を高める工夫も必要です。

リンパ腫に効くサプリメント

リンパ腫を改善させるサプリメントはありませんが、「βグルカン製剤」(商品名D-フラクション・イムダインなど)は食欲増進効果や免疫増強効果を期待して、抗がん剤治療と併用されることがあります。

早期発見のためにお腹を触る練習から

リンパ腫にはさまざまなタイプがあることがお分かりいただけたでしょうか? まずは、初期の段階で見つける事が重要ですから、お家の猫ちゃんのお腹を触る練習から始めましょう。もしお腹にしこりのような物を感じたら、動物病院で検査をしていただく事をお勧めします。この病気が完治しないと聞いて落胆される飼い主さんも多いのですが、治療がマッチすれば、短期間であっても正常な生活を送ることが可能になります。

治療の際は、以下のことに注意してください。

「治療の目的は何なのか」を考える

残念ながら治療をしたからといって100%治るとは言えない病気ですが、やらないと苦しみながら死んでしまう可能性があります。「完全に治す」ことはできなくても、
  • 美味しい食事が食べられる
  • 好きなように動いたり寝そべったりできる
  • 痛みが無い
……といった当たり前の生活をできるだけ長く保ってあげることも立派な目的ではないでしょうか。後悔しないためにも獣医さんとよく相談をして、最適な治療を選択されるとよいでしょう。

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