NYでペットの同行避難をサポートする新法 「カトリーナ」の悲劇が契機に

NYでペットの同行避難をサポートする新法 「カトリーナ」の悲劇が契機に

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日本では公共交通機関を使ったペットとの避難が整備されている状況ではありませんが、アメリカ・ニューヨーク州では最近、「ペット連れの公共交通機関での避難を許可する」という法律が可決されました。今回はどんな法律なのかや、法律ができた経緯について紹介します。

2018年は北海道地震(北海道胆振東部地震)や台風7号(7月豪雨)、近畿地方に大きな被害を出した21号など、たくさんの自然災害に見舞われた年となりました。ペットの飼い主さんたちの中には、災害時のペットとの避難について改めて考えた方も少なくないと思います。

皆さんは、自然災害があったときに愛犬・愛猫を連れてどうやって避難するか考えていますか? 真っ先に思い浮かぶのは車での避難だと思いますが、都市部では車を持たない方も多く、渋滞や道路の閉鎖などを考えると公共交通機関のほうが移動しやすいこともあります。

「ペットは家族」ニューヨーク州知事が新しい法律に署名

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2018年10月2日、ニューヨーク州の公式サイトが、アンドリュー・クオモ(Andrew Cuomo)知事が「ペット連れで公共交通機関を使って避難できるようにする」という法律に署名したと報じました。クオモ知事は、このことを自身のTwitterで以下のように報告しています。

「今日、緊急事態や避難勧告が出た際、ペットがすべての公共交通機関で避難ができるようにする法律に署名しました。私たちにとって、ペットは家族の一員です。避難する際に、ペットを諦めるよう強制されるということは起こるべきではありません」



クオモ知事が「ペットを諦めるよう強制される」と書いたのには理由があります。ペット大国といわれるアメリカでも、自然災害の避難時に悲しい思いをした家族がたくさんいたのです。

ハリケーン「カトリーナ」が残した悲しい爪痕

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2005年夏にアメリカで発生した超巨大ハリケーン「カトリーナ」は、アメリカ史上最も大きいハリケーンといわれ、日本でも水浸しになる街や激しい雨の様子が連日報道されましたの、覚えている方も多いと思います。アメリカ国内の幅広いニュースを配信するウェブサイト「Daily Beast」によると、このハリケーンでは何十万を超えるペットが家に置き去りにされて亡くなりました(※1)。さらに、「ペットを連れて逃げることができないから」と避難せず家に残り、亡くなった方たちもいました(※2)

カトリーナの悲劇を受けて、翌年のアメリカの議会では「州や地域の災害計画にペットとの避難についても含めるべき」という趣旨のもと、「ペットの避難と輸送に関する基準法(Pets Evacuation and Transportation Standards Act)が制定されました。この法律は「PETS」と呼ばれることもあります。そして、この基準法に一番大きな動きをもって答えたのが、ニューヨーク州でした。

ニューヨーク州では、「緊急事態発生時にニューヨーク市のすべてのアニマルシェルターがペットを受け入れなくてはならず、タクシーなど公共交通機関は避難のためのペット輸送を断ってはいけない」という法律を制定しました。しかし、これはニューヨーク州全体ではなく、ニューヨーク市だけのもの。その後ニューヨーク州を襲ったハリケーン「サンディ」では、犬連れでシェルターへ入居することができずに避難を諦める家族がいたり、ペットがいるために避難しないことを選択する家庭がいたりしたそうです。ニューヨーク州全体でペットとの避難についての法律を見直す必要がありました。

そこで2018年1月3日、ニューヨーク州全体の法律として公共交通で避難できるようにしようという法案が提出され、約9カ月後の10月2日、知事の署名により正式に制定されたのです。

※1:「How Pets Survived Hurricane Sandy」(Daily Beast)、※2:「Superstorm Sandy sends pets scurrying」(CNN)


アメリカ全体で認識されはじめたペットとの避難の重要性

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ペットとの避難に前向きなのはニューヨーク州だけではありません。2006年に先ほどの「PETS」、つまりペットの避難と輸送に関する基準法が制定されて以降、50ある州のうち30以上の州が非常事態における避難プロトコル(規定)に何らかのペットに関する記述を追記しました(2016年現在、ミシガン州立大学調べ)。

例えば、ニューヨーク州と同じアメリカ東部に位置するメリーランド州では、「災害時には、アクセスへのサポートや物理的ヘルプが必要な人たち、ペットと行動する人たちを含む合計30万人を収容できる避難シェルターを設立すること」と、法律の中で明確にペット連れの家族について言及しています。

また、ニューヨークやメリーランドとは反対のアメリカ西部に位置するアイダホ州では、「ペット連れで逃げられないことを理由に避難を断る家庭がある可能性がある」ということに触れつつ、「非常事態には個人、家族、そのペットたちへのケアとサポートをしなければいけない」と緊急時オペレーションプランの中で明記しています。

Twitterのプロフィール画像に愛犬が! 犬好きクオモ知事

今回の法律に署名をしたニューヨーク州のクオモ知事ですが、実は自身もペットオーナー。今年の2月に新しくジャーマンシェパード、シベリアンハスキー、アラスカンマラミュートのミックス犬である「キャプテン(Captain)」を家族に迎えたばかり。実は、知事のTwitterのプロフィール画像にも愛犬キャプテンが写っているんです。

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Captain enjoying the dog days of summer A post shared by Andrew Cuomo (@andrewcuomo) on

最後に、ニューヨーク州の公式サイトより、クオモ知事のコメントを紹介します。

「I'm proud to sign this commonsense, humane legislation to bring comfort to pet owners in times of distress.」

―私は、この常識的で、人道的で、ペットオーナーたちの苦悩を楽にすることができる法律に署名ができることを誇りに思う。

今回はアメリカ・ニューヨーク州のペットオーナーにとって大きな安心へとつながる新しい法律を紹介しました。クオモ知事の言う通り、ペットとの避難が世界中で「常識的」になることを願うばかりです。それまでは、自分たちで愛するペットと安全に避難できるように、災害時のことを考えておく必要がありそうです。