犬猫のヒアリ対策は大丈夫?刺された時の症状や対処法、散歩の際の予防などを解説

犬猫のヒアリ対策は大丈夫?刺された時の症状や対処法、散歩の際の予防などを解説

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日本への侵入が初めて確認されたことで話題になっている「ヒアリ」。人間が刺された場合は激しい痛みとともにさまざまな症状が現れ、重症化する可能性があります。では、愛犬や愛猫たちは大丈夫なのでしょうか? 今回は、ペットがヒアリに刺された場合の症状や対処法、予防法について紹介します。

兵庫・尼崎でヒアリを初確認

ヒアリは、これまでアメリカ(1942年)、オーストラリア(2001年)、台湾(2004年)、中国(2005年)など全世界に生息地域を拡大しており、日本でも特定外来生物に指定されて輸入が規制されていました。しかし今年5月、中国広東省広州市から船で運ばれ兵庫県尼崎市で陸揚げされたコンテナ内部から、日本でも初めてヒアリが確認されました。それ以降、愛知県、大阪府、東京都、神奈川県、福岡県、大分県と全国各地で確認されています。
参照:「ヒアリに関する諸情報について」(環境省) 参照:「ストップ・ザ・ヒアリ」(環境省) 参照:「ヒアリ(Solenopsis invicta)の国内初確認について」(環境省)

ヒアリとは何か

ヒアリは南米原産のアリで、アリ科フタフシアリ亜科トフシアリ属に分類されます。トフシ(十節)という名の通り、触覚が10節あるのが特徴です。学名は「Solenopsis invicta」(ソレノプシス・インビクタ)で、ソレノプシスはギリシア語で「管のようなもの」、インビクタは「攻略できない、強い」という意味を持ちます。漢字で「火蟻」と書かれることもあります。
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ヒアリ(提供:環境省自然環境局)

参照:東正剛(2008)『ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤』海游舎

ヒアリの外見や特徴

ヒアリの体長は2.5mm~6mmで、体は赤茶色、お尻に毒針がありますが、針は見えないこともあります。そのほかに以下のような特徴を持ちます。
  • 複眼は15個以上の個眼からなる
  • 前伸腹節刺(ぜんしんふくせつし)はない
  • 腹柄(ふくへい)は2節(フタフシアリ亜科の特徴)
  • 頭盾前縁(とうじゅんぜんえん)中央に小突起
  • 触覚は10節で先端2節は棍棒状
  • 第三節は幅より長さのほうが長い

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ヒアリの特徴(提供:東京都環境局)

ヒアリと似ている在来種

ヒアリと似た外見の在来種のアリとして、アカカミアリ、ヒメアリ、クシケアリ、オオズアリなどがあります。アカカミアリは毒性は強くありませんが、噛まれるとアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります。

ヒアリとアカカミアリは近縁種で見た目の違いがほとんどありませんが、「頭盾前縁中央に小突起があればヒアリ」と見分けることができます。ヒメアリは触覚が12節で、クシケアリとオオズアリは後胸にヒアリにはないトゲ(前伸腹節刺)があるのが特徴です。ただし、ヒアリでなかったとしてもアカカミアリのように毒性を持っている可能性があります。観察する場合は死亡個体に限って行ってください。
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アズマオオズアリ(提供:東京都環境局)

ヒアリを発見したら

ヒアリは昔から日本にいる「在来種」とは異なり、地上に土を使ったドーム状のアリ塚を作るのが特徴の一つです。塚は農耕地や公園などの開放的な草地・裸地に多く見られます。在来種のアリで地上にアリ塚を作る種はまだ確認されていないため、地上にアリ塚があった場合はヒアリの可能性が高いといえます。ヒアリは攻撃性が強く、塚に刺激を与えると塚から集団で出てきて襲いかかりますので、安易に近付かないようにしてください。

ヒアリは特定外来生物に指定されていますので、国や地方自治体が必要に応じて防除を行うことになっています。そのため、ヒアリに似たアリを見つけた場合は、最寄りの環境省地方環境事務所都道府県の担当部局に相談してください。絶対に触ってはいけません。

関連リンク:環境省・農林水産省「特定外来生物被害防止基本方針」(PDF)

特定外来生物とは

特定外来生物とは、外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)によって、「海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物であって、我が国にその本来の生息地又は生育地を有する生物とその性質が異なることにより生態系等に係る被害を及ぼし、又は及ぼすおそれがあるものとして政令で定めるものの個体」(一部抜粋)とされています。

同法によって2005年に第一次指定種リストが発表され、昆虫類ではアカカミアリ、アルゼンチンアリに並んでヒアリが指定されました。特定外来生物は特別な許可を得ない限り、飼養・保管・運搬・販売・譲渡・遺棄が禁止されており、個人が違反した場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が課せられます。

犬や猫がヒアリに刺された時の症状

ヒアリは「ソレノプシン」(2-メチル-6-アルキルピペリディン)という成分を含む強い毒を持ち、刺された場合、激痛とともに患部が赤く腫れあがり、10〜12時間後に膿疱(膿を伴う腫れ物)が現れます。痒みもあり、全身の症状として発熱やじんましん、激しい動悸が起こる場合もあります。

過剰なアレルギー反応であるアナフィラキシーショックを引き起こすと、短時間で呼吸困難や血圧低下、意識障害などの重篤な症状を生じます。特に注意が必要なのは、ヒアリの毒にはホスホリパーゼやヒアルロニダーゼといったハチの毒と共通するタンパク質を含むことです。ヒアリに刺されるのが初めてでも、過去にハチに刺されたことがあるとアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります。

参照:東正剛(2008)『ヒアリの生物学―行動生態と分子基盤』海游舎 参照:「ストップ・ザ・ヒアリ」(環境省)

犬がヒアリに刺された事例

アメリカのドッグトレーナーAdrienne Janet Farricelliさんが、所属するペットメディア「PetHelpful.com」で愛犬のカイザーがヒアリ(fire ant)に刺された際の話を紹介しています。

カイザーは散歩中、急に地面を転がりだし、震え始めました。アドリアンさんがカイザーの体を確認すると、足をヒアリに噛まれていました。急いで家に連れて帰ると、カイザーは噛まれた箇所を舐め続けました。アドリアンさんは、ペットがハチなどに噛まれた際の応急処置である「重曹を水で溶きペースト状にしたものを患部に塗る」という対処を行いました。そしてカイザーがそれを舐めないように靴下を履かせたそうです。これが効き、痒みは収まりました。しかし、3カ月たっても患部は完全に治っていなかったそうです。

※重曹水を使った解毒法は、あくまで応急処置です。必ず動物病院で診てもらうようにしてください。アナフィラキシーショックには効果がありません。
関連リンク:What Should I Do About My Dog’s Fire Ant Bites?(PetHelpful.com)

【専門家解説】犬や猫がヒアリに刺された時の対処法・応急処置

愛犬や愛猫がヒアリに刺された場合どんな対処をすればいいのでしょうか。ペトこと専門家ライターとして、予防医療を担当していただいてる白金高輪動物病院総院長の佐藤先生にコメントを頂きました。

日本で犬猫がヒアリに刺された事例はまだ存在していません。ですので、あくまでもアナフィラキシー様症状を要する病態に合わせた内容のみさせていただきます。ヒアリは毒性が強いため、刺されたことによりアナフィラキシー様の症状は必ず出ると考えています。

まず、刺された場所を発見できたのであれば、刺された患部から毒性を外に出すことが必要だと思っています。
  • 患部を外側から押し出し、中の毒成分を押し出す(患部を触ることのリスクはあります)。
  • 水道水など綺麗な水で患部を応急的に洗浄する。
  • 患部に熱がある場合は、部分的に冷やす。
その場で出来ることはこのくらいだと感じています。何より、早急に動物病院に行き、アナフィラキシーショックを軽減するための処置を施すことが生存の可能性を高めるといえるでしょう。

【専門家解説】犬や猫がヒアリに刺されないための予防法

予防法についても佐藤先生にコメントを頂きました。
こちらも予防できる薬剤などは日本では知られていません。薬剤以外で刺されないための予防策をとる必要があるということです。動物は地面に近い部分にいることが多く、さらに毛によりどこからでもつきやすいという特性があります。
  • 靴を履く。
  • 足の根元まである服を着用する。
このような予防法を取る必要性が出てくることは考えられます。

ヒアリだけじゃない!愛犬・愛猫のために注意したい虫たち

犬や猫が注意すべき虫はヒアリだけではありません。ペット自身が対策を取ることはできませんので、飼い主さんが十分に気を付けてあげてください。

蚊は人間だけでなく犬や猫も刺します。ペットが刺された場合、アレルギー性の皮膚炎である「蚊刺症」や「フィラリア症」を発症する場合があります。散歩で外に出る機会の多い犬はフィラリア対策が当たり前になっていますが、蚊は室内にもいますので室内飼いの猫でも注意が必要です。

ノミ・ダニ

犬や猫にとって、ノミやマダニは遭遇する機会が多く特に注意したい外部寄生虫です。どちらも寄生して吸血し、アレルギー性皮膚炎を生じたり、マダニの場合はバベシアという寄生虫を感染させることで重い貧血を起こす場合があります。定期的なシャンプーはもちろん、外出の際にダニが多い草むらなどに連れて行かないようにしましょう。

ヒアリを見つける犬がいる?

人の1億倍の能力があると言われる犬の嗅覚ですが(※成分によって異なります)、なんとアリの出す特殊なフェロモンを嗅ぎ分けることができるのです。

台湾で活躍中の「ヒアリ探知犬」

2004年にヒアリの侵入が確認された台湾では、犬にヒアリを探知してもらう「ヒアリ探知犬」が実用化されています。訓練によって、ドーム状に大きく盛り上がる前のヒアリの巣まで見つけることができます。精度もとても高いそうです。

参照: 人犬搭配 機場杜絕蟲蟲危機(台灣動物新聞網)

沖縄県が「ヒアリ探索犬」を検討

2016年度からヒアリを含む外来種への対策を行っている沖縄県では、台湾のヒアリ探知犬の実用化例を参考に「ヒアリ探索犬」の導入を検討しています。
台湾ではヒアリ探索犬が実用化されている。検出力は非常に高く、働きアリのみでも反応する。ヒアリの早期発見のために、この探索犬の技術を活かすことができるのではないかと考え、以下の2通りの方法を検討している:①台湾から探索犬を日本に連れてくる、②日本で探索犬を育成する。

国内でもシロアリ・トコジラミの探知犬が活躍中!

シロアリ駆除サービスを展開するアサンテには、「探知犬チーム くんくんズ」というシロアリ・トコジラミ(南京虫)の探知を専門とするビーグルたちがいます。通常は調査する範囲を人が予想しなければいけなかったり、壁や床に穴を開けて確認したりする必要がありますが、くんくんズならにおいで探知できますので、建物を傷付けることなく短時間で広範囲を調査することができるのです。

犬や猫はヒアリそのものよりアナフィラキシーショックに注意

日本の上陸が確認されてから「殺人アリ」とも呼ばれ世間を騒がしているヒアリですが、実際にヒアリでたくさんの死者が出たという確かな報告があるわけではありません。毒性が強いのは確かですが、注意すべきはヒアリそのものの毒性よりもアナフィラキシーショックです。ヒアリの毒成分が蜂の毒成分と似ていることから、初めてヒアリに刺されたことがなくてもショック症状を起こす可能性があるという点に注意が必要です。アナフィラキシーショックを起こした場合は、適切な処置をしないと死に至る場合があります。

犬や猫は人よりも地面に近い位置におり、散歩中に蟻塚のある草むらに入ってしまうかもしれません。ヒアリの特性を知り、なるべく危険な場所に近付けさせないことが大切です。もし刺されたとしても、冷静に対処することで症状を軽くすることができます。愛犬・愛猫を守ってあげられるのは飼い主さんだけです。正しい知識を身に付けて、楽しいペットライフを送りましょう。