猫ウイルス性鼻気管炎|原因・症状・感性経路・治療法などを感染症担当獣医師が解説

猫ウイルス性鼻気管炎|原因・症状・感性経路・治療法などを感染症担当獣医師が解説

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寒くなると多くなる猫の病気「猫ウイルス性鼻気管炎」。鼻水やくしゃみ、目やになどの症状が特徴的な猫のウイルス病の一つです。原因となる猫ヘルペスウイルス1型は感染力が非常に強く、感染した猫の神経節内に潜伏して病気を再発させる能力のある、とても賢いウイルスです。特に、外に行く猫や多頭飼いの猫、子猫の飼い主さんは、この病気をよく理解しましょう。今回は猫ウイルス性鼻気管炎について、野坂獣医科院長の野坂が解説します。

猫ウイルス性鼻気管炎とは

寝る猫

猫ウイルス性鼻気管炎は猫ヘルペスウイルス1型(Feline herpesvirus-1)を原因とする病気で、「猫ウイルス性鼻気管炎」以外にも以下のようにいろいろな名前で呼ばれることもあります。

  • 猫風邪
  • 猫インフルエンザ(猫のインフルエンザとは病気が異なります)
  • 猫コリーザ(鼻かぜの意味)
  • 猫伝染性鼻気管炎
  • 猫ヘルペスウイルス感染症
  • Feline viral rhinotracheitis(FVR)など


猫ウイルス性鼻気管炎の原因となるヘルペスウイルスの特徴

猫ウイルス性鼻気管炎の原因となるヘルペスウイルスの特徴は、潜伏感染をすることです。生体内に侵入し、特定の臓器や組織に潜伏感染し、宿主がストレスを受けたり、免疫機能が落ちたりしたときに再び活性化・増殖します。その結果、宿主は症状を再発し、さらに他の動物(同種)への感染源となります。この潜伏感染という能力が、病気のコントロールを困難にしています。

猫ウイルス性鼻気管炎の原因となるヘルペスウイルスは人にうつる?

猫ウイルス性鼻気管炎の原因となるヘルペスウイルスは哺乳動物だけでなく、魚類、鳥類、無脊椎動物も含めた各動物から発見されており、その種類は100種以上といわれています。牛、豚などの家畜や犬、猫にもそれぞれの動物に固有のヘルペスウイルスがあり、鯉や牡蠣のヘルペスウイルスは養殖業に経済的な損失を与えます。

ヘルペスウイルスは各動物の固有のウイルスなので、別の種類の動物に伝染することはありません(宿主特異性)。つまり、犬のヘルペスウイルスは犬科動物だけに、猫のヘルペスウイルスは猫科動物だけに感染します。猫のヘルペスウイルスが人や犬に感染することはありません。

猫ヘルペスウイルス1型は、世界中に分布しています。猫がこのウイルスに感染するとウイルスは鼻腔粘膜で増え、結膜、咽頭、気管支などに広がって上部気道炎やヘルペス性皮膚炎、結膜炎などを起こします。

猫ウイルス性鼻気管炎にかかりやすい猫種・年代

チーター

猫ウイルス性鼻気管炎の原因となる猫ヘルペスウイルスは、世界中の猫にみられるウイルスです。猫だけでなく、ライオンやチーターなどのネコ科動物からもウイルスが発見されています。

子猫は重症になることが多いとされており、症状が表面化するのは4週齢から8週齢の頃といわれています。伝染力が強く、潜伏感染したウイルスによって再発することもあるので、多頭飼いの猫の間で長期間流行している場合があります。

猫ウイルス性鼻気管炎の症状

鼻気管炎という名がつく通り、症状として一般的にくしゃみ、鼻水、発熱、沈うつ、食欲不振、目ヤニ、結膜の充血、角膜炎やブドウ膜炎などの眼疾患がみられます。

くしゃみから咳に症状が重篤化したり、細菌感染が併発し、透明な鼻水に膿が混ざったり、肺炎を起こしたりすることで重症化することがあります。食欲が低下し、脱水症状がみられたり、衰弱することもあります。さらに、目ヤニや涙、鼻水が増え、ヘルペス性皮膚炎を引き起こすこともあります。こうした重症化は、子猫に多いとされています。

ウイルスの感受性が高い場合は、ウイルス血症によって全身症状を引き起こし、死亡することもあります。また、まれに口腔が炎症を起こし、よだれを出したり、神経疾患を引き起こしたりすることもあります。

猫ウイルス性鼻気管炎と症状の似た病気・合併症

猫ウイルス性鼻気管炎は以下の病原体の感染が加わり、重症化することがあります。

  • 猫カリシウイルス
  • クラミジア
  • ボルデテラ・ブロンキセプチカ
  • マイコプラズマ
  • ブドウ球菌
  • 大腸菌など

猫ウイルス性鼻気管炎の原因

猫の親子

猫ウイルス性鼻気管炎の感染源や感染経路について解説します。

感染源

猫ウイルス性鼻気管炎の感染源として、感染猫の鼻水、涙、唾液などの体液による飛沫感染や、接触感染が考えられます(外見上、症状を示していなくても、ウイルスを排泄する場合があります)。また、ヒトの手などによる間接的な接触感染も考えられます。

感染経路

同居感染

発症した猫がくしゃみをすることで、分泌物が飛び散ります。その分泌物中のウイルスに接触することで感染が広がります。同居しているネコ同士では、飛沫したウイルスに感染するだけでなく、グルーミングや食器の共有などによる接触感染があります。

潜伏期間は3日から4日です。発症後3日から4日で症状が最も重症となり、二次感染がなければ、3週間以内に改善します。しかし、これだけでは終わらず、発症した猫の神経節にヘルペスウイルスが到達すると生涯にわたり潜伏します。潜伏感染した猫がストレスを受けたり、免疫機能が落ちたりしたときにウイルスは再び活性化・増殖します。その後、猫は症状を再発して、別の猫への感染源となります。潜伏感染という特徴があるため、多頭飼育の猫では、常に流行していることがあります。

母子感染

ウイルスは母猫から子猫へ感染することがあり、「胎盤から感染する場合」と「接触によって感染する場合」があります。潜伏感染している母猫の出産や、授乳、子育てによるストレスでウイルスが再活性化すれば、子猫に感染します。困ったことに症状を出さない母猫も存在します。感染時の子猫の移行抗体が多い場合は発症を引き起こしませんが、少ない場合は発症します。そのため、子猫を飼い始めたときは注意が必要です。

生後1週間までの子猫は、母親からの移行抗体によって発症を免れます。その後、移行抗体は10週齢まで持続しますが、6週齢での移行抗体の保有率は75%であったと報告されています。予防のために移行抗体がなくなる時期にワクチンを注射し、発症を免れる量の抗体を維持する必要があります。

猫ウイルス性鼻気管炎の検査・診断方法

もともと野良猫だった飼い猫、野良猫との接触のある猫、多頭飼いの猫などからくしゃみや鼻づまり、咳などの上部呼吸器疾患、ならびに目ヤニ、結膜炎、涙目などの眼疾患などがみられれば、ウイルス性鼻気管炎を疑います。症状の確認の他に、血液検査や分泌液の染色試験、レントゲンなどの検査を行なうこともあります。

猫ヘルペスウイルス1型感染症の確定診断は、「ウイルスやその一部をみつける方法」と「抗体をみつける方法」の二つがあります。

ウイルスをみつける方法

材料

結膜や、鼻腔、口腔のぬぐい液

検査方法

ウイルスの分離や、ウイルスの一部をみつける(PCR法や免疫蛍光抗体法)検査

検査の問題点

生ワクチン接種直後の猫を検索するとワクチン中のウイルスを検出してしまうため、診断には注意が必要です。遺伝子をみつけるPCR法は、ウイルス分離よりも短時間で検査結果が出るため、利用されることが多い方法です。しかし、感度が良すぎることから潜伏感染の猫でも陽性になるため、発症中なのか、潜伏感染なのかを区別することはできませんので注意が必要です。最終的には、臨床症状と合わせて総合的に判断します。

抗体をみつける方法

材料

血液中の血清や、眼房水、脳脊髄液などを準備物として検査を行ないます。

検査の問題点

自然感染やワクチン抗体によって抗体陽性率が高いため、また、比較するための材料が揃わないため、正確に感染抗体と判断することが困難な場合があります。

猫ウイルス性鼻気管炎の治療法

子猫

二次感染が重なることなどで重症化してしまえば、自然治癒することは少ないため、早めに動物病院へ行って治療の相談をしましょう。

ウイルスに対する特効薬はないため、治療は基本的に対症療法を行ないます。鼻づまりや口内炎などで食事を食べれない猫には、栄養補給や食欲の増進を試みます。脱水がみられれば補液し、二次感染の予防のために抗生物質の投与などの治療をします。

治療薬の種類

推奨される抗ウイルス薬は次の通りです。

  • イドクスウリジンやトリフルリジン、ガンシクロビルの点眼
  • アシクロビル、ヒトIFN-α、L-リジンの経口投与
  • ネコIFN-ωは検証が必要であるが、用いられている

猫ウイルス性鼻気管炎の治療・手術費用の目安

診断の際に血液検査やレントゲン、分泌液の検査、ウイルスの関与を調べる検査などを行なうこともあります。治療の際には補液や、電解質の補正、強制給餌、抗生物質や点眼薬、眼軟膏、抗ウイルス薬などを使用することもあります。眼疾患が重症化し、治療が長引くだけでなく、手術を必要とする場合もあります。

このように、診断のための検査、治療や手術は、いろいろとあり、それぞれの猫で種類や回数が違います。そのため、費用の目安は数千円から数十万円と幅広くなります。

猫ウイルス性鼻気管炎の予後

この病気は重症化すると、死亡率は低いのですが、命に関わることがあります。そうならないために、早めに動物病院でみてもらいましょう。潜伏感染の場合は再発するため、生涯にわたって観察する必要があります。

猫ウイルス性鼻気管炎の予防法

多頭飼いの場合や感染猫が同じ環境にいる場合、飼い猫が外出する場合には、ウイルスに感染する可能性がありますので、飼育環境の見直しが必要です。感染猫と非感染猫は隔離し、食器やトイレの共有を避けましょう。

国内にはこの病気のワクチンが市販されていますので、毎年1回のワクチン注射を行ないましょう。ワクチンを注射しても、潜伏感染していれば、発症する可能性があります。しかし、発症をおさえる予防を期待できます。また、感染の予防は期待できませんので、感染源との接触を絶つことも予防として大事なことです。

猫ウイルス性鼻気管炎は、寒くなり空気の乾燥する冬に多くみられるので、保温や保湿に気を配りましょう。症状がみられたら、早めに動物病院へ連れて行き、獣医師と治療の相談を行なうことで、肺炎や二次感染が加わるなどの重症になる可能性が減ります。


猫ウイルス性鼻気管炎は再発に要注意

猫ウイルス性鼻気管炎の原因ウイルスは猫ヘルペスウイルス1型で、神経節に隠れることができる、とても賢いウイルスです。病気が治った後もウイルスが体内に隠れて、猫の免疫が下がり、病気を再発させるタイミングを待っています。一度罹った病気が治っても、猫がウイルスを持っており、感染源になる可能性があることを知っておく必要があります。そして、毎年のワクチン接種や、似たような症状が出た場合には動物病院へ行き、獣医師と予防法や治療法について、よく相談しましょう。

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