猫カリシウイルス感染症|原因・症状・治療法・予防法を感染症担当獣医師が解説
猫カリシウイルス感染症は、呼吸器症状の他に、口内炎や舌炎、関節炎を起こします。肺炎が続発し、食欲減退が続くと、最悪の場合は死亡することもあります。原因となる猫カリシウイルスはノロウイルスの仲間で、伝播力が強いウイルスです。常温の環境中で1カ月以上、感染力を保持できる能力を持っています。また、猫カリシウイルスは変異する能力を持っており、変異することで一度感染したことのある猫でも何度も感染し、発病することがあります。さらに発病後、回復し、健康に見える猫から1カ月以上、ウイルスを排出する能力を持っています。いろいろな能力を持つ伝播力の強いウイルスなので、大規模の集団になるほど高い感染率を示します。今回は猫カリシウイルス感染症について、野坂獣医科院長の野坂が解説します。
猫カリシウイルス感染症とは
猫カリシウイルス感染症とは、猫カリシウイルスが原因となる猫科の動物の感染症です。ヒトには感染しません。猫3種混合ワクチンの抗原中の病気の一つで、ワクチンで予防することができます。ノロウイルスと同じ仲間の猫カリシウイルスは、伝播力が強いウイルスです。環境中でも生存力が強く、ウイルスは常温で1カ月以上生存できます。さらに、回復後の健康に見える猫からウイルスが1カ月以上排出されることがあるため、多頭飼いの猫での蔓延を止めることは難しいとされています。
猫カリシウイルス感染症にかかりやすい年代
猫カリシウイルスは、世界中のさまざまな年齢の猫に感染するとされています。特に幼猫の移行抗体が減少する時期の生後4週齢から8週齢の時期に発症した場合は重度な症状を示す場合が多く、死亡率も高いです。そのため、子猫の時期に症状がみられたら、早めに動物病院へ連れて行き、獣医師と治療の相談を行ないましょう。
猫カリシウイルス感染症の症状、似た病気
猫カリシウイルス感染症は、ウイルスに感染してから、1~3日間の潜伏期間を経て、発症します。猫カリシウイルス感染症の症状
猫ウイルス性鼻気管炎と同じ上部気道感染症で、症状もよく似ており、くしゃみ、鼻水、発熱、流涙がみられます。猫ウイルス性鼻気管炎と区別するのは難しいのですが、口の中を覗くと、舌や歯茎に口内炎(潰瘍、水泡など)がみられることが特徴とされています。また、肺炎や跛行がみられることもあります。猫ウイルス性鼻気管炎よりも比較的症状は軽いものが多いですが、最近、国外では急性で致死率が高い「強毒全身性の猫カリシウイルス感染症」が報告されていますので、注意が必要です。
強毒全身性猫カリシウイルス感染症
猫カリシウイルス感染症の中で、病原性が強く、全身に病気を起こす病気です。英語では、「Virulent Systemic FCV Disease」と表記されます。米国とヨーロッパで確認されています。全身に炎症反応をきたし、全身性炎症反応症候群(SIRS)、播種性血管内凝固(DIC)や多臓器不全により重篤化し、約7割以上の高率で死亡します。子猫に比べて成猫の方が重度の病気を引き起こします。猫カリシウイルス感染症の原因
猫カリシウイルスに直接または間接的に触れることにより、感染が成立します。ウイルスは、急性の猫カリシウイルス感染症の猫および持続感染猫の分泌物中に含まれています。回復した猫の多くが1カ月以上ウイルスを排泄し、中には数年に渡ってウイルスを排泄する猫もいます。ノロウイルスの仲間である猫カリシウイルスは伝播力が強く、環境中で1カ月間以上という長期間にわたり、感染性を維持できます。猫カリシウイルスは、インフルエンザウイルスのように変異をします。一度、猫カリシウイルスに感染・発症した猫でも回復後に、変異したウイルスに何度も感染し、発症することがあります。大規模の集団になるほど高い感染率を示し、世界中の猫で感染が認められています。ヒトには感染しません。
猫カリシウイルス感染症の合併症
猫カリシウイルスは以下の病原体の感染が加わり、重症化することがあります。- 猫ウイルス性鼻気管炎
- クラミジア
- ボルデテラ・ブロンキセプチカ
- マイコプラズマ
- ブドウ球菌
- 大腸菌など
猫カリシウイルス感染症の検査・診断方法
臨床症状を確認した後に、「ウイルスやその一部をみつける方法」と「抗体をみつける方法」を用いて診断します。しかし、猫カリシウイルスの感染を証明しても、無症状の持続感染猫やワクチン注射後の猫もいるので、診断には注意が必要です。ウイルスやその一部をみつける方法
結膜や鼻腔、口腔のぬぐい液、血液などを使ってウイルスの分離や、ウイルスの一部をみつける(RT-PCR法)検査を行います。検査の問題点
診断の場合、ウイルス分離は時間がかかるため、短時間で診断のできるウイルスのRNAの検出を用いることが多いです。陽性であった場合に持続感染のウイルスであったり、ワクチン中のウイルスであったりすることがあるので診断には注意が必要です。抗体をみつける方法
血液中の血清を使います。検査の問題点
ワクチン注射済みの猫や、自然感染済みの猫は多いので、抗体が陽性であっても判断することが難しいです。さらに、変異したウイルスが抗体検査で用いたウイルスとかけ離れた場合、抗体陽性にならないことがあります。猫カリシウイルス感染症の治療法
特効薬が見つかっていないので、治療は対症療法になります。二次感染を予防するために抗生物質を投与します。脱水症状があれば、輸液を行います。体温や室温の温度管理を行います。食事を食べていなければ、嗜好性が高く、食べやすく、消化の良い餌などを与えます。鼻づまりで嗅覚の消失を疑う場合には、鼻水を拭きり、取り除きます。口内炎による口腔内の疼痛を疑う場合には、歯のクリーニングを行ない、消炎鎮痛剤を投与することもあります。免疫力を高めるためインターフェロンを投与することもあります。
猫カリシウイルス感染症の予後
ほとんどの場合、30日で回復しますが、子猫や高齢の猫、持病をある猫では、生命の危険にさらされることがあります。自然治癒を待たずに、早めに動物病院へ行き、獣医師と相談しましょう。高死亡率の強毒全身性カリシウイルス病を疑う場合には、入院をするなどの積極的な治療が必須と考えられます。
猫カリシウイルス感染症の予防法
猫カリシウイルス感染症を予防するためのワクチンがあり、猫3種混合ワクチンに含まれている病気の中に猫カリシウイルスがあります。ワクチンを注射し、抗体を作れば発症しても症状が軽症で済むことができます。子猫の時期からきちんとワクチンを注射しましょう。感染猫に近づかないことも予防になります。飼い猫以外の猫を触ったときには、必ず手を洗い、飼い猫を病気から守りましょう。猫カリシウイルスは、環境中での生存力が強いウイルスです。アルコールや洗剤ではウイルスは死にません。消毒にはブリーチやホルマリンなどを用います。
猫カリシウイルス感染症に良い食事・サプリメント
汚染されたエサ箱やケージによって、間接的に感染するので注意を図りながら餌を与えます。猫ウイルス性鼻気管炎や猫カリシウイルス感染症に感染し、発症した場合は餌を食べない症状を示す可能性があります。これらの病気が発症した場合、口内炎を患うことがあります。口内炎にならないために、免疫力を強化するサプリメント、歯石の付着や歯肉炎の予防を目的としたサプリメントもありますので、獣医師に相談してみましょう。口内炎で餌を食べない場合、次のようなことを試しましょう。
- 硬いフードからやわらかいフードに変更する。
- 口の中で餌を咬む回数を減らす目的で、フードを細かくしたり、ふやかしたりする。
- 嗜好性のあるフードに変更する。
餌を食べない状態が続くと命に関わることがありますので、早めに動物病院へ行き、獣医師に口内炎の原因を探してもらい、さらに食事やサプリメントの相談もしてみましょう。
猫カリシウイルスは伝播力の高さに要注意
猫カリシウイルス感染症のウイルスは環境中でも長期間生存し、変異を行ない、病気が治った後も感染し、さらに、回復した元気そうな猫からも長期間ウイルスを排泄する能力を持つ伝播力の高いウイルスです。大規模の集団になるほど高い感染率を示し、飼い猫以外の猫を触った後に飼い猫に感染する可能性があることを知っておく必要があります。そして毎年のワクチン接種を欠かさず、似たような症状が出た場合には動物病院へ行き、獣医師と予防法や治療法について、よく相談しましょう。引用文献
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