【獣医師監修】犬の肝臓腫瘍|良性・悪性(がん)の違いや手術・食事療法など治療法を獣医師が解説

【獣医師監修】犬の肝臓腫瘍|良性・悪性(がん)の違いや手術・食事療法など治療法を獣医師が解説

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肝臓腫瘍は高齢の犬でよく見られます。症状が表に出にくく、悪性では重症化してから見つかることが少なくありません。良性との違いや肝細胞がんなどの種類、手術や食事療法など治療法について、獣医師の佐藤が解説します。

この記事を執筆している専門家

佐藤貴紀獣医師

獣医循環器学会認定医・PETOKOTO取締役獣医師

佐藤貴紀獣医師

獣医師(東京都獣医師会理事・南麻布動物病院・VETICAL動物病院)。獣医循環器学会認定医。株式会社PETOKOTO取締役CVO(Chief veterinary officer)兼 獣医師。麻布大学獣医学部卒業後、2007年dogdays東京ミッドタウンクリニック副院長に就任。2008年FORPETS 代表取締役 兼 白金高輪動物病院院長に就任。2010年獣医循環器学会認定医取得。2011年中央アニマルクリニックを附属病院として設立し、総院長に就任。2017年JVCCに参画し、取締役に就任。子会社JVCC動物病院グループ株式会社代表取締役を兼任。2019年WOLVES Hand 取締役 兼 目黒アニマルメディカルセンター/MAMeC院長に就任。「一生のかかりつけの医師」を推奨するとともに、専門分野治療、予防医療に力をいれている。

犬の肝臓腫瘍とは

犬

腫瘍(しゅよう)とは、細胞が自己増殖して塊になった体内の「できもの」のことです。腫瘍には良性と悪性があり、悪性は増殖し続けて転移や浸潤(※)が見られるようになります。悪性腫瘍は一般的に「がん」と呼ばれます。

犬で多い肝臓腫瘍は「肝細胞がん」と「胆管がん」で、肝細胞がんは悪性ですが転移することが少なく早期治療ができれば予後は良好です。腫瘍は細胞そのものががん化する「原発性」と他の部位にできたがんが転移する「転移性」にわかれ、肝臓腫瘍の場合は転移性が多く見られます。肝臓腫瘍の主な種類は以下の表にまとめました。

※浸潤(しんじゅん):がん細胞が周りの組織を壊しながら、水がしみ込むように拡大していくこと。

良性 肝細胞腺腫
肝内胆管腺腫
肝血管腫
肝平滑筋腫
悪性 肝細胞がん
胆管がん
肝血管肉腫
肝平滑筋肉腫
肝繊維肉腫
肝カルチノイド腫瘍(神経内分泌腫瘍)

肝臓腫瘍の好発犬種

肝臓腫瘍は高齢になるほど多くなり、犬の長寿化に伴って発生数も増加傾向にあります。犬種や年齢、性別に関係なくすべての犬で起こる可能性があります。

犬の肝臓腫瘍の症状

犬の背中

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるように症状が表に出にくく、飼い主さんが気づかない間に病気が進行していることが少なくありません。肝臓腫瘍に特異的な症状もないため、多くは健康診断や別の病気の検査で偶然見つかったり、重症化して見つかったりします。

  • 嘔吐
  • 下痢
  • 発熱
  • 黄疸
  • 食欲不振
  • 散歩に行きたがらない
  • 体重減少
  • 多飲多尿
  • 歯ぐきや舌が青白い(チアノーゼ)
  • ぐったりしている

この中でも特に「歯ぐきや舌が青白い」「ぐったりしている」場合は緊急性が高いと言えます。様子見をせずに動物病院へ行くようにしてください。

ピンク色で正常な舌と、チアノーゼで紫色になった舌
ピンク色で正常な舌(左)と、チアノーゼで青白くなった舌

行動の変化がわかりにくかったとしても、体重の変化は数字として出るため病気の早期発見に役立ちます。病院に行った際だけでなく、ご家庭でも定期的に体重測定されることをお勧めします。体重管理の方法は以下の動画でも紹介していますので、参考にしてください。




犬の肝臓腫瘍の原因

肝臓腫瘍ができる原因は明確になっていませんが、遺伝的素因や環境的要因が関係している可能性があります。環境的要因では感染症や発がん性物質の摂取(食事、タバコの煙、大気汚染、薬剤など)、紫外線の曝露や免疫機能の異常などが考えられます。

犬の肝臓腫瘍の治療法

診察を受けるジャックラッセルテリア

肝臓腫瘍の多くは重症化して見つかるか、健康診断などの血液検査の際に肝酵素(ALP)や血糖値の異常から疑われて見つかります。腫瘍が破裂した場合は赤血球数が低下し、貧血となります。肝臓腫瘍の疑いがある場合は、レントゲン(X線)検査や超音波(エコー)検査による画像診断、細胞を採取して良悪性を推定する細胞診検査などを行います。

画像診断では肝臓にできているものが「塊状」か、「多発性」(びまん性)かを確認します。塊状の場合は多くが「肝細胞がん」か「結節性過形成」(肝細胞が肥大化して腫瘍のように見える良性の腫瘤)です。ただし、どちらかの判別は細胞診でも難しく、除去してから組織を顕微鏡で観察する生検を行って確定診断となります。

塊状ではなく多発性の場合は外科手術で除去することが難しく、基本的には対症療法による緩和ケアになります。塊状であっても腫瘍(腫瘤)が大静脈の近くにできている場合など、リスクが高く手術適応にならない場合もあります。そのため事前にCT検査で場所や数、転移の有無などを確認します。

肝臓腫瘍の手術費用

肝臓腫瘍はできた場所によって難しい手術になり、かかりつけの病院では対応できない場合もあります。その場合は腫瘍科を専門で扱っている病院で精密検査を行い、腫瘍の状態を見極めた上で実施します。手術費用は病院や手術内容などによって大きく変わってきますが、50万円前後とイメージしていただければよいと思います。

高齢犬の手術について

肝臓腫瘍は高齢の犬で多く見られるため、手術を行うか、麻酔のリスクも考えて迷う飼い主さんは少なくありません。重症化する前に寿命を迎えることが予想される場合は手術を行わない選択もありますが、ためらっている時間だけ年齢のリスクは上がっていきます。獣医師とよく相談して決めていただければと思います。


犬の肝臓腫瘍の食事療法

PETOKOTO FOODS

肝臓腫瘍が「がん」だった場合は、「糖質制限」を行います。がんが進行すると「悪液質」と呼ばれる栄養失調になりますのでオメガ3脂肪酸の摂取がお勧めです。腫瘍によって肝臓の機能低下がある場合は浮腫や腹水を抑えるための「塩分制限」、肝性脳症を避けるためアンモニアの産生を抑える「低タンパク食への変更」が必要です。

アンモニアの解毒は肝臓だけでなく筋肉でも行われるため、肝機能が低下した犬はバリン、ロイシン、イソロイシンという3つのアミノ酸をまとめた「BCAA」の需要が高まります。BCAAは犬が自分では合成できない必須アミノ酸であるため、サプリメントから摂取することで肝性脳症や栄養不足を抑制できる可能性があります。

がん以外で肝機能の低下も見られない場合は通常の食事でかまいません。十分な栄養が含まれる新鮮なごはんを食べさせてあげてください。

※参照:「肝胆道系疾患の食事管理」(ペット栄養学会誌)

まとめ

ヘソ天する犬
肝臓腫瘍は高齢の犬に多い
悪性でも塊状か多発性かで予後が変わる
塊状を手術で除去できれば予後は良好
肝臓腫瘍は高齢の犬でよく見られ、犬の高齢化にともなって見つかるケースが増えてきました。悪性で多い肝細胞がんは進行が遅く、重症化するまで見つかりにくい一方、重症化する前に寿命を迎えてしまうケースもあります。種類によって治療法が変わりますので、早期に発見し、適切な治療計画を立てることが大切です。