犬も風邪をひくの?原因・症状・人にうつるのか・治療法・対処法などを感染症担当医が解説

犬も人の風邪に似た病気にかかることがあります。人と同じように、寒暖差のある時期や湿度の多い時期は動物たちも体調を崩しやすいので注意が必要です。犬の風邪にはどのような原因があり、治療や予防はどのようにすればよいのでしょうか。今回は犬の風邪について、獣医師の福地が解説します。

犬の風邪とは

ワンちゃんも人と同じように風邪のような症状を起こすことがありますが、実は獣医学の教科書には「風邪」という言葉は載っていません。咳や鼻水を主要な症状とする疾患は、単に「呼吸器疾患」と呼びます。

人の風邪の定義として、日本呼吸器学会は、

一般に鼻腔から喉頭までの気道を上気道といいますが、かぜ症候群は、この部位の急性の炎症による症状を呈する疾患をいいます。

としています。ウイルスや細菌によって引き起こされる上部呼吸器疾患を風邪と考えれば、ワンちゃんによくみられる呼吸器疾患も風邪と呼んで差し支えないかと思います。飼い主さんとやりとりする時なども「犬の風邪」と説明した方がわかりやすいため、本稿では犬によく起きる上部呼吸器疾患を犬の風邪と呼んでいきます。

犬の風邪は人にうつる?

人の場合、風邪を起こす主な病原菌の80%はウイルスだと言われていますが、犬の場合はウイルスや細菌、マイコプラズマなど、原因が多岐にわたります。ただ、ワンちゃんに風邪を起こす原因ウイルスが人に伝染することはありませんし、人の風邪のウイルスがわんちゃんに伝染することもありません。

犬の風邪の原因として考えられる病気

ウイルスや細菌、マイコプラズマなどの病原体によって引き起こされるワンちゃんの風邪のような症状をまとめて、「ケンネルコフ」と呼んだりもします。ケンネルとは英語で「犬舎」(kennel)、コフは「咳」(cough)という意味です。言葉からして、一つの環境でともに過ごす多数のワンちゃんに感染するイメージがつきやすいかと思います。

主な病原体として、犬アデノウイルス2型(CAV)、犬パラインフルエンザウイルス(CPV)、犬ヘルペスウイルス、レオウイルスなどのウイルス、ボルデテラ・ブロンキセプティカ(Bordetella bronchiseprica)などの細菌、マイコプラズマが挙げられます。各病原体に関しても紹介します。

犬パラインフルエンザウイルス

ウイルスによって引き起こされ、人には感染しません。咳、くしゃみ、鼻水を特徴とします。ワクチンで予防できます。

犬アデノウイルス2型

ウイルスによって引き起こされ、人には感染しません。犬伝染性喉頭気管炎を起こすウイルスとしても知られ、咳、鼻水を特徴とします。単独での病原性は弱いのですが、このウイルスと他の病原体の感染によってケンネルコフを引き起こします。ワクチンで予防できます。

犬ヘルペスウイルス

ウイルスによって引き起こされ、人には感染しませんがキツネやカワウソなどでも感染例があり、すべての犬科に感染すると考えられています。お母さんから免疫をもらっていない子犬に感染した場合は死亡しますが、生後1〜2週齢以上に感染した場合は一般に無症状とされています。ワクチンは日本では発売されていません。

ボルデテラ症

細菌のボルデテラ・ブロンキセプティカによって引き起こされます。犬だけでなくさまざまな動物に感染します。咳と膿のような鼻水が特徴的です。犬パラインフルエンザウイルスやアデノウイルスなどと混合感染することで重症化します。ワクチンはありませんが、細菌なので抗菌薬で治療します。

犬が風邪をひいたときの症状

変な顔の柴犬

ケンネル(犬舎)コフ(咳)という通称からも予測できる通り、感染はワンちゃんが多数飼育されているような繁殖場やペットショップで過ごしている時に感染する場合が多くみられます。いずれの病原体の場合も、
  • 繰り返す咳
  • 透明な鼻水

などが多く見られます。免疫力がまだ発達していなかったり、予防接種を打っていなかったり、子犬でみられることが多いです。

元気や食欲などは通常良好ですが、長期化して他の細菌などが感染(二次感染と言います)すると、肺炎に進行してしまうこともあります。細菌が感染してきた場合には、鼻水は透明なものから緑色の膿っぽい形状に変化します。

ワンちゃんの咳というのは人とは違うので「嘔吐をしている」ように見えることもあります。何かを吐き出すように口を開けて地面に「ケハッ」としている時は、嘔吐ではなく咳の可能性があります。病院では咳にしろ嘔吐にしろ都合よくみせてくれないこともあるので、自宅でそういった様子を撮影している動画などがあると診断に非常に役立ちます。


犬の風邪の治療法

軽症の場合は適度な温度と湿度の環境で安静にしていれば7〜10日以内に治癒するとされており、改善があまりみられない時などに入院して大気中より酸素濃度の高い酸素室においたり、二次感染の治療として抗菌剤を与えます。

軽症と治療の必要な肺炎の判断は見た目だけでは難しく、肺炎は命に関わる状態です。筆者としては、飼っているワンちゃんに咳がみられたときは元気食欲があっても病院にかかることをおすすめしています。

肺炎に進行しているかどうかはレントゲン検査で確認することが多いですが、寝ているときの呼吸数(安静時呼吸数といいます)でも呼吸状態をある程度推測することができます。通常は1分間に呼吸回数が35回くらいまであります。熟睡している時にそれ以上の呼吸回数があると、酸素交換に問題が生じている可能性があります。

起きている時では興奮などで容易に呼吸数が多くなってしまうので、病院などで計測することは困難です。飼い主さんがおうちで熟睡している時だからこそ計測できるものなので、もしおうちでワンちゃんの咳がみられたら数えてみてください。診断に役立つことがあります。


犬の風邪の対処法

咳は適度な湿度を与えることによって改善がみられることもあります。お風呂上がりの脱衣所にワンちゃんを5分くらい過ごさせてあげると、ほど良く水分が気管に与えられます。ただ、湿度に弱いワンちゃんは梅雨時から夏季にかけては熱中症にもかかりやすくなります。多くの時間を過ごす空間の湿度は、60%以上にならないように気を付けてあげるとよいでしょう。

犬の風邪は軽度であれば人の風邪のように特別な治療をしなくても改善することがありますが、免疫力の低下している子犬などでは重症化してしまうことがあります。ワンちゃんが咳やくしゃみをしているのに気が付いたら、重症化する前にかかりつけの病院に連れて行ってあげましょう。

犬の風邪の予防法

眠そうなフレブル

犬の風邪の原因となるウイルスのいくつかは、ワクチンで予防することができます。「コアワクチン」と呼ばれる混合ワクチンには、ケンネルコフの原因になる犬アデノウイルス2型、犬パラインフルエンザウイルスが含まれているので予防に有効です。子犬の時に繁殖場やペットショップで感染することが多いので、感染暴露前のワクチン接種は非常に重要だと言えるでしょう。

コアワクチンとは、飼われている状況や地域に関わらず、すべての犬と猫に接種すべきワクチンと規定されています。子犬は生まれてから8〜12週まではお母さんからもらった免疫により感染症から身を守っています(移行抗体といいます)。このお母さんからもらった免疫があるうちは、子犬自身の免疫はまだしっかり働いていないため、ワクチンを打っても効果が持続しない場合があります。

お母さんからもらった免疫が少なくなって自分で免疫をつけれるようになるまでには個体差があります。しっかり自分でワクチンによって免疫力を高めて維持できるようになるまで、頻回に打つ必要があります。生まれて8週目頃に1回目のワクチンを接種し、12週目頃に2回目、そして完全にお母さんからの免疫がなくなっている頃の15週目頃に3回目のワクチンを接種します。

翌年に同じコアワクチンを打つことで免疫応答を強化したり、確実に免疫応答するようになります。それ以降はかかりつけの先生の指示に従って1〜3年ごとに接種してあげてください(再接種以降はメーカーやワクチネーションガイドラインにより接種頻度が異なるためです)。

打ってから、「どのくらいその病原体に対して免疫がついたか」の指標となる抗体価が上昇するまでには2週間くらいかかります。その間は家の周りだけ散歩をしたりするのにとどめ、不特定多数のワンちゃんが集まる場所にはあまり行かない方がよいでしょう。ペットホテルやドッグランの多くは、狂犬病とコアワクチンの予防接種が義務付けられている所が多いので、忘れないように定期的に打ってあげましょう。

コアワクチンによってウイルスが原因となる犬の風邪は予防することができますが、細菌による犬の風邪や、肺炎などは予防することができません。「うちの子はワクチンを打っているから大丈夫」と思っていても、おうちのワンちゃんに咳やくしゃみがみられた時は早めに病院に連れいってあげてください。

犬の風邪は異変に気付いたら早めに病院へ

犬の風邪はいろいろな病原体によって引き起こされますが、引き起こす症状も似ているため診断や治療する段階で一つ一つ鑑別する必要はありません。ウイルスによる犬の風邪では重症化することは少ないとはいえ、肺炎などに進行してぐったりしてから治療を開始したのでは間に合わないこともあります。咳(あるいは吐き出すような仕草)や鼻水がみられたら、早い段階で病院でみてもらうことが重症化させない秘訣かと思います。

引用文献