犬の口腔腫瘍|特徴・治療法・予防法などを腫瘍科認定医獣医師が解説

犬の口腔腫瘍は歯肉から発生するものから口唇や舌から発生するものまで、さまざまです。腫瘍のタイプにも悪性のものから良性のものまであり、悪性度の高いものは顎の骨ごと腫瘍を取ることもあります。口腔内は消化器の始まりで、ワンちゃんがものを食べる際に重要な器官です。今回は犬の口腔腫瘍の特徴や治療・予防法について、遠軽わっか動物病院院長で獣医腫瘍科認定医の田中が解説します。

犬の口腔腫瘍とは

飼い主さまが愛犬の口の腫瘍に気付くきっかけには、口臭やよだれ、口腔内の出血などがあります。直接腫瘤を発見されるケースもあります。見た目や大きさだけでは悪性度の判断は困難で、手術の内容も腫瘍の種類によって異なります。例えば良性の腫瘍で顎ごと大きく取るような手術を選択するのは過剰な手術と言えますし、逆に悪性腫瘍で見えているしこりだけ取るような手術は再発を招き、適切な手術とは言えません。
悪性黒色腫で下顎片側切除を実施した術後
悪性黒色腫で下顎片側切除を実施した術後

通常は治療を開始する前に腫瘤を一部切除し、顕微鏡で観察して診断する病理検査を行います。病理検査を行うためには、通常麻酔をかける必要がありますが、治療方針の決定のために病理検査はとても重要です。この検査の結果によって、手術で治るものなのか、放射線治療や抗がん剤も検討する必要があるのかなどの治療方針を決定します。

犬の口内にできる主な腫瘍

犬の口にできる主な腫瘍として、良性腫瘍の場合は
  • 線維腫性エプリス
  • 骨形成性エプリス
などが挙げられます。悪性腫瘍の場合は、
  • 悪性黒色腫
  • 扁平上皮癌
  • 線維肉腫
  • 骨肉腫
  • 棘細胞性エナメル上皮腫
などが挙げられます。

犬の口腔腫瘍それぞれの特徴

それぞれの口腔腫瘍について、詳しく解説します。

線維性エプリス、骨形成性エプリス

エプリスとは歯肉腫のことで、線維性エプリスと骨形成性エプリスは良性の口腔内腫瘍です。犬でよく見られる腫瘍です。良性腫瘍なので転移することはありません。治療は局所治療で、腫瘍を切除することで通常は治癒します。骨浸潤(※)も起こらないため、通常は顎ごと切除するような大掛かりな手術を必要としません。
※骨浸潤(こつしんじゅん):がん細胞が骨に侵入し、骨を破壊していくこと。

悪性黒色腫(メラノーマ)

犬の口腔内悪性腫瘍で最も多いのが悪性黒色腫です。通常は中高齢で発生し、歯肉周辺、口唇、舌などに発生します。症状は「口臭」「口からの出血」「食べにくそうにする」などがあります。

骨浸潤、遠隔転移を起こすため、非常に治療が困難な腫瘍です。骨を含めた腫瘍の切除や放射線治療などを組み合わせて局所の腫瘍の治療を行いますが、転移が出てくる可能性が高いため局所治療を行った後に、抗がん剤や免疫療法などの追加治療が必要となります。

扁平上皮癌

扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)は、犬の口腔内悪性腫瘍で2番目に多い腫瘍とされています。通常は歯肉組織に発生しますが、舌や扁桃に発生することもあります。症状は「口臭」「口からの出血」「食べにくそうにする」などです。

骨浸潤を高率で起こすため、治療として顎を含めた腫瘍の切除、放射線治療などが必要になります。遠隔転移することは多くないため、局所治療が非常に重要です。しかし扁桃(へんとう)の扁平上皮癌は高率で転移を起こすため、術後も追加治療が必要となることが多いです。

線維肉腫

犬の口腔内線維肉腫は、口腔内悪性腫瘍で3番目に多い腫瘍とされています。通常は歯肉から発生して増大します。硬口蓋(※)に拡がることもしばしばあります。症状は「口臭」「口からの出血」「食べにくさ」などです。

骨浸潤が高率に起こり、病巣も広範囲になりやすいため顎を含めた切除と、放射線を組み合わせて局所の病巣を抑え込む治療が必要となることが多いです。遠隔転移は初期では少ないですが、局所治療中に転移が発見されることもあります。
大型犬で発生することがある高分化型線維肉腫は病理検査だけでは正確な診断ができないことがあり、飼い主さまの稟告(りんこく:どんな状態かの申告)、腫瘍の増殖スピード等を考慮して総合的に診断する必要があることがあります。
※硬口蓋(こうこうがい):口の天井部分の前方3分の2ほどを占める硬い部分のこと。

骨肉腫

口腔内の骨肉腫は犬の顎骨(がくこつ)で発生することがあります。症状は「顎の腫脹」「痛み」「食べにくさ」などです。骨破壊が起こり、転移の可能性もあります。治療は顎を含めた腫瘍の切除や放射線、術後の抗がん剤を組み合わせることが多いです。
切除した下顎
切除した下顎 ※こちらから実際の写真をご覧いただけますが、血や生々しい写真が苦手な方はご注意ください。

犬の口腔腫瘍の予防方法

口腔腫瘍は予防することが困難です。また口の中という限られた場所で腫瘍が大型になり、浸潤や転移を起こし始めると治療は非常に困難になってしまします。しかし早期発見し治療することで、たとえ将来的に転移が起こる可能性があっても十分な治療ができればできる限り快適に毎日を送るようにすることは可能です。中高齢になったら全身の健康診断や口腔内観察など、早期発見のために日々のちょっとした習慣が有効です。

犬の口腔内腫瘍は早期発見・早期治療が大切

犬の口腔内腫瘍の治療はまず腫瘤を見つけることから始まります。口の中はなかなか見る機会が少ない場所なのでどうしても発見が遅れ、発見した時には転移が起こっていたり、広範囲に浸潤してしまっていたりすることが多々あります。口腔内腫瘍は悪性度が高く、治療が困難なタイプのものが多いです。口臭や出血、食べにくさなどが気になる時は早めに獣医師に相談することをお勧めします。

治療開始の前には病理検査、血液検査、時にはCT検査など、さまざまな検査が必要となることが多いです。手術も大掛かりになることがしばしばあります。その上、手術しても完全に治る訳ではなく遠隔転移の可能性があり、抗がん剤などの治療が必要となることもあります。「遠隔転移するなら局所治療はしない」とおっしゃる飼い主さまもいらっしゃいますが、口腔内の腫瘍を放って置くと壊死した腫瘍に感染が起こり、出血も重なってひどい状態になってしまいます。

口腔内腫瘍と診断されたら担当獣医師とよく話しあって、その子と飼い主さまにとって一番良い治療を選択していただきたいと思います。